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俺。駆け足

完全不定期更新です

 驚愕し体勢が崩れた俺目掛けて鎌が迫る。

 このまま当たれば即死間違いなしなのは決まっているので何としても避けなければならない。

 ……そうだっ、避けないと!


「んのっ!」


 咄嗟にローブ女に向け手を翳す。

 もちろん脈動の中でもただの身体強化である俺に遠距離攻撃手段など持ち合わせていない。ならば何をするかと言えば――


「借りるぞベジタボゥ!」

「……っ!?」


 一瞬だけだが、ローブ女の動きが止まる。

 その隙を見て無様な格好で鎌を避けきった。

 転がりながらもすぐさまローブを捉える。そこには自分の身に何が起きたのか理解しきれず困惑した様子の姿が映っていた。

 それを見て思わずガッツポーズをとった。


 

 俺が使ったのは自身の神多夢とは別で有しているもう一つの能力『夢幻略奪』だ。

 相手の十字架を奪えるこの能力で、俺が初めて手に入れた能力を発動させた。効果は『体温調整』、初めて戦った異世界人ベジタボゥ・オプテネルが使用していた神多夢。

 未だ一度も使用したことがなかったので一か八かという賭けだったが、なんとか成功することができたようだ。


 だが状況は変わっていない。

 転けるように距離をとり傷の具合を確認する。思ったよりも深くはないようで、血も殆んど出ていないようだ。

 ただ痛みに弱いのはそのままなので漫画の登場人物達のようにこのまま戦闘続行なんてのはまっぴら御免こうむりたい。

 というわけで軽い応急処置を施したいと思う。


「……次はルーズだな」


 記憶の奥底に眠るルーズの十字架を引っ張り上げる。

 といっても条件を満たしていないからか能力を把握しきれておらず当てずっぽうな使い方しかできない。それでも使えるならばと傷口に手を翳してみると、血が止まる程度には癒えたようだ。


 見ると俺の様子を見てローブの女は首を傾けている。

 どうしてこんな現象が起こっているのか分かっていないようだ。

 自分の足に視線を落とすと既に痛みは消えている。少し皮膚が突っ張り動きにくいものの身体能力向上しか能の無い俺には支障無い程度だ。


「よし、お前の神多夢もある程度理解できたし、ここから反撃だ」


 今度こそしっかり両手で剣を持ち、見据えるように構える。

 相手もこちらの動きを見て思考を止め軽く構え直した。前に突き出した両腕からは新たに2本ずつ鎌が生え計6本の鎌が俺へ向けられる。

 お互いが睨み合ったまま数秒が過ぎ去ったあと、先に動いたのはローブの女だった。



 弾丸のように地面から弾き出されると一瞬で距離を詰めて来る。

 勢いをそのままに右手を振るうと3本の鎌がズレた動きをしつつ向かってきた。うちの2本を剣でいなし1本を既のところで避けた。

 そこにもう一方の腕が伸びる。

 即座に上半身を反らすことでこれを回避、お返しにと剣を数度払うがその度に体の至る所から鎌が伸び防がれてしまう。

 お互いがお互いに斬り防ぎ回避する。それでもお互いの距離は遠ざかることなく常に一定の距離を保ったまま硬直している。

 手数の多さではローブ女の方が多い。なんといっても体のどこからでも鎌を出せるというのはかなりの強みだ。俺が体を捻って避けなければならないところを微動だにせずただ鎌を出現させるだけで防ぎきれる。そしてがら空きになった体めがけて腕を振るえば回避も行えずバラバラにされてしまうだろう。

 俺がまだそうなっていないのは夢幻略奪を並行して使い、俺自身の神多夢により上手い具合に体をコントロールできているからこそ避けられていることだ。もし深層のルーズなんかが戦っていたら数手前で肉片に変わっていたことだろう。


「……はぁ!」


 もう何度目かはわからない斬撃。

 しかしこれも鎌により防がれてしまう。そして同じように腕が振るわれ3本の刃が襲ってくる。

 こう何度も同じことをし続けていると相手も慣れてきたのか先ほどより避けにくい位置取りで鎌を振るってきていた。いくら体を捻ろうが退こうが避けられない程度に無理なほどだ。

 いくら名刀を持っていてもこれら全てを1本で対処するのは無理だろうと判断し、俺も今までと違った戦法に切り替える。


 最初の戦闘、ベジタボゥとの戦いでのみ使った能力で夢幻略奪より使用したことがないもので練習もしたことがない。ルーズの時並みにぶっつけ本番のノリでソレを使用した。

 瞬間、辺りに高い金属音が鳴り響く。


「!?」

「よしっ、出来た!」


 右手には振るっていた白の剣、そして左手には光を飲み込むような漆黒の細剣が握られていた。

 一度だけ無意識で使用したことがある能力で自分でもどういった十字架なのか理解していないが、兎も角成功したことに安堵する。

 そのまま力任せに鎌を弾き返し空いた腹に一蹴り。

 もろに直撃したローブ女は小さく息を漏らし派手に転げ回りながら飛び、壁にめり込んで止まった。

 即座に両剣を構えるが相手に動きはない。

 異様な静寂が続く中で、最初に聞こえたのは下卑た笑い声だった。


「は、はははは! 愚か者め、私に楯突いてどうなるか分かっているんだろうな!」

「………」


 命を狙ってきた奴が動かなくなったのを見て安心したのか、オクジョウが次から次へと罵倒を羅列させていく。

 その姿に嫌気が刺して視線を移動させると俺と同じように眉をひそめ嫌悪感丸出しの顔をしたオスクラと目が合った。お互いに考えていることは同じらしく、豚から目を離しローブ女の方を見遣るがまだ動く気配はない。

 代わりに大きな音を出し過ぎたせいか近隣から人の声がし始めている。


「早めに逃げたほうがよさそうだな」

「そうね。早く捕まえて店に行くわよ」

「お前達もだぞ!」


 突然の声に振り返って見てみるとオクジョウが俺達を指さして厭らしい笑みを浮かべていた。


「お前等2人とも神多夢だろう! この私が統治するこの街がどんな街か知っているだろう!」

「……はい?」

「この際だ、中央から来た奴等ごと私自ら直々に……へぶしっ!」

「あ」


 見るとオスクラがオクジョウの顔面を蹴り上げていた。

 オスクラより倍大きい体が数センチ浮くと気持ち悪い声を上げ地に落ちた。

 一瞬の出来事で理解が追いついていないのかオクジョウは顔を抑えながらも首をひねっている。

 ……まあ、脈動ももつオスクラの動きを一般人が目で追えるとは思えないから当然のことだとは思う。

 オスクラというと相当頭にきたのか肩で息をして今にも掴みかかりそうな勢いだ。だがイラっと来たのは俺も同じなので別段止める理由もない。


「っと、復活早いな。もう少し寝てても良かったのに」


 オクジョウから視線を外すと壁から脱出したであろうローブ女がしっかりとした足取りでこちらに向かってきていた。

 両手の剣を構えななおすと後ろで再び寒気のする鳴き声が聞こえる。

 それに応えるようにローブの奥から鎌が伸び、剣を持つ手に力が入った。

 さっきから何か喚いて嫌な奴だがアレでも街のトップだし、むざむざ殺されるのを見ているだけの理由にはならない。


「ひぃ! お、お前達っ、私を守れ!」

「……バカだ」


 この状況でそんなこと言われればローブ女の前に蹴り出したくなってしまう。

 だがその直後に気色悪い悲鳴のようなものが聞こえたので、おそらくまたオスクラに蹴られたのだろう。

 しかしなんだ。漫画ではよくヒロインを背に戦ったりするが俺の場合は汚いオッさんを背に戦わなきゃいかんのか。しかもよく知らない奴だし守っても憲兵に取り囲まれそうだし……ほんと苦労しかないな俺の人生。


「後ろの奴のことを抜きにしてもお前は捕らえさせてもらう。どんな事情があるか知らんが悪く思うなよ」

「………」


 返事を期待していたわけじゃないがこうも無視されると無性に悲しくなってきた。そういや会社でバカの田中にはよく無視されてたな。

 いやいや悠長にしてる場合じゃない。

 こういう緊張してる時に別の考えごとをして平静さを取り戻そうとする癖は異世界に来ても治らないものだ。以前の危険がない世界なら兎も角、今はか弱い童貞すら容赦なく唐突に死ぬ世界。変なこと考えてる間に死ぬとか洒落にならんぞ……ってまた変な方向に思考が進んでれら!


「フウト、前っ!」

「っ、ああもう!」


 眼前に振り下ろされた鎌を剣で受け止めた。

 俺が変なことを考えている間に接近していたらしいローブ女の鎌が再び光る。

 後ろに飛んで避け、足が地に着いた直後すぐさま2本の剣を振るった。

 昔は漫画の真似をしてよく痛い目にあっていたが今は神多夢により殆んど問題なく扱えるようで、何十にも重ね剣を振るう。

 今までとは違い使える手を増えたことで防御だけではなう攻撃にまで手が回り始める。何度か鎌を受け流し、隙ができ次第連続して斬撃を飛ばす。


「はあ! せいっ!」

「……あら、なかなかやるようになっったじゃない」


 オスクラの声を背に何度も両剣を振り回す。

 昔やっていたヒーローショーの真似事を軸に振り回しているだけなので当たることはないが、相手からの攻撃は確実にその数を減らしている。

 時たま鎌が飛んでくるが夢幻略奪を使い軌道をブレさせ避けていく。

 快調というわけではないが最初の時より攻め手を増やせている。この調子のまま増長しないよう気をつけながら紙のように軽い剣を縦横無尽に斬りつけた。


「うぇいっ!」

「……くっ」


 一際大きく斬りつけたところで初めてローブ女から声が漏れる。驚いたことに、それは数本の鎌で襲ってくる姿からは創造もできないほど儚く可憐な声であった。

 構わず両手の剣を束ねて構え力を溜める。

 呼応するようにスフィーダからの剣が光輝き始めた。

 同様に作り出した漆黒の剣が震えだし、太陽の光が届かない路地裏であってもハッキリと視認できる暗黒の靄が噴き出す。

 これにはローブ女も危険だと判断したのか飛んで距離をとった。

 その行動により完全に俺が優勢になったことが決まった。

 思い切ってこちらから距離を詰めるとローブ女は鎌で牽制しながらも明らかに逃げるように一定の距離をとり続けているようだ。

 そして明らかに違っていたのは何もそれだけではなく、俺の剣の切れ味にもかなりの変化があった。

 今までただぶつかりあっていた刃が光を放った現在は少しずつではあるものの、確実に鎌を傷つけている。

 俺は手を休めず斬り続け、傷ついている鎌の中でも最も傷の深い鎌めがけ一気に振り上げた。


「うぅ……!」


 ローブ女の呻き声とともに2本の鎌が宙を飛ぶ。

 ローブのせいでよく見えないが確実に憔悴してきているのがわかる。

 そのせいか、これまでトリッキーな動きをしていた鎌が直線的なものに変わっていた。

 ここまでこれば後は夢幻略奪を使うだけで鎌は後ろへと流れていく。

 避けた勢いのまま横腹に回し蹴りを与える。


「くっ、うぅ」

「っ、そろそろ降参したらどうだ!」

「ま……だぁ」


 いくら殺人鬼だとしても俺に女を痛めつける趣味なんてない。

 それだけに、俺が攻撃を加えていくごとに鈍るローブ女に罪悪感のようなものが浮かび始めていた。

 鎌が光る。

 だがその速度は以前のような脅威は無く、体を軽く反らすだけで再び隙が生まれる。そこ目掛けて腹部と脛を1回ずつ蹴り、突き放すように腹を蹴り上げた。

 ローブ女は数度地面を跳ね、遂に動かなくなる。


「……や、やったのか?」


 そろそろとオクジョウの声が聞こえた。

 地に転がるローブ女を確認してみるが呻くだけで攻撃してくる余裕はなさそうに見える。

 恐る恐る近づき、仰向けにするように鞘で体を転がせると体に目立った外傷はないようだ。まあ、ローブの中までは与り知るところではない。

 だが、そこは重要じゃない。

 戦った相手の体の心配までするほど余裕もないというのも理由ではあるが、なにより今の俺はだいぶ混乱していたというのもあると思う。

 それは体を転がした拍子に苦しそうな顔がのぞいたのが原因だった。


 線の細い顔と眠たげで虚ろな瞳。

 それが今では痛みに耐え脂汗を流し苦悶の表情に変わってしまっている。

 はだけたローブから覗く質素ながらも綺麗な服。

 この街に来て初めて知り合い、共に街を練り歩いた。

 一緒に屋台で飯を食べ汚れた口周りを拭いてあげた。

 共に猫の親子を餌を与え見送った。廃墟を見回った。憲兵に謝りに行った。

 今まで会ってきた人達の中で最も殺しと無縁だと心のどこかで確信していた女の子。


「どうしてお前なんだ……シュナイデン」

誰もが分かっていたオチ。

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