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俺。犯人と会う

完全不定期更新です

 走っていくと次第に景色は変わり、街の裏の顔と言えるような汚らしい場所に出た。

 看板などは出ていないものの、恐らく水商売やら密売などが行われていそうな、そんな現代人の俺とはかけ離れた場所だ。

 それでも怖がらず走っているのは仲間のオスクラから合図の花火が上がったからで、スフィーダから入手した剣を軽く触れ神多夢を発動させながら走っていく。

 すると金属がぶつかり合う音が聞こえ始め徐々に大きくなっいく。

 最初に見た合図から当てずっぽうに走り回っていたがどうやら間違っていなかったらしい。


 しかし昼夜問わずどこでも犯行を行っていたというわりに、今回はまさに犯罪が起きそうな「らしい」場所を選んだものだ。俺達が調べ始めた頃には裏通りに犯行場を移していたのならば、俺がいくら走り回っても見つからなかったのも頷ける。

 犯人の方も表通りで行う緊張感とかにそろそろ飽きていたのかもしれない。

 そうやって走っていると、どうしてもオスクラと出会った時の頃を思い出してしまい思わず口角が上がる。

 あの頃……と言ってもまだ数日しか経っていないが、その時はまだ危機感やら神多夢に夢幻略奪なんて知らなかった純粋無垢なオッサンだった時だったから、戦闘中の場面に無邪気に駆け出したものだ。

 しかし今の俺は一皮向けて大人に……いや身体は若くなったが、まあ心構えは悪くない感じになっていると思う。そんな俺が二度も失敗することもない。

 たとえ誰かが望んでいたとしてもあの時のように馬鹿なことを叫びながら『ダイナミックお邪魔します』を行うわけがない。


「……近づいてきたかな」


 横たわり動かない男を飛び越えながら口に出す。

 着実に音が大きくなり現場に近づいてきているのがわかる。

 おそらくオスクラと犯人が攻防を繰り広げているのだろう。オスクラが負けるとは思わないが、帝国兵にも負けていたのを思い出すと居ても立っても居られず、走る速度を上げた。

 一気に音が近づき、剣を抜きはらい片手で持つ。それを少し地面に触れさせると抵抗なく切り傷を残す。ここまで切れ味が良いと思わず犯人を殺しかねないが、それも仕方ないだろう。


「っと、この先か」


 立ち止まり横の路地に顔を向けると激しい戦闘音がハッキリと聞こえる。

 頬をはたき気合を入れなおし、本格的に神多夢を発動させなが一気に駆け抜けた。

 路地を抜けるとそこは狭い路地の間に生まれた小さな広場だった。しかし周りの建物で日は遮られ、他より空が見えるというのに明らかに暗く、気味の悪い場所だ。

 その中央でオスクラは何かと戦っているのが見える。


「オスクラっ!」


 急いで間に割り込むように剣を振るった。

 嫌な金属音が鳴り響き、俺の存在を認識したであろう相手は一気に距離をあける。

 俺はオスクラを守るように前へ出て剣先を相手に向けた。


「遅かったわね」

「ちょっとお婆ちゃんの荷物運びを手伝っていたら、な。で、アイツで合ってるのか?」

「そっちの男を切り殺そうとしていたもの、当たりだと思うわよ」


 そっちという方に目を向けると、豚のように太った男が尻もちをついて小刻みに震えている……というよりも、


「あいつ領主かなんか知らんけど、オクジョウとかいう奴じゃないの?」

「あら、本当ね。気持ち悪くてちゃんと確認してなかったわ」


 そう、豚と見間違えるような生理的嫌悪ばつぐんな男は街の中央でふんぞり返るオクジョウ・アバントリアその人だった。

 金銭目的か殺害依頼かで犯人が狙うのはわかるが、この町で一番の偉い男がなぜここに?

 そんな考えが過るが、それよりも先に相手をどうにかしなければならないだろう。考え視線を正面に戻すと暗くて見えなかった全身がようやく見えた。

 見えたと言っても全身を大きめのローブで包んでしまっているため男か女かさえ見分けつかない。それでもローブから伸びる細い腕が女を思わせる。

 腕からは鎌のような形状の刃が伸びているのが見えた。見ているとさらに鎌が腕から生えてきたので、恐らくそれが相手の神多夢なのだろう。


「強いか?」

「そこそこね。ただアイツも本気を出していないみたいだったから、力量はわかりかねるけど」

「世間一般的には、それを分からないと言うんだよ」


 言って相手を正面から見据える。

 動きはまだない。しかし刃を納めないところを見ると、まだまだやる気のようだ。

 俺と同じ脈動っぽいので身体能力はかなり高いのだろう。しかし俺の第二の能力『夢幻略奪』の前ではすべてが無駄なのだ。結構簡単に捕まえることができるだろう。

 そんなことを考えていると、聞こえの悪い濁声が後ろの方から飛んできた。


「私はこの街で一番偉いオクジョウ様だぞ! そこの汚らしい男っ、早くそこの馬鹿を殺せ!」

「……街で一番偉い奴が一番頭が痛いことはよくわかったよ」


 しかし参った。いくら頭が悪くてもこの街で一番偉い奴の前で戦わなきゃいかんとなるとどうしたものか。

 いっそ寝てもらって、それから試合開始といきたいが相手がそれまで待ってくれるかどうかの問題だし、俺なら待たない。

 困ってオスクラに目を向けるが肩を竦められる程度で終わってしまった。それに対して文句を言おうと口を開けた瞬間、動き出した。



 爆発したと見間違うほどの轟音と砂塵を巻き上げ犯人と思わしきローブの女が突っ込んでくる。

 武器は腕から生えた鎌だろう。

 剣を両手で構え直し、背後を守るため数歩踏み込み前へ出た。

 相手が腕を横に振るう。それを正面から打ち合わせ、火花が散り嫌な金属音が鳴り響いた。


「ひっ、ひぃぃ!」


 変な濁声を無視し返す刀で腕に狙いを合わせ振るう。しかしこれを防がれる。

 正面から斬り合い、時には回り込んで剣を振るが一向に当たる気がしないでいた。

 だが刃が当たらないのは相手も同じで、俺もギリギリのところで躱し続けている。

 再び目前に迫ってきた刃を、首を捻って既のところで躱す。そのまま体勢を崩さず振り上げるがそれも虚しく空を切った。

 埒があかないと一度距離をとろうとするが、その度に相手が動き懐近くまで接近を許すこととなっている。どちらかと言うと劣勢だ。


「左っ!」


 背後からの声に従い左へ飛ぶと、先程までの場所にオスクラの刃が伸びる。

 しかしローブの女は軽くいなすと俺から視線を外しオスクラの方、正確にはオクジョウの方へと走って行く。

 そう易々と行かせてたまるかっ!


「お前の相手は、俺だっ!」


 神多夢を使い一気に体を加速させる。

 視界が飛び相手の背後をとることに成功できた。胸の中で一言謝りを入れそのまま剣を振り下ろす。

 切っ先から鮮血が飛び前のめりに倒れる――はずだった。



「なん……だとっ」


 剣は背中に触れることなく遮られていた。

 ローブを破って現れた鎌によって、阻まれていたのだ。


「フウトっ!」

「……ちっ」


 オスクラの声で我に帰ると、ローブの女が振り向きざまに斬りかかろうとしているところだった。

 防御も忘れ無理矢理体を捻ってそれを避ける。

 だが、


 ――ザシュッ!


 疎かになっていた足から血が噴き出す。

 よく見るとローブから伸びる足からも鎌が生えており、それが俺の足を切ったようだ。

 なんて悠長にしていられるわけもなく、切られた箇所から熱が吹き出し鋭い痛みが走る。頭の中でけたたましいサイレンが鳴った。

 思えば、異世界に来て初めて感じたまともな痛覚。それは堪えられるような物ではなく全身から嫌な汗がブワッと噴き出し緊張感が増す。

 ローブの先に隠された眼光が驚愕に染まる俺を捉えたかと思うと、無防備な俺に向かって鎌を振るった。

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