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俺。戦う

完全不定期更新です

「彼の名はユアン・オールグレン。時期王女であるフィオレ姫の恋人であり、現国王ゴッドフリー様も認めた時期国王有力候補であらせられる方なのですよ」


 場が凍るとはこのことだろうか、誰もが驚愕し何も発することはできなかった。

 それは気配を消し俺達の周囲をぐるりと囲っていたはずであろう憲兵達も同様であったようだ。

 街のトップを殺そうとしていた男が現国王も認める時期国王候補だと聞いて驚かない者がいるだろうか、いやこの世界の事情なんて知識でしか知らないけど、今持ち合わせている知識では驚かない方が可笑しい。

 現に標的であるはずのオクジョウですら驚きを隠せないでいるようだ。

 辺りを見回してみてもオスクラ含めルーズ達も驚愕に表情を変えている。

 だが俺は自然と、それが当たり前であるかのような気持ちになっていた。

 最初は俺自身おかしいなんて考えたものだが、改めて考え直してみると特に違和感もなくすんなりとその事実を受け入れることができた……いや恋人という点は流石におかしいと思ったが、その程度だ。

 剣を力強く握っていた手を緩め胸の前に持ってくる。

 ――こいつのことを、やっとで理解できた気がした。


 空から落下してきた時は普通の――以前の姿だったのだ。それが、目が覚めた途端に20代にまで戻るものか?

 ファンタジーだからありえる。なんて言ってしまえばそれで終わりだろうが、夢幻略奪者なんて意味不明な能力ですら“経験”だけを抜き取るなんて器用なことはできない世界なんだ。それなのに、姿が変わったことを簡単に受け入れられるはずがない。

 ユアン・オールグレン。

 それが俺の、俺が今現在借り受けている身体の持ち主の名前か。

 今はそれだけでも分かれば、それで良い。


 考えを新たにオクジョウを見ると、先ほどまでとは違った目で俺を見ている。

 おそらく、自分の保険やら成り上がり方、この失態を背にどうしてやろうかと考えているのだろうか。

 安心しろ。


 お前は俺かシュナイデンが、必ず殺すから。


 ぶらついていた手を再び柄へと這わせる。

 それは俺の変わらない意志の現れであり、またここで捕まるわけにはいかないという決心だ。

 もしこんなところで、こんなことをして捕まり中央に引き戻されたら、どうなるか分かったもんじゃない。それにシュナイデン達がどうなるか、それも気がかりで、どうしても見捨てることなんかできない。そこにはもちろんオスクラも含まれている。

 そんな俺を見て、ヘラウスの表情は引き締まった。


「それでも、貴方はオクジョウ様を殺すと仰るのですね?」

「当たり前だ。そいつは必ず殺す。絶対にだ」

「っ、なぜだ! なぜ私が殺されなければならない!」


 顔面蒼白のオクジョウが言い放ち、動いた拍子に傷が痛んだのか低く唸った。その光景はあまりにも滑稽で続けてほしい気もしたが、ヘラウスがいる手前そういった発言はしない方がいいかもしれない。

 目障りに思いながらも肩を竦めてみせる。


「さあ? 自分の胸の内に聞けばいいさ」

「きっ……ゆ、ユアン様は時期国王と成らせられる御方でしょう! そんな方がこんな所で問題を起こしても宜しいとお考えなのですか!?」


 今までとは違う口調に少しイラッと来る。

 俺の事情を知った途端に態度を変えるなんて、生前の世界でも好印象は持たれない態度だ。こいつ、なんで街のトップになれたんだ? やっぱり世の中は金なのか?



 オクジョウの言葉を無視し剣を握り――地を蹴った。



 神多夢を全開にし蹴った一蹴りは過去最高のものだと思う。そう思えるほどに周りの景色が吹き飛んだ。

 オクジョウが叫んでいる瞬間が静止画のように見え、脈動持ちであるシュナイデンですら見えなかったのではないのかと錯覚する速度。

 音が跳び、一瞬でオクジョウの前まで接近する。

 豚のように肥え太った体に見ているだけで怒りに震え、見ているだけで吐き気が込み上げる気色の悪い顔。どれをとっても殺す以外の選択肢を与えないような気味悪さは、少しずついたぶろうと考えていた俺の思考を吹き飛ばすには十分だったようだ。

 肩に乗せるように構えていた剣を、今持てる最大限の力と速度をもって振り下ろす。

 それだけでオクジョウ・アバントリアという糞蟲の人生は終わった。

 飛び散る脳漿、噴き出す深紅。切り裂かれ無様な表情のまま裂かれる肉体。


 ――面白い。


 以前では考えもしなかった感情が俺の胸に溢れ出る。

 まるで映画のスローモーションのように流れる時間を脳裏に焼け付ける。

 採血中の血ですら見ることを嫌った俺が、よもや他人の血を見て心躍る日がくるとは、思いもよらなかったよ。

 頭から入った剣は喉や肋骨を切り裂き脇のほうから通り抜けた。

 そこから数秒してから溢れ出る内臓物に血湧き肉踊る。

 剣先を変え再びオクジョウの体に剣を通す。

 それだけで抵抗なく意図も容易く筋肉が切れ血管を切断し反対側から通り抜ける。

 だが俺の怒りは収まらず、抜けた剣を返し、再び剣を振るう。俺の顔目掛け血が飛んでくる。それを浴びながら再び切りかかろうと構えると――


 ビュオウ!


「は?」


 刀身はオクジョウの肉を捕らえることなく空を切った。

 いや、それだけなら別に問題はない。

 問題なのは……俺の位置がシュナイデンの隣、つまり“元の位置に戻っていた”からだ。

 それどころか、三度斬ったはずのオクジョウの体にはなんの傷もなく、数秒前の“元の姿”へと戻っていたのだ。


 一体なにが起きたんだ?


「まったく、フィオレ様が言っていた通り本当にせっかちなのですね」


 暢気な声が聞こえ顔を上げると、その先にはヘラウスがいた。

 彼女はくすくすと笑いながら俺の方を見ている。


「ふふっ簡単にやられちゃったわね」

「……」


 気付くとオスクラが俺の横に立っていた。こいつもなぜか笑顔で見上げてきているのは……流行りか?

 少しムカついたので素っ気なく答える。


「なんだ、俺はてっきり向う側のままでいると思っていたぞ」

「無自覚者を殺すのはあまり好ましいことでないし本当ならそうしたいのも山々なんだけど、こいつら私を捕まえる気があり余ってるみたいだからね。あの人に会うまで、捕まるわけにはいかないわ」

「だと思ったよ」


 こいつが情や仲間意識なんかで動くとか最初っから期待していない。

 それでも俺の所に来てくれたのは、正直に嬉しい。

 だが――


「いいのか? 俺はお前達を騙していたみたいだぞ? 名前も違うし、ほら俺が国王のなんちゃらってやつ」


 俺としては騙している感覚もなかったしそもそも今聞いてやっと思い出したくらいだが、オスクラ達にはどう映っているのかわかりもしない。

 オスクラとの合流もルーズとの買い物もシュナイデンとの食べ歩きも、見方を変えれば軍と繋がっていた俺が手引きし全員を集めさせ一気に捕まえる為だったと思われても仕方ないのかもしれない。そんな、ちょっと考えれば出鱈目だと分かるような憶測が脳裏に焼きついて離れないくらいには、正直、まいっている。

 仲間や友人だと思っていた奴等が、俺の関係者らしい奴等によって窮地に陥っている。

 ほら見ろ、隠れる気を失くしたかのように周りの暗闇から人が次々と現れだした。年齢も服装もバラつきはあるが、大半の奴等が神多夢だ。数も圧倒的に多く20を超えた辺りから数えるのをやめた。

 この時点でオスクラはまともに機能しない。シュナイデンは立っているのがやっとのようだし逆に足枷になる。

 戦えるのは残りの俺とルーズのみ……勝てる気がしないな。


 誰が見てもわかる戦力差に軽く絶望感が襲ってきていた。

 頑張って勝てる相手ならまだ踏ん張ろうともするものだが、こちらの戦力外が半数に対し相手はおそらく万全の状態で待機していた数十人もの神多夢達で、しかも全員が軍で鍛えられた奴等だろう。

 以前にも言っていたが神多夢は数に差が出れば出るほど勝つ見込みは途方もなく薄くなる。そして今回は俺たちより5倍以上は確実にいる。


「……くそっ」


 ヘラウスの態度や言動から察すると、以前から俺たちのことを嗅ぎ回っていたようだ。そうして情報を集めこの場にいるのだから勝てると見込んでのことなのだろう。そうでなければ彼女一人でオクジョウを守ればいい。見当違いならそれで良いが、彼女の十字架は俺たち全員を相手にしても勝てそうな程に厄介なものだろう。

 戦って捕まるか、逃げて捕まるか、その二択だろう。

 ルーズの方を見ると不安そうな顔で俺を見ていた。たぶん、俺も同じような顔をしているかもしれない。

 最悪、俺一人でこの場をどうにかしてオスクラ達だけでも逃げてもらわなければならない。

 みんなを守るように一歩前に踏み出す。

 だが俺の考えとは裏腹にオスクラは俺より半歩、大きく前に出た。


「おい、これは俺のせいで招いた結果かもしれないんだぞ。お前らは早くここから逃げ」

「なに馬鹿言っているのよ」

「は?」


 周りから多勢の神多夢が迫ってきている現状にも関わらずオスクラは俺を見上げ、いつかのようにニヤリと笑った。


「アンタの名前や身分が違うなんてのは前々から知っていたわよ」

「なんでお前が知って……いや聞かないでおこう」

「賢明ね。それに、アンタがどこの誰かさんでも私たちにはどうでもいいことなのよ?」

「は? どういうことだよ」


 たぶんだがヘラウスは俺がこの街に来た時点で監視をしていたと思う。なんせ彼女が現れる時はタイミングが良過ぎた。

 俺がオクジョウを殺すとか考えなくても街を出る以前かその後にでもきっとこういった事態になっただろう。

 しかも、彼女が中央からこんな所まで来たのはきっと俺の、というよりユアンというこの体の主に纏わる件によることだ。そしてオスクラ達は知らぬうちに俺の厄介事に巻き込まれた形になる。

 それを「どうでもいい」の一言で終わらせるなんてできるものか?

 悩む俺を余所目にオスクラはウインクをひとつ飛ばしてきた。


「アンタは考えすぎなのよ。どうあっても私たちはこの場面を打開しなければならない。なら、アンタについてとやかく言うのはその後でも十分なわけよ」

「……ありがたいが、ウインクは似合わないぞ」

「煩いわね……それくらいわかってるわ」


 オスクラの言うことも最もだ。

 こんなところで仲違いを起こしたらヘラウス達に捕まる確立はぐんと上がる。それにオスクラはいくらか事情を知っているようだし、こいつがそう言うなら安心できる。

 しかしオスクラはよくてもルーズ達がどうとうかなんてのは……


「心配しなくてもいいよフウトくん」

「え?」


 声がした方を見るとルーズが俺と一緒に購入した真っ赤な斧槍を構え立っていた。

 しかもシュナイデンもふらふらとした足取りながらも、鎌を地面に刺してなんとか立っていた。


「フウトくん……じゃなくてユアンくんだっけ? まあどっちでもいいけどさ」

「いやどうでもいいわけないだろ。俺に会わなかったらこんなことにならなかったかもしれないんだし……」

「だからっ、そういうことがどうでも良いんだってば!」


 強く突き放すような声に思わず体が固まった。


「フウトくんがどんな身分の人なのかとか、全部失くした私にはどうでもいいことなんだよ。ただ初めて会った日から見てきて、私が知っているフウトくんは人を騙すようなことはしない人だと信じてる。それに今更“たられば”言ったって状況は変わらないし、フウトくんを責めれば状況が変わるわけでもないよね?」

「うっ、まあ……そうだろうけどさ」


 そうなんだが納得がいくわけでもない。責めてくれとは言わないが、せめて不甲斐ない俺に対しなにかしら言ってほしい。そんな簡単に折り合いをつけられては申し訳がない。

 そんな風に考えていると次はシュナイデンから声がした。


「ならフウトが正しいと思ったことをして、私たちはそれに従うだけだから」

「……俺が、正しいと思った行動。か」


 特に怒りも憎悪も感じない今までどおりの声。

 しかし以前の飛んで行きそうな軽いものではなく、芯の通ったしっかりとしたものだった。

 オクジョウへの殺意を露わにした時と同じ声のはずなのに、どこか迷った心を後押しするするかのように思えるその声に軽い感動のようなものを覚える。



 ……ここまで皆に諭されてウジウジ言ってるのもカッコ悪いよな。



 空いた手で頬を叩き己に喝を入れた。

 一番の問題元かもしれない俺が悩んでてどうする。仮に俺の所為だと確定されるのならばこんな事態にさせてしまった俺がどうにかするしかないだろ!


「よしっ! じゃあみんなでこいつらを振り切ってついでに糞豚を殺害。その後は街を出てどこかにとんずらしよう!」

「理性のかけらもない作戦とも呼べないものをよくも簡単に言ってくれるじゃない」

「私としては早く切り抜けてジュースの一杯くらい奢ってくれてもいいと思うんだけどなあ」

「ついでにじゃなくて、しっかり殺してもらわないと困るんだけど」


 それぞれの返事を聞いて俺も力強く頷く。

 空いた手に漆黒の剣を作り出しそれぞれの剣を手にへラウスへと構えた。

 へラウスはオクジョウに刺さっていた剣を抜き終え、その傍らで部下らしき軍服の男が神多夢を使用してオクジョウの治療をしていた。

 肝心の彼女は敵意を隠しもしない俺達を見て柔和な表情が曇る。


「……この戦力差でも戦う気ですか?」

「すまんな。生憎こんなところで捕まるなんてのはまっぴらごめんでな」

「ふう。フィオレ様から聞いてはいたけれどここまで無謀な方だとは思いもしませんでしたよ。その剣を持ったことで自信でもつきましたか?」


 その剣とはへラウスが俺に渡した純白の剣のことだろう。

 だがあれは軽いだけが取り柄の装飾過多な高級っぽい剣と思っていたが、先ほどの言葉からするとなにかしら能力でも付与してあるのか?

 まあそんなことはこの局面を脱してからでいいだろう。


「こんな物がなくても結局こんな選択しかできてないと俺は思うがね」

「いいでしょう。そんなに痛い目にあいたいのなら味合わせてあげます。あとから許しを請いても許しませんからね、エテンレケイスの最弱生さん!」


 へラウスの声を合図に周りの気配が動き出す。

 俺達を中心とした二重の円は、内に脈動と外に深層という形になっているはずだ。

 オクジョウ程の面倒な深層がいないことを祈りながら背を預ける三人へ心の底からエールを送る。

 まずはこの場を生き残る。

 それだけを頭に叩き込み地面を蹴った。


「みんな! 行くぞ!」

本当はここまでウダウダする気はなかったんですが……どうしてこうなった。

なんかTRPGでやたらRPを凝るせいで全く進行させてくれないPLを相手にしているみたいな文章で自分もやる気が無くなry

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