俺。おきるだけ
完全不定期更新です
朝がきた。希望の朝だ。
なんて戯言は社畜生活から解放された今だからこそ言えることなのだろう。
窓から外を見てみると嫌になるくらいの快晴。
動きたくないし動く意味が見出せない天気と言ってもいいだろう。
「……死にたい」
一言呟いて溜息を吐く。
アバントリアに来てすでに3日。異世界に来てから6日も経っている。
昨日シュナイデンに街の案内を任せてみれば殆んどが通行止めや立ち入り禁止といった物に当たり、最後に行ったところなんて裏通りの奥にあった瓦礫の残骸だった。
宿に戻ってからは簡易的なシャワーを浴びパンツだけ履いてそのまま泥のように寝ていた。
もうあれだね、女の子と一緒に歩くもんじゃないね。
歩幅は小さいくせによく歩く、休憩なしで7時間も歩かされて太腿がパンパンマンだ。
「あいてててで……」
しかしこうしては居られない。
既に2日もの時間を無駄にしているのだ。これ以上の浪費はいけない、俺自身のために買い物に行こう。
まだ痛む体をズラしながらベッドから降りる。
コンコン。
それと同時に扉から音が鳴った。
店の人が朝飯の知らせに来てくれたのだろうか、昨日までは無かったが今日からやり始めたのかもしれないな。
「はいはい今行きますよ」
足を引きずらせながら扉へ到着。ドアノブに手をかけ外開きの扉をゆっくり開けた。
「おはようユウトくん。今日は私の武器選びに付き合っ」
「なにか幻覚でも見ていたのかもしれないな。二度寝しなければ……」
扉を閉めて鍵をかける。
決意した矢先に自分の時間が削られるようなこと、ギャグ漫画でもない限りありえないだろう。
あれは幻覚だ、なぜなら俺は異世界でゴブリン倒す勢いでドラゴンをも倒すチート主人公なのだ。絶対コメディ漫画に出てくるようなヒロイン達に振り回される馬鹿とは違う。
「おーいっ、開けてー、私だよールーズだよー」
「ルーズかぁ……たしか取引先のおっさんが時間にルーズだったなあ」
ベッドの中に入るとオスクラが目を覚ました。
まあこっちは面倒でもないから別に問題はないんだけど。
「おはようオスクラ」
「……あ。フウト」
欠伸をして上半身を起こすと、毛布が落ちて肌色が露出する。
俺は洗面台にまで行きタオルを濡らし絞ってからオスクラにまで持っていき、手渡して顔を拭くよう促す。
オスクラが顔を拭く時間を待ち、終わり次第タオルを受け取る。
まだ眠そうだが少しはスッキリしたようだ。
「おはよう」
「……ありがとう。それより、玄関の方が煩いのだけど」
「ほっといて良いんじゃないのか?」
「いえ、私が行ってくるわ」
不機嫌を露わにしながら寝起きとは思えない動きで扉の方まで歩いていく。
面倒とは思いつつ俺もそれについて行き、オスクラの後ろで待機した。
「……あら、こんな朝から何の用かしら」
「あっ、おっはよう。もうフウトくんが酷いんだよ、開けたと思ったら突然と、じ……」
ルーズが言葉を詰まらせる。
次第に首から耳にかけて一気に赤くなっていく。
「あっ、あっ、あっ」
「? どうしたのよそんなに狼狽して」
震えた手で俺達を指を指し視線が泳いでいる。
何事かと思ったが、改めて自分達の格好を思い出して合点がいく。大人の階段を登れていないルーズなら尚更だ。
途端、悲鳴にも近い叫び声をあげた。
「なっ、なんで二人とも、はははは、裸なんですか!」
「いや半裸って言えよ」
こちとらパンツは履いているんだ。どこからどう見ても半裸、完全にセーフだ。
男なら普通にしてるし、何処かではこれに片手武器と焼肉セットを装備して巨大生物を狩る人達がいるのだとか。そう考えると寝るのにパンツだけなど一般的だ。
「海外ドラマっぽくしてみたんだ」
「か、海外ってアサカでもそんな格好で寝る人はいないですよ! そっ、それに……」
ルーズがちらっと俺達の後ろを見る。
そこには先ほどまで俺達が寝ていたベッドが見えた。完全に二人で寝た形跡があるのを確認すると、ルーズの顔がますます赤くなる。
「下着姿の若い男女が一つのベッドで一緒に寝るなんてっ、ヘンタイですセクハラですエロです! フウトくんは今すぐ憲兵さんの所に行ってください弁解なら死んでから聞きますから!」
「一方的に俺が悪いの!?」
まあ普通、俺が床で寝るとかだろうな。
でも疲れてて久しぶりのベッドが目の前にあるというのに寝ない奴がいるか?
それにオスクラが「やっぱり童貞には早すぎたかしら」なんて煽ってきたのだから入るしかあるまい。あと俺の名誉のために言っておくが、入ってからやましいことは何一つやっていない。
そもそもやれるような肝っ玉など社畜になる以前から側溝に捨ててきたわ。
「フウトは悪くないわよ。そもそも、しっ下着姿を見られて、いいいい一緒にねっ寝るくらいのことでっ何を取り乱しているのかしら」
余裕ぶって言い放つオスクラ。
そんなこと言うなら、まず顔と声をどうにかしなさい。思いっきり動揺してますがな。
しかし、あまりにも取り乱し過ぎたルーズには見えていないらしく感嘆の声をあげ、また前のようにブツブツと呟き始めた。
このままこうしていうのもアレなので、取り敢えずオスクラとルーズを引き離す。
「準備するからちょっとだけ待ってくれ」
相手がなにか言う前にサッサと扉を閉めてオスクラを部屋へと引きずっていく。
相変わらず赤面だが構わず服を着せる。ここ2日やってきたことなので手馴れたものだ。
さらにオスクラは服に無頓着なのでエスペランサが一時期着ていたような小難しい物ではなく動きやすさを重視した物だ。男の俺でも簡単に着せることができる。
オスクラは基本的に朝が苦手だ。だから俺が準備をしなければこいつは昼頃まで平然と寝ていることが多いようだ。
「……フウト」
「なんだ?」
「あの話決まったのかしら?」
俺は黙ったまま服を着せていく。
それに対しオスクラはなにも言わず、時たま欠伸をあげながら服が着させられるのを待っている。
最後に俺が購入したリボンをこっそりとつけて完成だ。
「もう少ししたら言うよ」
「そう」
会話はこれっきりだ。
俺も着替え腰に短剣を挿して準備万端だ。これで人前に出てきてもルーズみたいに変な声を上げられることはないだろう。
今度こそ堂々と扉を開ける。
「またせたな」
「フウトくん遅い!」
そこには体育座りをしていたらしいルーズがいた。
苦笑しながら後ろ手で扉を閉め、二人だけで廊下を歩いていく。
ルーズは前に会った時と同じような格好で手には相変わらずの斧槍が携えられている。今日はそれを大きく振りながら歩いているので俺に嫌がらせにでもしているのだろう。
1階に降りると受付嬢のセルジュが暇そうに欠伸を噛み殺している。
繁盛していないわけではないが、朝には殆んどの客が出て行くので受付係りとしては暇なのだろう。
そんな彼女に手を振り外へと出る。途端に日の光が身を焼き、その眩しさに目を細めた。
「さあ私の斧槍を買いに行こうっ!」
「………」
ベジタボゥの戦闘から特にこれといった変化がない。夢幻略奪者と言われても普通の人間と差して変わらないため自分が特別なのだという実感も特にない。
しかも街に来たおかげで最近では飯食って排泄して寝るだけのような気がしてならない。
これも社畜が長かったために感じることなのだろうか、こうして普通に過ごしていることがどうしても無駄だと考えてしまう。なにかしなければ死んでしまいそうだ。
「こうして人間は社畜へと身を堕とすのか……」
「なに馬鹿なこと言ってるの、早く私の武器買いにいこうよー」
といってもやることがないのも確かで、世界を震撼させるような力を持っているわけでもない。
ここいらで魔王の娘とか出てきてそれを俺が倒して嫁にしてくれーとか言われるようなドタバタ感がほしくなってくる。まるでポテチにビールだ。次点にコーラ。
それなのに隣にいるのはかしまし娘が一人、世界よ俺のチートっぽい能力っていつ出てくんのさ。
「ほら行くよっ、目指すは武器屋ヌエドリ!」
「はいはいっと」
まあ、もう少しくらいは、このノンビリ異世界生活でも満喫するとしよう。
ポケットに両手を突っ込みルーズの後を追う。
その後ろで、平然と人が殺される非日常を知らずに。
過労で死にそう




