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俺。殺せない事情

完全不定期更新です

 規則正しい足音が広いとは言えない空間に鳴り響く。

 銀髪をなびかせ柔和な表情をとる彼女は美しいと言って差し支えない。

 ただ、俺たちを警戒させるには十分な雰囲気を纏っていた。


「ごきげんよう。オクジョウ・アバントリア様」

「ヘラウス! 貴様っ、なぜすぐ助けに来なかったァ!」

「いえいえ、敵の情報を知るのは大切なことではありませんか」


 ヘラウスと呼ばれた彼女が表情を崩さず話す姿は俺が初めて出会った時と何ら変わらない。だというのに、背中に流れる冷や汗が異様に冷たく感じるのはなぜだ。

 動けないでいるシュナイデンの元へ急いで後退し庇うように構える。

 横目で状態を確認すると立ち上がるくらいには回復しているようだ。シュナイデンは彼女の方を見て顔を驚きに変えた。


「あ、の時の。おねえ。さん?」

「……みたいだな」


 嫌な時に嫌な人に再会したもんだ。

 記憶が正しければ彼女は警備も行っている。街のトップを殺そうとする俺たちは敵で、捕まりでもしたら取り返しのつかないことになりかねない。

 俺はおそらく大丈夫だろう。

 フィオレと繋がりがあるのが強いだろうし幸いにも彼女はフィオレと強く繋がりがあるらしい。なら彼女の手引きで俺はどうにかなるだろう。

 そう、俺だけがどうにかなる。


「いちおう聞くが……シュナイデンはまだアイツを殺したいか?」


 できるだけ優しい声で背後へと声を投げかける。

 すると即座に低い返事が返ってきた。


「殺す。あいつは私が殺す」

「……そっか」


 いつもと違うはっきりとした意志を感じ取り、いつもより握る手に力が入る。

 気が合うな。

 俺だってこんな状況でも殺したくて仕方ない気分だ。

 まだ弱っている心に喝をいれ彼女に剣先を向ける。

 そんな俺に気付いたのかオクジョウとの会話を止めこちらに顔を向けてきた。


「ところで、フウト君はなぜ私に剣を向けているのですか?」

「黙れ。あんたには剣の借りがあるが、俺はどうしてもそいつを殺さなきゃいけない。だから、どいてくれ」


 ヘラウスがそいつと指した方に視線を向け声をもらすと柔和な表情が困惑のものに変わった。


「……フウト君が、オクジョウ様を、殺したいと?」

「そうだ」

「うーん。困ったことになりましたね」


 明らかに表情を崩したスフィーダは顎に手をやり思考する様子を見せる。

 その反応に驚いたのは俺だけではなく……


「どっ、どういうことだヘラウス。なぜ貴様程の者が逡巡している。まさかその賊共に加担すると言うのか!」


 額に青筋を立てたオクジョウが明らかな怒りを交えながら叫んだ。

 完全な味方だと思い込んでいたヘラウスが、俺の殺人予告に対し少しの間でも悩んだのだ。裏切られたと思わずなんととればいい、オクジョウもそう思ったのか感情を微塵も隠さず叫び声を上げる。

 だが当の本人であるヘラウスは今だ考えがまとまらないようで暢気に考え事をしているようで聞いているのかどうかすら怪しい雰囲気だ。

 しかしそれも束の間で、数秒後には最初の時のような余裕の笑顔が浮かんでいた。


「安心してください、貴方は私共がしっかりとお守りしますよ。そうじゃなければ中央の軍人として恥ですし、お嬢様の顔に泥を塗ってしまいますから」


 そう言うが命の危険が危ぶまれるオクジョウには満足のいく返事ではないようで額に浮かんだ青筋は消えることはなく、先ほどと違った罵倒が飛ぶ。


「ではっ、なぜ貴様は考えた! 私の命よりもあの賊共の方が優先すべきものなのか!」


 あまりにも非現実的過ぎる質問に少しクラッと来た。

 街のトップと殺人犯のどっちが優先化なんてガキでもわかる。これだから上の人間は嫌いなんだ。誰でも分かることを然も当然のように聞いてくる。しかも上から目線で罵倒アリ、なによりも何と答えても基本ループ確定で以前は1時間以上も馬鹿なやりとりをしたことがある。

 なんか、もう、こんな労害は話を聞かずにそのまま殺したほうがよくないか?

 そう、ガキでも理解できることだ。

 しかしヘラウスの返答は思いもよらないものだった。

 彼女は眉一つ動かさず、表情もそのままに、それも然も当然のように言いのけた。


「はい、オクジョウ・アバントリア様よりも優先すべきは彼等ですから」

「……は?」


 即答だった。

 あまりにも自然過ぎて間抜けな声が俺の咽喉から漏れ出した。

 コイツハナンテイッタンダ?

 もはやまともな思考を持つ人とは思えない。俺の中にあったスフィーダという美女の像は一瞬にして崩壊した。

 笑顔を顔に貼り付けた彼女とは裏腹に期待とは違った言葉を聞いたオクジョウは豆鉄砲を食らった鳩のような表情になっていた。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐに顔を真っ赤にし今だ剣が刺さっていることを忘れたかのように叫び始めた。


「どういうことだっ! 私はこの街を治める者だぞ! それをっ、あんな賊共と同じ――いや、それ以上と言うのか!」

「はい勿論です」

「これは問題発言だぞ! 貴様はフィオレ姫に仕える者として軍や中央の代表者ではないのか!」

「はい、そうですが。なにか」


 だがヘラウスの返事はあまりにも簡素で呆気からんとしており他人事のようだ。

 笑顔を崩さず非現実的なことを言い続ける彼女に、恐怖にも似た感情が膨れ上がってきていた。

 俺を支持しているような発言が多く見られるようだがどうしてもその異常さに畏れが勝ってしまう。

 冷や汗が額から流れ、乾いた口内に喉を一つを鳴らした。

 真っ赤な顔をするオクジョウとは裏腹に白い肌のままの彼女は笑顔のまま人差し指を立てくすくすと笑った。


「ふふ、そんなに焦らなくとも必ず貴方は私共が死守してみせますから安心してください。まあ、街のトップであるオクジョウ様よりも彼等を優先する理由を知りたければちゃんとお教えしますので」

「では何故だ。なぜ私より賊共を優先しようとした!」

「そうですね……では、まず手を借りて立っている彼女から説明しましょうか」


 そう言って開いた手で示したのはルーズにしがみ付いて立ち上がるシュナイデンだ。

 俺も理由が知りたくて思わず無言になる。


「彼女はシュナイデン・デュック。バグズトロイヤ帝国の上役であるマラ・デュックの愛娘……だった者です」

「マラ・デュックだと! 奴は死んだと聞いていたが……」

「いえ生きていますよ。彼女を売って自分はのうのうと生きているようですね。まあ、それは置いておくとしても彼女は敵対国であるバグズトロイヤ帝国の上流貴族でしたし、その後も多くの重要人物達と接触していたようですので奴等の内部事情については彼女がよく知っているんです。バグズトロイヤ帝国との戦いを早く終わらせるためには彼女の情報は多く役立つでしょう」


 マラ・デュック。その名前を聞いた瞬間、俺の頭は瞬間湯沸かし器にでもなったかのように怒りに包まれていた。

 それはシュナイデンにとって実の親のお名前であり最も憎むべき相手でもある。彼女と同じ体験をした俺自身もその怒りは受け継がれているようで柄を握る手に力が入る。

 俺同様に顔を怒りの色に変えるシュナイデンを無視するようにヘラウスの手が次の相手へと動いた。


「次に彼女、ルーズ・リノマレイジ」


 よもや自分が名指しされるとは思ってもいなかったのかルーズの体が一瞬びくりと揺らいだ。


「彼女もバグズトロイヤ帝国の貴族であるリノマレイジ家の令嬢だった者です。小さな土地を治めていただけのようですが、どうやら裏の方で繋がりがあったようで……ですが、ある日を境に彼等と彼らに関わった全員が『無欲排泄者』になりまして、リイノマレイジ家の生き残りである彼女はバグズトロイヤ帝国の裏を知る唯一の情報源なんです」

「っ、私のことをどこで調べた!」


 今までただ聞いていただけのルーズが叫んだ。

 自分の過去を誰とも知らない他人に勝手に調べられたとなれば叫びたくもなるだろう。

 それよりも、聞き捨てならないことを言っていたな。たしか『無欲排泄者』だったな。

 無欲排泄者は俺の世界で言うなら云わば植物人間のことだ。一人ではなにもできず放って置けばただ出すものを出して勝手に死んでいく……まさに排泄者だ。

 これになった人達は誰であっても見放され相手にされることはなくなる、故に致死率は100%を誇る。この世界で最も悲惨な死に方の一つだ。

 ルーズを残した一家全員が無欲排泄者となったのならば、彼女の旅の理由はそれに関していることなのだろうか。

 しかし、二人がバグズトロイヤ帝国に関していたとは思いよらなかった。しかも敵国であるこの国にまで足を伸ばしているとは誰が考えようか。

 ヘラウスはルーズの声を無視するかのように手を動かし次にオスクラへと向けた。


「彼女が魔女ナトゥーロが作り出した『悪夢の支配者』の一人であるオスクラ。彼女は確実に貴方より優先すべき対象です」

「っだが、しかし……」


 今までの説明を聞きオクジョウの声が小さくなる。

 さすがに国レベルの話となると自分の価値と比べるのはいくら傲慢な彼でもできない話のようだ。

 敵国の情報を持ち尚戦いを有利に持ち込める存在が二人と、一人いるだけで国一つ落とすことも造作ではない存在、ここまでくると一つの街を治める『無自覚者』一人が死んだ程度では問題にもならない。世界的に見ても数少ない神多夢とは違い無自覚者などいくらでもいるのだから。

 だがヘラウスの手はそこで止まらなかった。

 一つ息を吐くと、手をゆっくりと動かし始めた。 


「そして一番の問題なのが――」


 手が止まったのは俺の前だった。

 背後に誰かいるわけもないので俺だとわかるが、思わず背後を振り返ってしまった。

 殺すと言った一番の厄介人である俺も重要だと考えもしなかった。それはオクジョウも同じようで顔を驚愕のそれに変えていた。


「彼の名はユアン・オールグレン。時期王女であるフィオレ姫の恋人であり、現国王ゴッドフリー様も認めた時期国王有力候補であらせられる方なのですよ」

ルーズとフウトの名前は設定が消えたため適当につけました。

ただ設定自体はちゃんと考えていたものなので大丈夫です。ただ、この時に説明するのではなく後々にちょっとずつ小出しにしていくつもりでした。主人公であるフウトの設定なんか私の中では10話以降に出てくる話なんですよね。


まあ設定も消えやる気が消えうせたので1話で終わらせる気まんまんなのでこのまま行く予定です。

今後ともよろしくお願いします。

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