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ヘラウス。彼の監視

完全不定期更新です

 宿に戻り、息をつく。

 自分の任務が一つ終わったことの安堵感と、これからの行動への緊張が走る。

 部屋の奥に鎮座する巨大な装置から特殊な形態のそれを取り、いつものチャンネルに合わせた。

 数度のコール音ののち特徴的な音がブツ切りに聞こえ外の音が聞こえる。


「スフィーダ?」

「はい。私です」


 いつも通りの明るく清楚な声に安心感を抱きつつも心を落ち着かせた。

 自分よりも年下で長年の付き合いとはいえ、名目上は雇主なのだ。

 ワンクッション置いてから今日のことを掻い摘んで伝える。

 相手は報告に口出しせず相槌をうちながら聞き続け、伝え終わる頃には今までよりも明らかに声が弾んでいた。


「そうなのね、やっとで『彼』を見つけたの」

「はい。実際に見るのは初めてですが、間違いないかと」

「そう……やっぱり生きていたのね」


 安心からか息を吐くと何度か言葉を泳がしている。

 その声を聞くと自然と笑みが浮かぶ。

 最近は常に重苦しく、何にも取り組めなかったのだ。

 不安定な状態に心配した私は我慢できず、遂軽はずみに言ってしまった。



「そんなに彼のことが心配ならば、私目が捜索に出向きましょうか?」



 私の言葉に即決すると密かに人を集め捜索隊を組ませ、すぐさま行動を開始した。

 自分の軽はずみな言葉を怨みつつも、他の村街に行ける口実にもなったと後々喜んだのは内緒だ。

 そうして探し続け、多くの街を回ってきたところで一つの噂を聞きつけた。


「帝国兵が魔女を追っていた」


 敵国である帝国兵がこんな所まで来ていたことに驚いたが、なによりも『魔女』という単語に驚愕した。

 世紀の魔女ナトゥーロ。またはそれから生まれた人とは違う生き物。

 そんなものがこのサブリナル国に入り込んでいるとなっては見過ごすわけにはいかない。

 本来の仕事のためわざわざ神多夢を嫌う街まで足を運び情報収集をしていたが、噂以上の情報はなかなか見つからず憤りを覚えていた。

 その矢先のことだ。


 憲兵から報告を受け門近くまで駆けつけてみると、そこには情報通りとはいかなかったが、明らかに異常な少女。

 恐らくその少女が魔女なのだろうと確信しつつも私の視線はその隣で羽交い絞めに合う男へと向けられていた。



 黒髪に黒の双眼。

 特徴的な顔立ちにまだ中央の一部でしか取り扱われていない最新型の鎧。

 携える大剣には見慣れた紋章、微かに見える神多夢の気配。


「こんな所にまで来ていたのね……」


 探していた『彼』と同じ特徴、捜索にここまで時間がかかるとは思ってもみなかったが、こんな辺境にいれば見つかりもしないはずだ。

 彼は両手に可愛らしい少女を従え街へ入っていく。


「……それにしても」


 この状況を見れば、雇主はきっと怒り狂うだろう。

 気掛かりで学業どころか私生活にまで支障をきたしているというのに、そうさせている本人は暢気に別の女と過ごしているとなっていれば。


「これは報告しない方がいいわね」


 彼等にバレないよう動きつつ監視し続けていると彼は更にもう一人の少女と接触し、すぐさま再開の約束をとりつけた。

 他にも街の人々と仲良く会話し女性達には丁寧な振る舞いをしながらも、何度か顔が緩んでいる。

 それだけでも酷いのだが、寝る時は魔女とダブルベッドで添い寝ときた。


「……彼会ったらきっと殺されるわ」


 彼を慕う後輩からは雇主とは相思相愛だと聞いていたが、正体がまさかただの獣だとは、これには同情せざるおえない。

 ある程度まとめてはいるものの報告できるようなものなど一つもない。

 気の迷いで報告でもしようものなら、この街毎滅ぼすことも厭わないかもしれない。


「まったく、なんで私がこんな損な役回りを」


 今更悔やんでも仕方がない。

 だが観察すればするほど聞いた話と違う姿に焦燥し、最後のチェックにと立掛けられた剣を取る。



 歪な形をした柄に研ぎ澄まされた刀身。

 現在の最新技術を凝縮した業物は神多夢を全開にして振るったとしても決して折れず曲がらず、逆に神多夢に反応して鋭くなっていく。


「………」


 だが自分が触れたところでなにも起こらず、ただ非常に重い剣としてあるだけだ。

 それはこの剣に彼の神多夢の因子を混合させているからであって、神多夢が使えない彼が対等に渡り歩くためだけに作られた剣なのだから致し方あるまい。

 あんな若者の、しかも学院最弱としてレッテルが貼られている彼にはもったいない代物だ。


 それでも、雇主が彼を心配し密かに作らせた最新の剣。

 ますます現在の彼の姿を見せるわけにはいかなくなった。


 剣を収めベッドに体を預ける。

 明日彼に直接会い、剣を触らせてみればわかることだ。

 そしてこの街にいる間は監視し続け、中央に誘導するような言葉を投げ掛ければいいだろう。


「おやすみなさい」


 誰もいない空虚に向かって呟き、その日は彼に会うため早く寝た。


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