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俺。ほのぼの女子トーク

完全不定期更新です

 出てきた料理はどれも見た目も味も良かった。

 最後の珈琲なんかも苦味が強いわりに甘味の風味がしっかりとあり、今まで飲んでいたインスタントに戻れる気がしない。

 だがそれらよりも衝撃を受けたのは別物だった。


「このテキーラ……欲しいな」


 そう、最初に出てきてオスクラ達を苦しめたテキーラだ。

 豊かで上品な香り、円熟した深みと爽やかさで苦味はなくまろやかだ。ハーブ、チョコ、キャラメル、ドライフルーツの風味が忘れられない。

 それを改めて注文し、ちびちびと飲んでいる。

 目の前の少女達が鼻をつまんでいるが知るものか、飲みたいから飲んでいるんだ。


 ある程度時間が経つというのに未だ客が来ない。

 まさか人気のない店なわけがあるまい。

 こんな美味い酒がサービスで試飲できるんだ、人気がないわけがない。

 ただ、あの顔文字だけはどうにかならないのだろうか。


 そうやって豊かな風味を楽しんでいるが、会話が無いのが辛い。

 俺が酒を飲んでいれば女子トークにでも突入するのかと思っていたが現実は違ったようで、ひたすら俺が飲むのを穴が空くレベルで見つめている。

 らめぇ、僕のお顔に穴が開いちゃうよお!


「ところで、ルーズの『ワケ』ってなんなんだ? 俺で力になれるなら協力するぞ」


 取り留めないと思うが、アルコールを摂取した脳ではこれぐらいの話題しか上がらず何気なく口にした。

 ルーズは俯くと数泊おいてから顔を上げた。


「……言わなきゃ、ダメ?」


 うーん。可愛いから言わなくてオッケィ!



 なんて言えばオスクラが持つフォークが伸びてきそうなので止めておこう。

 しかし言いたくない理由か、まあ人には言いたくないことなんて幾らでもあるだろうし言いたくないと明確に言っている人から根掘り葉掘り聞き出す趣味は持ち合わせていない。


 そもそもルーズとはこの街きりの関係かもしれない。というよりもそっちの方が可能性的に大きい。

 目的なんて人それぞれだし価値観もそれぞれだろう。

 だが俺にはそのどちらも持ち合わせていないのだから、俺がどうこう言うのも御門違いというか出過ぎた真似というか、まあ俺が人の人生に口出しする資格は無いってことだ。


 我ながらどうでもいいことを考えつつ塩を舐めていると、オレンジジュースを飲んでいたオスクラが嫌らしい笑みになる。

 ルーズの肩を指でグリグリと押しながら距離を詰めていく。


「なにかなぁ言えない理由て、もしかしてエロいことなの? その大きな胸を使っていやらしいことでもする気なのね。水商売ね流石だわ、いつも恥ずかしがってるのも演技なのでしょう?

 尊敬に値しないわ流石ルーズね」

「ちょ、違っ、いや当たらずも遠からずというか……って違うの! うわーん助けてよフウトくん!」

「だからこっちに振るなっ、かしましいわ!」


 そうして美少女二人と成人男性により行われるテーブルを引っくり返すようなどんちゃん騒ぎがあったというのに、オーナーだったらしい老人はにこやかにグラスを磨いていた。

 決着が着くはずもなく、全員が肩で息をしている中でルーズが聞き取り辛い小さな声を発した。


「……人探しで来たの」


 それだけ言うとぷいっと顔を背ける。

 これがまた可愛かったが、褒める力すら無くし椅子を立ててドッかと座る。

 二人も座り直し落ち着いたところで再び老人がやってきた。

 さすがに怒られるかと覚悟していたが表情はにこやかでどうやら怒っているわけではないらしい。


「若い者同士で喧嘩なんてのも今のうちにしかできないことだから、存分にやっておきなさい。今は関係なくとも、その経験はいずれ自らの力になるはずだからね。それに喧嘩というのは自分達に溜まった鬱憤や今まで溜め込めていた本音をぶつけられる良い機会だ。これからもより良い喧嘩をして、関係を深め合ってくれたまえ。

 さあ、注文があれば、聞こうか」

「は……はあ」


 わけが判らないことを言っていたが本人なりに場を和ませようとしていたのかもしれない。

 俺はこれ以上思考を変な方に持っていかないため珈琲を頼み、一番暴れたオスクラ達は再びオレンジジュースを頼んだ。


 にこやかな笑顔でカウンターに戻る老人は様になっている。

 俺もこんな余裕ある男になろう。そう考えてグラスに残った酒を一気に呷る。

 うん、美味い。


 その後、珈琲とオレンジジュースが届き全員が落ち着きを取り戻すと次はルーズが質問を投げ掛けてきた。

 俺とオスクラを見て一つ唸るとややあって尋ねる。


「フウトくんとオスクラはなんで一緒なの? あと、どうして旅をしているの?」


 その問いに対し俺は考えた。

 なぜ一緒にいるのか……は助けてもらったからだろうか。

 あの時はオスクラの支えとなりたいと思っていたが、難しいところだ。本人が望んでいなければどうしようもないし、ベジタボゥと『彼』の記憶を受け継ぐ俺はまず中央都市へ行き再び学院に通い、バグズトロイヤ帝国に出向きエスペランサに会いたい気持ちもある。

 だがどちらの道もオスクラを助けることに繋がらないし、この世界の知識はあれど『俺自身の経験』がない状態で大陸を歩くのはかなり無茶だと思う。


 知識として知っているのと、実際に経験するのとでは大きな違いがある。

 下手をすれば知っているという慢心から死んでしまう可能性も否定できない。

 そんな中、異世界で最初に出会いお互いの力で成果を上げた者同士で進みたいのは道理ではなかろうか……。


 オスクラを見るといつもの無表情に戻っている。

 彼女も少し考える素振りをすると、ややあってハッキリとした表情でルーズを見据えた。



「フウトはお互い助け合った命の恩人同士で……仲間よ」

「……ッ!」



 嬉しかった。

 社畜の時は感謝されることもなく、さも当然のように酷使され続けていた。

 まるで会社の中にある一つの歯車として見られ、少し歪めば直せばいいとしか見られていなかったような感覚。

 それが、異世界に来て出会って数日しか共にしていない、まだまだ素性を知らない少女から認められた。

 記憶としてはあらゆる人に認められる事実がある。

 だがそれは経験ではない。


 『俺』という人間を初めて認めてくれた初めての異世界人に、俺は感謝の言葉を胸の内で投げ掛けた。



 それと同時に胸が痛む。

 自分の素性を伝えていないこともあるが、なにより夢幻略奪者(ムリ)によるものが大きい。

 できるだけ表情に出さないようにして痛みに耐える。


 ルーズはオスクラの返答に感嘆の声を上げると、次はルーズが嫌らしい笑みを浮かべた。


「じゃあね、オスクラ達はなんの目的で旅をしているの?」

「……俺は」


「私は、あの人『魔女ナトゥーロ』を探している最中よ」





 バンッ!


 突然大きな音を立てルーズが立ち上がっていた。

 その表情は青を通り越して真っ白になっている。

 震える唇をキツく結び、視線をテーブルに落としたまま発した。


「き、聞き間違いかな……ナトゥーロ、って」

「聞き間違いじゃないわよ。あの人に私の存在理由を聞き出すために旅をしているの」

「うっ、嘘だよ!」


 ルーズは勢いよくテーブルから離れると斧槍に手をかける。

 思わず俺も椅子を跳ね除け柄に手をかける。

 この至近距離で神多夢を使えば、勝つのは俺だ。

 まだルーズの神多夢が分からないが反応できない速度で動けばなんの問題もない。


 緊張が走る空気の中、一人だけ暢気にオレンジジュースに口を付けているオスクラは、溜息を吐いてルーズを睨む。

 その視線にルーズの体が強張り、斧槍を握る手に力が入った。

 先程からルーズの目は泳ぎ、顔面蒼白で大量の汗を流している。

 なぜ彼女をそうさせるのかは夢幻略奪を駆使しても分からなかったが、オスクラを守るため俺の手にも自ずと力が入る。

 しばらくしてルーズが口を開いた。


「……嘘、だよ。だってナトゥーロは数百年前に死んだはずだし」

「そういうことになっているみたいね。でもね、あの人の神多夢を使えばこの世があり続ける限り生きることは造作もないことなのよ。あの人を完全に殺すことができるのは、あのディヴィッドくらいでしょうね」


 もう一人、よく分からない新しい名前を聞きルーズの体がさらに震える。


「そんなのっ、いるわけがない! ディヴィッドなんていない! 魔女ナトゥーロだって……だから、奴が私の両親を……」


 唇を噛む姿は今まで見たことがなく、哀愁漂う姿だ。

 何かに対する憎悪や殺意が溢れ出ているのが目に見える。その衝撃でいくつかのグラスが割れ、老人の眉が動いた。

 それでもオスクラはオレンジジュースを飲み続け、氷だけになったのを確認して伸びをする。

 まるでこの会話がいつもあるかのような様子だ。


 対しルーズはいつ飛び掛ってもおかしくない様子で、傷付いた斧槍を握っている。

 状況を理解しきれていない俺は念のため剣を抜いていた。


「待てルーズ、なぜそんなに取り乱している」

「フウトだって可笑しいと思わないの! ナトゥーロなんていないっ、そうじゃないと……なんであいつは……ベゼは、あんなことを」


 あ、なるほど。

 無駄に記憶があると分かり辛いな、たしかナトゥーロに関しては国上層部の一部にしか知られていない情報だったな。なんで秘密なのかまでは知らないが、彼の記憶になくベジタボゥの記憶にあるからには何かしらあるのだろう。

 しかし、そうするとルーズはどうやってナトゥーロの情報を入手したんだ?


 台風の目であるオスクラは、俺とルーズの緊張を知らずかメニュー表を開き新しい料理を注文しようとしている。

 その余裕ぶりにキレたのかルーズが違う意味で肩を震わせた。


「教えてよオスクラ! なにが正しくてなにが間違っているの! なぜ私の両親は殺されなければならなかったの!」

「……ふう、まずそれを下ろしてくれない? 脅されてるようで、不愉快なの」

「っ! いい加減に……!」

「そちらこそいい加減にしてくれないかしら」


 ルーズの言葉が止まる。

 その喉元には神多夢によって伸ばされたナイフがあった。

 いや、そんなことよりも!


「オスクラ、こんな所で神多夢なんて使ったら!」

「大丈夫よアンタも落ち着きなさい。今私達の話を聞いている全員(・・)が神多夢だから」


 老人の方を見ると、申し訳なさそうな顔をしつつ肩を竦めて見せた。

 そして愛想の良い顔を作る。


「やあ(´・ω・`) うん、実は私も「神多夢」なんだ。済まない。神の顔もって言うし、謝って許してもらおうとも思っていない。

 でも、この秘密を知ったとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

 殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。そう思って、神多夢であることを伏せていたんだ。なにかあれば、注文を聞こうか」


「じゃあ、オレンジジュース2つと珈琲をお願い」

「まっ、私はなにも!」


 状況が掴めないルーズが声を張り上げたが、オスクラのナイフが皮膚に触れ、動きを止める。

 無表情だったオスクラは再び嫌らしい笑みを浮かべて戸惑うルーズを蔑むように見た。


「そもそもアンタが私に勝てると思ってるの? もう十字架は把握してるし、深層であるアンタがこの至近距離で打ち勝つ見込みはないわ。

 それにーー」


 オスクラの両目がそれぞれ違う色に変わる。

 俺にとって見慣れた光景だったが、初めて見たルーズは驚愕の色に変わった。きっと、この世界の常識を知るルーズにとっては驚くべき事実だったのだろう。



 どんな強力な神多夢(かんだむ)でも十字架(クルクス)は1つ。

 そんな常識を覆す伝説の魔女しか持っていないはずの特異体質。

 それの意味するところを、ルーズは知ってしまった。




「私は魔女ナトゥーロと同じく、脈動と深層どちらも持つ特異体質。

 悪夢の支配者の1人で……ナトゥーロの娘よ」



 そう言って笑うオスクラに、少しチビってしまいそうになったのは、内緒だ。

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