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ルーズ。大きな胸に誘われて

完全不定期更新です

 入り組んだ道を迷いなく踏み込んでいく。

 レースのスカートと胸元が開いた上衣で到底旅人とは思えないが、ピンと張った背や確かな足の運びは長年苦労し続けた者のそれだ。


 手には途中で切れた斧槍、断面は粗く切断した者の未熟さを物語っている。

 だがルーズはそれを見て優しい笑みをこぼした。


(あれだけ人と話したのはいつ振りだろう)


 そう思うとあのフウトとオスクラという同業者が面白いものに見える。

 今では人はもちろん動物からも毛嫌いされているのに、彼らは『それ』を感じ取ることなく平然としていたからだ。

 余程の馬鹿か鈍感なのか、それともこの程度では何も感じないのか。


 約束もした。

 これでまた彼らに会えるだろう。

 それがたまらなく嬉しくて、ここに来た目的を見失うところだった。



 顔を戻しルーズは目的の場所まで歩き続ける。

 次第に荒くれ者や物乞い、家を追われた者、沢山の人々が壁や地面に背中を預けている前を興味なさそうにして歩く。


 だがルーズはその間頭痛に悩まされていた。

 それは彼女の十字架によるもので、その願いと反対の行動に十字架が悲鳴をあげているのだ。

 彼らに持っている金を分け与えれば治るだろうかと考えたが、小さく首を振る。


 少しの金を与えられただけでは人は変わらない。

 それは散々見てきたもので、確信にも近いものだった。そして全体を見ず目の前の人だけに手を伸ばすことは偽善のほかない。




「……ここか」


 凛とした声が響いた。

 周りは廃墟ばかりで見捨てられた区域だとわかる。

 その一角の瓦礫の前にルーズは立っていた。


 建物だったらしいそれは綺麗な切断面が入っており、それが何者かによって斬られた物だと容易に想像できる。

 断面に手を這わせてみると、滑らかで一切のズレもない。そして微量の力を感じ取り、ルーズは顔を顰めた。


「やっぱり、あの子の仕業かな」


 切り目には大量の憎悪と殺人衝動が含まれている。

 もし思った通りの人がこれをやったのなら、かなり手遅れに近い。

 三つ編みをいじくりながら思考に耽った。


「んー……」



 少しだけ考えてから、やはり自分に考えるのは向いていないと思考を投げ捨てた。

 噂はすでに流れているし犯行はまだまだ続くだろう。

 話によれば既に60人以上の犠牲者が出ていると聞くが、ここが始まりの場所らしいしあと2、30人は死ぬことになるかもしれない。


「まあ、その間に会えるでしょう」


 全員を殺すまであの子は止まらない。

 今までの街を見て回った通りでいけば、憎むべき者達を殺しきるまで別の街へは移動しないはずだ。


 それならまずは武器を調達しなくてはならない。

 前に銅貨3枚で買った斧槍はフウト等によって斬られているし、あの子に会うにも戦闘は免れないだろうから、フウトから金を巻き上げて良い武器を買おうと決めた。


「ふっふっふっ、フウトくんに何を買ってもら……」


 笑みが消える。




「私に何か用かな?」



 ルーズが振り返ると、そこには一人の大男が立っていた。

 男はいやらしい笑みを浮かべると持っていたナイフをルーズへと突き立てる。

 流石にこれは考えなくてもわかる。

 ルーズは先ほど考えていた馬鹿が早速現れたことに溜息をついた。


「……はぁ、早くフウトくんに会いに行こっ」


 そう言って、ルーズはいつものように振るう。

 刃が付いていなくても、雑魚の一人払い退けるくらい簡単なことだ。



 トトトトトトトトトッ。


 軽い音がすると男が後ろ向きに倒れる。

 つまらない物を見た顔をするとルーズは欠伸を一つして軽い足取りで裏街道かれ出て行くために歩き始めた。


「ふっふっふっ、ホーも買ってもらっちゃおうかなー」




……




 軽い声が遠ざかるのを待って倒れた男へと周りの人が近寄ってくる。

 男の姿を見る者達は皆揃って顔を恐怖に引きつらせていた。


「……こんなの、人のやる事じゃねえ」


 一人が呟くとほぼ全員がやおら頷く。

 そして全員の視線は倒れる男へと向けられる。


 男は全身が風穴だらけで穴がない場所を探す方が難しい。

 その穴という穴から臓物や血が溢れ出ており、男が立っていた後方の壁には大量の骨血臓物らが斑点のように張り付いている。

 顔面も穴だらけで判別は難しいだろう。



 こんな酷い物でも処理しなければならない。

 そうしなければ、ここに住む者達が病気になりかねない。誰かの指示で数人が人間だった物を捨てるために持ち上げる。


「……あの嬢ちゃんを見ても恐れないなんて、馬鹿な男だよ」


 容姿も身なりも良い女が裏通りに入って襲わない奴はいない。

 それでも誰も見ようとすらしなかったのは、ルーズから発せられる脅威によるものだった。


 どんな強者でも見ただけで氷漬けにするようなそれは、圧倒的な力で押し潰されそうになる。

 しかも、荒くれ者ですら鼻をつまむような血の臭いが手に持つ棒にこびり付いていて日常的に人を殺していることがすぐ分かった。



「最近は斬殺事件が増えてるってのにあんな嬢ちゃんまで来たら……この街は本当に終わりかもしれないなぁ」


 老人は呟くと、祈るように天を仰いだ。

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