俺。出会いと別れと銀貨
完全不定期更新です
「……ふう」
すっかり緩くなった珈琲を飲みながら窓に目を向けると外はすでに暗くなっていた。
昼から入り浸っていたのだからどれだけ店側に迷惑をかけたのかと悩んでしまう。
視線を元に戻すとオスクラとルーズが未だ話をしていた。
「だからね、私はこう言ってやったの「お前の血の色は何色だ!」ってね。そうしたらイモルテルが「モンキーなんだよォ」って言ったのよ……まったく、あの人っていつもノリで話すから話が噛み合わないのよ」
「ああわかるかも! 年上の人と話すとジェネレーションギャップ? で話が合わなかったりするんだよね。私が道を聞いてるのにおじさんが逆ナンだと勘違いしちゃった時なんか苦労したよ」
どうしてこうなった。
あとルーズのは根本的になにか違う。
「……はあ」
頭を掻いてカウンターの方を見ると、こちらも未だにグラスを磨いている。絶対何周かしてるぞあれ。
ガールズトークと呼ぶにはお粗末なものが展開されてからもう数時間にもなる。
正直ナトゥーロについてなんてオスクラも母親としての面しか知らなかったらしいし、神多夢についてや他姉妹の異能についてくらいしか有用な情報はなかった。
『なぜ自分だけ異能ではないのか』
それを聞き出すためだけに消息を絶ったナトゥーロを探す旅に出たということだ。
聞いてみればしょうもない理由だと思ったが、オスクラからしてみれば同じ存在であるはずの姉妹の中で1人だけ違うのだ。
「醜いアヒルの子」のようなものだろうか、不安に思うのも仕方ない。
あと姉妹達もオスクラに乗じてどこかへ去って行ったそうだ。
連絡を取る手段もないので誰がどこにいるかは知らないそうだが、いずれどこかで再開するかもしれない。世界は案外狭いものだ。
飲み終えた珈琲を置き肩を鳴らす。
テーブルには話をしている最中新たに注文された皿で埋め尽くされている。金額なんぞ見たくない、というか俺はオスクラが注文した珈琲だけでここまで粘っているというのに……
「ほらさっさと帰るぞ」
席を立つと二人からブーイングが来るが無視してカウンターに向かう。
愛想の良い老人が計算し始めると渋々といった様子でオスクラとルーズは立ち上がった。
ついさっきまでお互い刃物を向け合っていたとは思えない仲の良さだ。
まあなんだかんだとルーズも旅の目的を話してくれたし、元々息が合っていたのを考えると遅すぎる方かもしれない。
「やあ(´・ω・`) 合計額が出たよ」
「ああ、それで幾らでした?」
「うん。これなんだ、払えるかな?」
「………」
出された金額にこめかみを押さえる。
心配されるのもわかる金額だ。
街に来てから殆んどの買い物が鉄貨で済んでいる。食べ物なんかは特に鉄貨で済み銅貨なんかになれば高級品になる。
そして武器を購入してやっと銀貨を使用した。
そんな価格事情の中で、オスクラ達が飲み食いした分はあまりにも異常で、あまりにも悲惨だった。
……
「食事で初めて銀貨使った……」
店から出た後、同じ宿ということでルーズとは一緒に歩いている。
そんなルーズは俺の後ろでオスクラと話の真っ最中だ。
これが世のモテる男達が抱える難関というやつなのだろうか。
「別に銀貨数枚くらい良いじゃない。まだ金貨はあるんだから」
「そういう意味じゃねえよ。それにエスペランサにも渡しておきたいし、どこかで増やすしかないかな……」
顎に手を置いて考えるが、これについては明日にでも回して良いだろう。
それよりもこの街に居られるのはあと4日だし、もう少しイベント回収しときたいな。
「お金を手に入れたいならペリペティアが手っ取り早いんじゃないかな」
「プロンカーか……まあ視野に入れておくのも悪くないな」
提案してきたルーズは元の無邪気な目に戻っていた。
結局、ルーズの探し人については聞けなかったし十字架についても知らない。もし戦うことになった時のために知りたかったのだが今更聞くというのも無理だな。
「ん?」
横を数人の子供達が駆けて行く。
皆笑顔なので遊んでいたのだろう。
「……私、ああいうことしたことないのよ」
「そうなのか?」
無表情で呟いたオスクラは子供達をジッと見ていた。
「子供の時からずっと軍の施設に居たから、友達なんていないの。それに姉さん達は一人でいることを望んでいたし」
「だから、羨ましいと思ったのか?」
少し間が空き「まさか」と肩を竦めてみせる。
それっきり話さなかったが、目だけはずっと子供達を捉え続けていた。
やはり、どこかで人と接することを望んでいるのかもしれない。だから恥ずかしがりながらも肌の触れ合いを拒んだりしないのだろう。
そう考えると悲しいものだな。
俺なんか上司に飲みに付き合わされて人付き合いなんてあまりしたくない方なのだ。しかしオスクラにはそういった人付き合いの苦労というのも経験したことがないのかもしれない。
「あっ」
オスクラが突然声を上げた。
見てみると子供のうち一人が転倒したらしい。
なに子供ならよくあることだ。そういう経験を積んで一人で立ち上がる強さを手に入れるだろうし、大人になった後に転倒すると恥だからな。今のうちに存分転ぶがよい。
はっはっはっ。
「大丈夫?」
というのも俺個人の考えで、ルーズは倒れた子供の方に駆け寄った。
倒れていたのは女の子だったようで膝小僧を擦りむいている。
ええい、そんなもの赤チン塗っときゃ良いんだよ!
「今治してあげるからね」
そう言ってルーズは女の子の傷口に手をかざす。
止めようとも思ったが、ルーズの神多夢が見たくて言葉を押し留める。
ルーズが手を離すと、傷は殆どが塞がり歩くのに支障のない程度まで治っていた。
「ほら、これくらい治れば歩けるでしょ?」
「ありがとうお姉ちゃん!」
元気に立ち上がった女の子はルーズに礼をすると走って行った。
見届けてから振り返ったルーズの顔は緩んだ笑顔になっていた。
「えへへ、お礼言われちゃった」
「よかったな」
神多夢だって騒がれなくて。
女の子の方を見ると親らしき男と合流し、こちらを指差して手を振っている。
手を振りかえしルーズも促し手を振らせると、男の方が体を強張らせ次には女の子の手を引いて早足で行ってしまった。
その不可解な行動に首を傾げていたがルーズ達に手を引かれたせいで疑問は遠くに消えてしまう。
どうせ今この瞬間だけの関係だったのだ。特に気にすることもない。
考えてから今度は3人並んで夜の街道を歩いていく。
また道の端に深紅の花が咲いていることも知らず、その日常を過ごしたのだった。




