俺。剣の意味するところ
完全不定期更新です
改めて周囲を見回してみると酷いものだった。
壁や床さらには天井近くにまで斬り後が刻まれていて、まるで怪獣が暴れたんじゃないのかと錯覚するほどだ。
……修理費って払う必要あるのだろうか。
そうしていると銀髪をたなびかせながらスフィーダが戻ってきた。
「おめでとうフウト君」
「ありがとうございます。この剣のおかげですね」
言って剣を掲げる。
あれだけのことをしたというのに刀身には傷一つなく、刻まれた文字も健在だ。
これほどの業前、価格にするとどうなるのか考えるだけで身震いがする。
本当に壊さなくて良かったと思いつつも、名残惜しくもある。
「そんなことないわ、見た限りではフウト君の力で勝てたものよ。大剣を使ったとしてもあなたが勝っていたかもしれないわ」
「ははは、そんなことないですよ。俺は剣の初心者ですから、勝てたのは紛れもなく、この名刀のおかげですね」
「ふふ、やっぱり謙遜がお好きなのね」
「?」
おっと、そんなことよりルーズだ。
忘れかけていたルーズの方を見てみると、夥しい傷が入った斧槍を手にへたり込んでいた。
殆んど虚ろな目で空虚を見つめボソボソと呟いている。
耳を傾けてみよう。
「……どうして、どうして負けたの、私の突きは間違いなく当たるはずだった。まだ奥を隠していたなんて、そんなまさか……」
いや、ここはなにも聞かなかったことにしよう。
なんか俺を殺す勢いで放っていたっぽい突きについて考えているみたいだが知らない知らない。
しかし神多夢を使ったことを知らないような口振りだったしルーズの中では能力なしで負けたという判定になっているのか。
それなら、これから俺に歯向かうようなことは言えないだろう。ウィーアーチャンピオン!
まだ独り言を言い続けるルーズを放っておき、剣を何度か振るう。
なかなか手に馴染む。まるで俺の為に作られたかのようだ。
といっても元はスフィーダの物だし、名残惜しいが返すしかないだろう。
今度その有名な鍛冶屋に出会って金に余裕があれば制作依頼をするのも良いかもしれない。
「ちなみになんだけど……」
スフィーダが呟く。
俺を見ながらというより、俺の握っているグリップ部分を見ながらだ。
「その剣、使ってみてどうだったかしら?」
「どう、と聞かれましても……手に馴染んでとても振りやすいですね」
照明に当てるとキラキラと光り輝き硝子のように反射し、見たこともない美しさを放っている。
「へこみがあって指が引っかかりやすい割りに滑らすことに違和感もない。それに片手にも両手にも対応できる長さですので力加減が利きます。
重心も偏ってなくて全体的に軽いですし……なによりデザインが良い」
俺が持っている大剣は一応どこぞの紋章も刻まれていて無骨ながらも機能的な良い物なのだが、シンプル過ぎていまいちパッとしないのが気に食わなかった。
もう一度刀身に目を落としてみる。
だがこれはなかなかにファンタジーしているファンタジー剣だ。
アイテム覧にあっても違和感ないな。
柄もシンプルながらも些細な部分に装飾があり綺麗だが、一番の見所はやはり刀身に刻まれた謎の文字だろう。
文字がヒ○ムノス語並に判り辛いがそこがまたそそられる。
キャメラがあれば写真に収めて鍛冶屋まで走っているだろう。
素晴しい剣をを舐めるように眺めていると、突然スフィーダが小さく笑った。
「そんなに褒めて頂ければ、その子も大層喜んでいるでわ。どうかしら、その剣貰ってもらうのも良いわよ」
「そっ、そんなわけにはいきません! いや、もし俺がそんな態度に見えたというならお詫びしますから」
酷く申し訳ない言葉に、流石の俺でも首を横に振る。
出会って数度言を交換した者に、しかも無償でやっていい代物でないのは異世界生活の浅い俺でもわかる。
焦るあまり剣をスフィーダの方に押し返す。
押し返されたスフィーダはキョトンとした顔をし、また口を隠しながら上品に笑った。
「大丈夫よ。本当にあなたに相応しいと思ったから言ったこと、それに、私ではその子を扱えないから」
「え?」
ならなんで持っていたんだ?
こんなの持ってるだけなんてまさに宝の持ち腐れってやつじゃないか。
顔に出てしまっていたのだろうか、俺を見て面白そうに笑う。
「そうよね私自身も自分のしてることに疑問を感じるわ。
でもね、ある人に頼まれて持っていたのだけれど……それも終わりみたい」
「と言いますと?」
「交換しましょうか。あなたの大剣とこの剣を」
そう言って鞘にしまった剣を出してきた。
鞘には金の細工が最低限にあしらわれ、柄の近くにはあの紋章。
……なるほど。
「わかりました。俺の大剣とそれとの物々交換ですね」
「物分りの良い殿方は好きよ」
可愛らしくウインクをするスフィーダを視界に捉えながらも、美しく自分の為に作られたような剣を手に入れられることに興奮していた。
この剣が意味するところが分かると、なかなか嬉しいものだ。
だが興奮とは違うもう一つの感情が、浮き上がってくるのを、密かに感じていた。




