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俺。初武器屋

完全不定期更新です

 武器屋ヌエドリは宿から二十分近く歩いた所にあった。

 堂々とした店構えと溢れる客足から繁盛していることが伺える。


「ここが武器屋、ねえ」

「ん、どうしたのフウトくん」


 なんか武器屋といったら外に武器とか並んでてオッサンばかりが出入りしている見るからに「ザ・武器屋!」みたいなのを想像していたが、これはどう見てもこじゃれた喫茶店だ。

 出入りしている客も、一応オッサンもいるが若い女も多く客だけ見ていると武器を扱っているように見えない。


「いや思ったよりも女の人がいると思ってな」

「あーそのことね。私も最初は疑問だったけど、ここってクレイチャーが多く生息しているわけでもないし城壁もあるし憲兵もいるからね。どうしてもペリペティアがいないんだよねぇ、だから武器屋はここ以外じゃ趣味でやってるようなトコばっかで、ここも武器以外に主に包丁とかの調理器具も売ってるんだ」

「嫌な面を見てしまった気がする……」


 異世界始まって始めて来た武器屋が殆んど主婦の憩いの場になってるって、不況がこんなところまで来ているのか。

 まあ今回は俺の物ではなくルーズの武器を見にきたんだから俺が買うときは繁盛している所で買おう。

 心に決めてから扉を開くと、軽快な音が鳴ると同時に甘い香りが鼻腔を擽る。それに思わず鼻を覆ってしまう。


 中へ入ってみると綺麗に整頓された棚が並び沢山の武器が壁に掛けられている。

 これだよ、これ。こういうのでいいんだよ。


「店の中では静かにするんだぞ」

「わかってますよーだ」


 脇から抜けるルーズに親子のような会話をしつつも、俺の心はドッキドキでーす。

 見渡してみると、確かに女性も多いが主婦ばかりというわけでもなく憲兵の人達も利用しているようだ。

 一応見てみるが俺の使用しているような大剣は見当たらない。それなりの大きさはあるものの装飾がない質素なものばかりで似たような物が一つもないでいる。

 なんとなくあの大剣には愛着があるので、壊れたら買い直そうと考えていたのだが、これはまた別の街に行くしかないようだ。


 店内をぐるりと回ってみると短剣のコーナーがあり思わず見入る。

 俺が大剣とは別に短剣を所持しているからでもあるが、自分でも驚くほど短剣には思い入れがあった。

 壁に掛けられているのは思ったよりも値が張るようなので棚に並べられている物を見ていく。その中に俺好みの物が数点あったので手に持ち重心をチェックしていく。


「フウトくん私のはこっちこっち……って、フウトくんって短剣扱うの上手いんだね」

「え?」


 手元を見てみるとチェックをしていた2本をペン回しの用法で遊んでいた。

 以前の俺では絶対にできないであろう行動に悪寒がしてすぐ棚に戻す。

 短剣の持つ手はとても馴染んでいて長年触り続けていたのは明らかだ。しかし俺が短剣なんぞ触ったのはここに来てからで、以前はカッターナイフとペーパーナイフが精々でこんな危なっかしい物で遊んでいたことなんて一度たりともない。


「よ、よしルーズの武器を見にレッツラゴー!」


 嫌な予感を紛らわすためルーズの肩に腕を回して一緒に歩き出す。


「いたっ、いたい。痛いよフウトくん」


 しかし身長的に色々と合わなかったらしいルーズが悲鳴をあげる。

 それでも二人で歩き、斧槍が置いてある所まで行く。

 そこは店の中でも奥の方にあり、人が寄り付かなさそうなほどだ。調理器具よりも酷い扱いを受けている斧槍達は値段も殆んど投売り状態だ。


「ハルバートって意外と安いんだな」

「いたた……そりゃ、使い辛いからね。迅速な判断力とそれができる対応力が必要な物なんて、ただ振れば良いだけの剣とか銃とかと比較したら、誰も使おうとしないよ」

「まて、今「銃」と言わなかったか?」

「あるよ。ほらあそこ」


 言われた方向に顔を向けると、こちらもかなりの安さで売られている。

 重火器はないが拳銃なんかは回転式に自動どちらも揃えていて、よくゲームでお世話になった個人防衛火器もあり俺的にはこちらの方が気になった。

 だがルーズは興味ないのか、すぐ斧槍の方へ視線を戻す。


「なあ、普通は銃の方が強いんじゃないのか? わざわざハルバートなんて古い物使わなくたっていいのに」


 そう言うとムスッとした表情に変え俺に顔を近づけてくる。

 それに応じて屈んで耳を傍立てる。


「アレは神多夢用に作られた武器なの、だから私達が持つのってもおかしいでしょ。それに、外にはアレを持ってても対処できないのもウジャウジャいるし、奇襲には向いてるけど神多夢相手だと一度外したらアウトだから」

「……もしかしたら、俺が思っている以上に神多夢って化物なのか?」

「自分達のことを化物って言うのやめた方がいいよ。オスクラちゃんだって神多夢だろうし、女の子に嫌われちゃうよ」


 返事をすると満足そうに頷き斧槍を見ていくルーズ。

 だがやはり、俺の興味は銃に向けられたまんまだ。ルーズはあんなことを言っていたが実際使ってみたらゲームみたいに無双できるかもしれない。というよりも無双以外ありえないだろ。


「うん。これにしよっかな」


 ルーズが持ったのは赤い刃に金の細工がある一本の斧槍。

 それを色んな方で持ちながらある程度見ていく。そしてその刃に手を触れてみて何度か叩くと決心したように俺へと向けてくる。


「はいこれ」

「いや別にいいけど……こっちとかじゃ駄目なのか?」


 指差したのはRPGで出てきそうな装飾バリバリの方だ。多少値は張るものの格好良さとかロマンを重視するなら外せない逸品に見える。

 だがルーズは興味がないらしく、赤い斧槍を俺へと押し付けてくる。

 渋々受け取り、次は俺の物をと銃コーナーに向かう。


「へー思ったより多く扱ってるな」


 銃をそこまで理解しているわけではないが、好奇心を満たすには良い量だ。それを流し見していくと一つの自動拳銃。

 よく金曜夜にやっていた映画に出てくる筋肉モリモリの男が水銀ロボ相手に撃ったり拐われた娘の為に撃ったりとやけに印象に残っていた。


「俺もガバメント買ってみるか」


 手に取ったのは学生の頃参加したサバゲに持って行っていたタイプの物を一つ。それとマガジンを二本追加だ。と言ってもこちらは値札を持って行く事になっているらしく、それを2枚取りホクホク顔で振り返ると



「むー……」

「な、なんだよ」


 なぜか頬を膨らませたルーズがいた。

 それはそれで可愛らしくて大変よろしいのだが、どうしてそんなことをしているのかがわからない。

 見つめ合うのも気まずくなりレジに直行して会計を済ませた。合計してもそこまで高くなくシュナイデンに絞られた財布でもお釣りがたんまり返ってくる。


「お待たせしました」

「おー」


 出てきた物に思わず声をあげた。

 黒光りするそれは画面越しでしか見たことがない物だ。

 やはりというか、俺が知る物とは多少、というよりかなり違いはするものの俺好みで大変よろしゅう。


 持ってみるとかなりの重量で鈍器として十分に活躍してくれそうにある。これを足に落としでもしたら間違いなく骨折するだろう。

 マガジンは俺がよく知る形で、これでも投げつければガラスくらい破れそうだ。それ等をウエストポーチに入れ、斧槍を手にルーズの元へ戻る。


「はい。壊した分は返したからな」

「えへへー、ありがとね」


 にへらと笑うルーズに渡し、サッサと店から出ようとすると服を引っ張られた。

 絞められた首を押さえながら後ろを見ると、期待に目を輝かせたルーズが鼻息を荒くしながら俺を覗いている。


「……どうしたんだ?」

「せっかく買ったんだから手馴しといこうよ!」

「しかし、やれるような場所がないだろう」


 俺の言葉に、小馬鹿にしたような表情をするルーズ。

 先ほどのレジまで戻ると店員に話しかけた。

 なにやら話し込み、数度頷くと満面の笑みに駆け足でこちらに戻ってきた。そして俺の袖を引っ張りどこかに連れて行こうし始める。


「お、おいどうする気だ」

「手馴しするための場所を貸してもらったの。フウトくんも新しく買ったやつ試したいでしょ?」

「まあ確かにそうだけどさ……」

「思ったが吉日。さ、行こー!」


 ぐいぐいと引っ張られながら店の奥に鎮座する扉へと引き摺られていく。

 でも試し撃ちなしで、いざ実戦というとこで薬莢詰まりや照準問題なんてあったら目も当てられない。

 それに、神多夢に対して銃が効果ないみたいなことをルーズが言っていたし、ここは異世界現代兵器の力を見てみておくとしよう。



 店内奥の扉を開け長い石階段を下りると天井の高い広間に出た。

 壁には干し草を纏めて作られた人に似せた人形が並び、矢が何本か刺さったままだ。

 休憩用のベンチも置かれているが幸いにも人はいないように見える。

 テニスコートのように区切られた一つへと入ると、すぐさまルーズが体を寄せてきた。


「いい、ここでも神多夢は禁止だからね。いつどこから見られるかわからないもん」

「……わかった」


 たしかに区切られてはいるものの周りからは丸見えだ。

 それに鎧すら豆腐を切るように切断できる神多夢なんだ、これで外壁や地面を殴ったらどうなるか想像もしたくない。

 ルーズは周囲をキョロキョロと見回すと耳に顔を寄せてきた。


「じゃあ一回だけ銃使ってみようか。人が来ないうちに終わらせるよ」

「ん? あぁテキトーに試し撃ちしとくよ」

「もーそうじゃないよー」


 言って人とは思えない高速ロンダートで一気に距離をとると、斧槍を構えた。

 アニメで見る格好良いアクションに驚いて目を丸くする。胸の内ではスタンディングオベーション中でルーズへの好感度は鰻登りだ。

 そんなルーズはニヤリと不敵に笑うと耳を疑うようなことを発する。


「私と練習試合をしよう。フウトくんはそれ使って良いから」

「は?」


 自殺志願者の発言に先程とは違う意味で目を丸くした。

 入っているのは実弾だし元の世界基準なら音速で飛び人体を破壊するためだけに特化した人殺しの兵器だ。正直映画を観て憧れはするものの実際持たされても撃つ気は絶対に起きない。俺が購入したのも牽制に使えるかと思っただけで人に対して真面目に撃つ気はサラサラなかった。

 思わず頭を抱えてしまう。

 もし神多夢を使うというなら爆笑しながら撃てるかもしれないが、さっき自分で「神多夢は使うな」と言っていたのだから尚更撃つことはできない。


「……ダメだ。ルーズを傷付けてしまう」

「えー大丈夫なのにー。あっ、じゃあさ、私の横に撃ってよ。それで大丈夫かどうかわかるから」

「いや、それでもだな……」


 俺がいつまでも駄々を言っていると流石に怒ったのかルーズが頬を膨らませながら斧槍をこちらに向ける。



「これ以上拒んだら絶交だからね!」

「なぜそうなるっ!?」



 あまりにも力強く言ってくるので軽い溜息を吐き、両手で銃を構える。

 本人もああ言ってるし、そもそも横にズラして撃つんだから跳弾しようが大丈夫だろう。そんなことを考えるが、やはり人に向けるのは怖いものだ。

 漫画のように片手で撃ちたかったが、初心者というのもあるし何より外しては駄目な試し撃ちだ。慢心でルーズを傷付けてしまったら俺が自殺しかねない。


「……よしっ、撃つぞ!」

「バッチコーイだよ!」


 笑顔のルーズを片目で見据えつつ、その隣に照準を合わせる。自分に大丈夫だと言い聞かせ、引き金に力を込め……



 パアァン!


 思ったよりも小さい反動と共に乾いた音が鳴った。

 ルーズはというと外傷もなさそうに変わらず満面の笑みで立っている。安全を確認して胸をなでおろすと、ルーズが拳を俺に突き出し、開いた。


「?」


 遠くであまり見えないが光る小さい物が掌に乗っている。目を細めてよくよく見て思わず声を上げた。



 それと同時にルーズが動いた。

 俺へと一直線に、野球玉のような速度で駆けてくる。


「ちっ!」


 それを見て構わず銃を構え躊躇なく撃った。

 パアァン!


 乾いた音が鳴るが、ルーズは構わず走ってきている。それに対し夢中で乱射するが、ルーズが何かしらする度に高い金属音が鳴るだけで当たった様子はない。


 しかもベジタボゥとの戦闘時にあった『周囲の時間が遅れ自分だけが世界に取り残される感覚』がいつまで経ってもこない。

 ただ速度を下げず突進してくるルーズが恐ろしくて何度も撃つ。しかしそれら全てが金属音を鳴らすだけで、ルーズへ何の変化も与えていない。

 そして時が来た。


 カチカチカチ。


「しまっ!」


 夢中で撃つあまり弾数を数えていなかった。そのせいでホールドオープンの状態に気付かず何度も引き金を引いていたのだ。

 マガジンを取ろうと手をポーチに回すが



「はい、おしまいっ」



 眼前に斧槍を突き付けられた。

 身体中から嫌な汗が溢れ出る。

 目の前のルーズが別物のように見えた。


「どう、神多夢は使ってなかったけど何とかなったでしょ?」

「……あ、あぁ」


 情けない声が洩れる。

 これが実戦なら間違いなく殺されている。しかも、恐らくルーズは手加減をしてくれた。そうでもない限り、音速の弾に反応できる速度が出せるのに走ってくるあの遅さはまずない。

 こちらは近代兵器を使ったというのに、相手がいくら強力な力を持っていようが圧倒的に一方的に蹂躙できると確信していた、自分が最も信頼していた武器が役に立たなかった。その事実が俺に重くのしかかる。


 相手がどこぞの国の最強さんならまだ良い。そっちの方が剣での戦いに納得いくしロマンがある。

 だが今回相手にしたのは、軽く褒めただけで赤面し、下着姿を見ただけで取り乱し体育座りするような高校生くらいの小さな女の子だ。

 そんな女の子に神多夢なしに負けた。


「……ルーズに勝てる自信がない」


 心からの本音が出る。

 ルーズが異常に強いなら理解できる。だがルーズがこの世界の基準だとしたら?

 いやそんなことはあるまい。

 前に戦った帝国兵も記憶によればかなりの手練れ揃いだったらしい。そう考えればルーズが異常なのか。


 ……なわけないな。


 俺はまだ神多夢相手に戦ったのはベジタボゥだけだ。

 それも記憶を辿れば、まだ手加減されていた。

 機動する戦士っぽい名前に騙されていたが、もしかしたら神多夢は世界から異端視される程の化物なのかもしれない。


「どうしたのフウト」

「うわっ」


 顔を覗いてきたルーズに思わず仰け反る。

 銃相手にものともしない少女。そう考えると、一気に別物に見えた。こんな奴がうじゃうじゃいるんじゃ、確かに銃なんて所持していても意味がないのかもしれない。

 俺が変な顔をしていると、ルーズが膨れっ面でずいっと顔を近付けてきた。



「もうっ、無自覚者みたいな顔しないの!

 一応言っておくけどフウトも私と同じ神多夢なんだからね。それに私とは違って脈動でしょ、なら肉弾戦になったら私より化物なのはフウトの方なんだから!」


「……はぇ?」



 思わぬ言葉に絶句した。

 先程のルーズの動きだけでも十分化物じみていた。

 銃弾を避ける動作、弾く動作、全てが認識できるものではなかった。



 それなのに、俺の方が化物?




 ポカンと口を開けていると、ルーズは俺から銃とマガジンを奪い取り装填すると銃口を変な方向に向け遊んでいる。


「こういうのって神多夢殺しで有名だから、神多夢は忌避するんだよね。私も何度か向けられたことあるし」

「……大丈夫だったのか?」

「うんっ。さっきみたいに追い払ってあげたんだ!」


 軽い話に思わず笑みがこぼれる。

 こんな軽口だと、化物からルーズに戻った感じがする。






「じゃあ次は私が撃つね!」


 満面の笑みで馬鹿発言するルーズは、やっぱり化物かと思った。

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