俺。世間知らずと山串
完全不定期更新です
「事実を真正面から見据え余さず事実だと認識し認めること。運や偶然という不明瞭な言葉で片付けず責任を持ち忌避しないこと」
なんて考えを持っていたのは社畜真っ盛りの頃、吐気を訴える程の仕事量に現実逃避しかねた時であって、異世界に来た今では良き思い出となった言葉でもある。
というもの、その言葉は今現在でも使用可能だった。
「……お前どんだけ食べるんだよ」
シュナイデンが山串を食べ終わり次の海串に手を伸ばしている。
串の数は40本超えたあたりから数えてない。ピザみたいなのも20枚あたりで、飲み物も10杯から数えてない。
まるで大食い選手権でも見ているかのような勢いで口の中に物を突っ込んでゆき、飲み干している。俺の小袋から銀貨の殆んどが胃袋に飲み込まれていた。
口が汚れるのを気にせず食べるので俺は出店でハンカチを買い、濡らして時たま口の周りを拭いてやる。
その動きはエスペランサ相手にやっていたので手馴れたものだ。
「あ、ほらまた汚れてるぞ」
「ん……」
小さい口にハンカチを押し付けタレを拭う。
この行動も何回やったか覚えていない。
周りから見たら似てない兄弟にでも見えるだろう。なんてったって周囲から生暖かな視線が集まっているんだ。
まさか今さっき知り合った仲とは誰も思うまい。
また新しい肉に手を伸ばしているのを眺めながら袋の中身をチェックすると、そろそろ終わりにしなければオスクラに怒られそうな範囲にまできている。
「お前飯とか食べてなかったのか?」
「………」
「マジか」
無言の肯定にこめかみを押さえる。
じゃあなんでそんな上等な服を着てるんだよと問い詰めたかったが女の子には秘密の一つや二つあるもんだろうと匙を投げた。
シュナイデンは最後の1本を食べ終えると顔をこちらに向けてくる。目を閉じてまるでキスを待つ姿に見えるが、タレまみれの口とはしたくないよね。
「はいはい。ミントアイスなら許容範囲だったんだけどねー」
再び口の周りを拭い、ハンカチを洗って次は顔全体も拭いていく。
それが終わるとシュナイデンは椅子を降り、俺の前に立ち手を取る。
行動がよく分からなかったのでそのまま待つと俺の手を自分の胸へと押し付けた。
「ぶっ!」
ルーズ程にはないがオスクラよりずっとある胸は、エスペランサよりも柔らかく温かいものだった。
しかし記憶ではあるものの実際に女の子の胸に触れたのは初めてで、興奮よりも訴えられるとか社会的死とか罰金だとかが頭の中で駆け巡り感触を楽しむなんてはもってのほかだ。
さらに嫌なことは続くもので
「んぅ……ふっ」
シュナイデンの表情も歪み色目いた声が、さっきまでタレまみれだった口から漏れる。
あ、指先の方で何か立った。
あと俺の下腹部のナニも立った。
「……って、馬鹿野郎ゥ!」
「………」
思いっきり手を引き戻す。
やばい、あと少しで犯罪者になるところだった。
そんな俺の焦りも知らずシュナイデンは小さく小首を傾げている。その顔は無表情に戻っていた。
「どうしたの。やらないの、性行為?」
「やんねえよ!? どういう神経したら幼気な女の子を毒牙にかけようとする馬鹿いんの!」
「…………この街には、92人いた。あと17人。」
お巡りさんっ、この街の男共とっ捕まえて下さい!
しかし最近の子は進んでらっしゃる。そんなことを平然とした顔で言うとか流石としか言いようがない。
まあ、それが良いか悪いかでいうと俺的には悪いと思ってしまうわけで、どうにかしなければと考えシュナイデンの両肩を掴んだ。
「いいかシュナイデン、いい歳した女の子が日中平然と性行為なんて言っちゃダメだ。もっと恥じらいとか……は古い考えか、とにかくエロの方向に考えるのは良くないぞ」
「よく……ない?」
「少なくとも俺は嫌いだな」
「……じゃあ。どうしたら、返せる。お礼?」
「いや、どうしたらって……」
まさか本当にそれ以外のやり方を知らないのか?
もしそうだとしたら、かなりヤバい。
この世界についてよくわかってないが女の子が性行為以外のことを知らないなんて、どんな世界でもダメに決まってる。
出会って間もないし事情も知らない。
この街に居られるのも今のところ1週間と決まっているし今後の方針も、何をするかも決まっていない。
そんな自分のことも面倒見切れてない状態でまた面倒を背負い込む趣味はない。社畜人生で嫌という程やってきたから、尚更だ。
それでも、このままにしておくのは、人としてどうだろうか。
まあ、あれだ。これも異世界探索の一つってことで、そうそうシュナイデンの常識を正すとかそんなんじゃなくて人間観察の一種だ。
いや無理矢理なのは分かるけど、このままだと絶対後悔する。
「……ただ「ありがとう」って言えばいいんだよ。俺はそれだけで十分だ」
「私は、要らない?」
「いやシュナイデンは必要だな。でもそれは肉体関係的な意味合いではなくて……そうだな、友達、としてとかはどうだろうか」
「ともだち?」
「そうだ。友達同士ならエロいことじゃなくて、一緒にいて、思うことがあったらお互いのことを口で教えあうんだ。決して肉体的な意味ではないぞ」
難しいことだったのだろう。シュナイデンはうんうんと無表情のまま唸り何度か体も捻っている。
今までどうやって生きてきたのか疑われる程に何も知らないでいる。ここまでの世間知らずは漫画の世界だけにしかいないと思っていたが、どうやら世界は狭いらしい。
そして俺も俺でおかしくなっているようだ。
今までの俺ならここまで変な奴に会ったらどんな外見だろうと忌避していた。
それなのに、逃げようと考えると心臓が激しく鼓動を打ち、嫌な予感しか生まれなくなっている。どうにかしてやろうという考えだけが頭の中を埋め尽くしていた。
だがそろそろ帰らないとオスクラが怒りそうだし、3日も野宿をした疲れが押し寄せてきている。俺自身が限界にきている。
だから、相変わらず唸り続けるシュナイデンに笑みを浮かべつつ妥協点を告げよう。
「なら明日、街を紹介してくれないか?」
「あんない?」
「俺は今日ここに来たばかりで、この街についてまだ何も知らないんだ。だから、性行為の代わりに俺を案内してくれないか?」
少し驚いた顔をすると、再び黙り込んで
「……わかった」
と小さく頷いた。
胸を撫で下ろしながら席を立つ。
そしてシュナイデンの両手をとって正面から顔を覗き込む。無表情に戻っているが、俺には少しだけ、最初に会った時よりは変化があるようにも思えた。
再度笑いかけながら、力強く手を握る。
「じゃあ、また明日。昼頃にここでまた会おう。そうしたら、また食事くらい奢るよ」
返事は帰ってこなかったが、明日きっとここに来てくれるだろう。
なぜか確信にも近いものを感じ取りながら、無表情のシュナイデンに再び会う約束をとりつけた。
友達として。




