俺。銀髪女に出会う
完全不定期更新です
「じゃあ次は私が撃つね」
「は?」
爆弾発言をしたルーズは相変わらず満面の笑顔をこちらに向けている。
思わず頭を抱えてしまいそうになるが、なんとか堪え平常心を保つよう深呼吸をした。
……よし落ち着いた。
「ふざけたこと言ってんじゃねえぞ小娘。一度四肢をバラバラにされねえと気がすまないみたいだな」
「はにゃあ!? フウトくん怖いっ、怖いよフウトくん!
それ人がやっちゃいけないスマイルだよっ!」
ははは、そんなことないじゃないかルーズ君。
今の僕は完全に紳士。どこぞの監督宜しく四肢を千切り取りたい気分だけど全く問題ない。ノープロブレム。
だがルーズはそう思ってないらしく慌ただしく手を動かしている。
「いやね、あのね、多分なんだけどフウトくんでも剣持てばいけると思うんだ!」
必死に叫ぶ様子が面白くて少し落ち着いた。
しかし剣を持てばねえ。たしかにさっき銃を持った時は特別なことは起きなかった。そして前に特別なことが起きたのは剣を握っていた時だ。
未だ半信半疑でもし何も起きなかったらガチバトルしそうな勢いだけども、まあ多分こっちの方が歳上なのだから多少は我慢しようではないかワトソン君。
「剣つっても今は大剣持ってきてないぞ」
「その腰にぶら下げてるのじゃダメなの?」
指摘されて、短剣に触れる。
外出する時は何気なく身に付けているが実際に使ったことはない物だ。だがキチンと整備されていて枝なんかなら簡単に切れ、かなり愛着のある物らしい事がわかる。
しかし武器屋での一件がある。
これを触ることは俺が俺でないような気がする、異常な存在だ。使うことに抵抗が強かったりもする。
なので首を横に振った。
「いや、これは駄目だ。別に最弱さんを意識しているわけじゃないが、俺のアマダムがそう囁くのだよ」
「……アマダムって、なに?」
まあ仕方がないだろう、今回は諦めて俺は鉛玉でもパンパン撃っておこう。
そう考えて銃を奪い取ろうとしたその時、一本の剣が目の前に刺さった。
「……!」
瞬間、二人同時に神多夢を発動させ周囲を見渡す。
すると一人いた。
照明に輝く銀髪が目を惹く長身の女だ。
(見られたなら……殺すか)
短剣を使うかどうか悩むよりも早い速度で判断を下し、腰を落とし足に力を加える。相手が普通の人間ならば恐らくこの移動速度でぶつかるだけで殺すことができるだろう。それを確信して自分を射出しようと体勢を整えると
「待ちなさい。私はあなた達と同じ神多夢よ」
余裕気な笑みを浮かべる銀髪の女は髪をかき上げると、ゆっくりとした足取りで向かってくる。
見てみると確かに神多夢特有の存在感はあった。だがそれだけではない何かも混じっている。そして、俺とルーズ同時に戦っても勝てるかどうか分かりかねない十字架を持っていることがわかった。
目前まで来ると、女が手を差し伸べてくる。
「どうも、私はスフィーダ。あなた達も新調した武器のチェックかしら」
「あ、あぁ……」
笑顔につられて思わず手を握る。
この接触で夢幻略奪が発動するかと期待していたが、そんなことはなく至って普通に手を離した。
身長は俺と殆んど同じと女性にしてみれば長身、さらにモデルのように足が長く全体的に整った体型でかなりの美人だ。
やばい手汗無かったかな、気持ち悪いとか思われてないかな……。
「それで、あなたはなんて名前なの? こんな街で折角同じ存在に出会ったのだから名前くらい知っておきたいじゃない」
「あ、えーと……フウト。です、はい」
「ふふふ。そんな緊張しなくても良いのに」
手を口に持っていき上品に笑う。
それに対して俺は手を頭に持っていき照れ笑いだ。完全に遊ばれてる感はあるものの、これはこれで苦ではない。
最近は出会う人が若い女の子ばかりだったので、こういった大人の女性という魅力もなかなか惹きつけられる。
まあ、こちらばかりに目を向けていると
「……………」
頬を膨らませたルーズが視界に入った。
さすがに無視されてればそうなりますよね。
ということでルーズの肩を持ち引き寄せてからスフィーダの前に押し出した。
「で、こいつがルーズっていいます。城門前で困ってた俺を助けてくれたんですよ!」
「へー……ということはあなたがフウト君にホーを渡したのね」
言って一つ笑い、俺へと視線を戻してきた。
そして、その視線は俺の短剣へと向けられる。
「……ところで、あなたの剣見せてもらっていいかしら?」
「え? え、えぇ特に面白味もないやつで良いなら」
スフィーダは一度優しく微笑むと、俺の短剣に手を伸ばしそれを抜き取り目を細めてまじまじと眺め始めた。
俺が手渡しするものだと思っていたので戸惑うが、次の言葉が出てこず見続ける。
するとスフィーダが感嘆の声を上げた。
「あなたライフォード家の関係者だったのね。それにこの紋様はフィオレ姫の物かしら、神多夢だから護衛騎士ってとこ?」
また意味不明単語キター!
いや、夢幻略奪で得た記憶を辿れば見えてきたぞ。たしかライフォードはここサブリナル王国の王家でフィオレはそこの姫か。んで、俺の短剣はフィオからのプレゼントに貰ったやつだった。
いやあ懐かしいな、あれは確か課外授業の帰りで探索に必須の短剣すら持っていないのをフィオに知られて、次の日すぐにこれをくれたんだ。
王からフィオにだけ与えられた紋章が刻まれていて、これを持つということはフィオに認められた存在だと形として証明されたということで、当時は冷静なふりをしつつも内心は小躍りしたもんだ。
あれからもう1年も経つのか、当時はそれはそれは……
「どうしたのフウト」
「え?」
ルーズの声に我へ帰ると、心配そうな表情で見上げていた。
それはこの街に来てから一度も見たことがない、ルーズとは思えない顔だ。
「俺、変だった?」
「そうね、酷い顔だったわ」
今さっき出会ったばかりのスフィーダから酷い言葉を受ける。
なにこれ酷い。
鏡があれば良いのだがそんな物こんな地下にあるはずもない。だが心配され続けるのもあれなので出来る限りの笑顔を作り、さらにルーズを安心させようと頭も撫でてやる。
「俺は元気ですよー」
「むー、子供扱いするなあ!」
ルーズの頭をぐりぐりと撫でつつ先程の感覚を思い出そうとするが、駄目なようだ。
あれはベジタボゥの記憶とは違い元からあったような感覚。
ベジタボゥの記憶が棚の中にあって引き出して閲覧するならば、さっきの記憶は棚の上に置いてあり手軽に引き出せるような感じだった。
(……まあ、大体分かったけどさ)
今まで抱えていた問題の糸口を見つけたところで、目が行くのはスフィーダが投げたであろう剣だ。
床に突き刺さるそれは細身のロングソードで刀身には細かい文字が刻まれていて見るからに高そうだ。
「で、スフィーダさんこれは?」
「あぁ君がこの剣を使うことを嫌がっていたみたいだから、その剣を使うと良いと渡したつもりだったの」
「なるほど」
うむ親切心か。
なら受け取ろうではないか、と言いたいがこれ使って傷でも入ったら法外な金額要求されたりしないかな。
チラッとスフィーダを見ると肩を竦めてみせた。
「別に壊してしまっても構わないよ。まあ、特注品だからそうそう壊れることはないだろうけどね」
「……あ、ありがとうございます」
「むー」
ルーズが再び頬を膨らませているが無視だ無視。
特注品とか聞いたらかなり怖くなってきた。だが壊してしまっても良いと相手が言ってきているんだ。
だけど壊れたら弁償しよう、持ち金では絶対足りないだろうけどさ。
礼をして持ってみると予想以上に軽い剣だ。
刀身が長いわりに重心は安定していて使いやすい。
それに握りには目に見えないようなへこみが多数あり、その位置が丁度指が乗る。まるで持ち手のことを考え作られたような出来栄えだ。まあここでの持ち手はスフィーダだろう。
「だいぶ良い剣ですね」
「そうでしょう。なんせサブリナル王国随一の腕を持つ鍛冶屋が打った特注品だからね」
「練習とはいえそんな物を使っても良いのですか?」
「私自身あまり使わないの、だから誰かに使ってもらった方がその子も喜ぶと思うわ」
再度頭を下げて改めて握るとなかなかしっくりくる。
もしかしなくても大剣より使い勝手が良い。というのも国一番と名高い鍛冶屋が打ったとなれば、誰にでも馴染む剣が生まれるのだろう。
しかもここはファンタジックな世界なのだから、魔法とかで誰にでも馴染むという設定かそんな類に違いない。
それを構えルーズを見据える。
今度はあの世界から取り残される感覚があった。
やはりルーズの言うとおり剣を持つとこれがあるらしい。恐らくルーズも斧槍を持つことでこの感覚を得ているのかもしれない。
その本人はむすっとした顔をしつつも数度床を蹴るだけで数十メートル先までたどり着いた。
スフィーダが離れるのを感じ取りながらも構えを崩さない。
そうしていると
パァアン!
忠告も無しに銃声が鳴る。
だが今回はしっかりと認識できた。
漫画であるようなスローモーションではないしマトリックス避けなんてもってのほかだ。
それでも通常と違って動くだけの時間はある。
剣を軽く横に振るう。
それでけで弾道は横に逸れ在らぬ方に飛んで行く。
なるほど、こうやってルーズは避けていたのか。見てる側に回ってみると化物と思ってしまったが、こうして体験してみると案外簡単だった。
自分も十分チートスペックなのだと確認し終えてから再び構える。
ルーズも斧槍を構え、瞳がいつものとは違う物になった。
「神多夢はなし、だよな」
「これは武器のテストだから、遊びだと思ってもらっていいよ」
声はいつもの明るいもののはずなのに圧し掛かる重圧はまるっきり別物だ。
これが戦闘時のルーズなのかもしれない。
しかし俺は6日前にここに来たばかりで剣も殆んど振るっていない。負けるのは仕方ないとしても、最初から諦めてワンクッション置くというのも癪だ。
不思議と笑みが浮かぶ。
「いつでも来い!」
声を張り上げながらもルーズを視界から逃さないよう見据え。
地面を蹴った。




