俺。パンツと自慰とアバントリア
〜前回までのあらすじ〜
時はサビ残の嵐が吹き荒れるさなか凶悪なブラック企業の支配に対し、社畜のフウトはとある筋からアピールを仕掛け、はじめての大仕事を手にした。
その仕事の間に、社畜の上司はブラック企業に関する秘密の企画書を盗み出すことに成功した。
それは「デス・ワーカー」と呼ばれ、会社を丸ごと粉砕できる破壊力を備えた恐るべき究極の最終兵器、死の仕事だった。
邪悪な社畜の手先どもに追われながらも、フウトは自らのサビ残を駆って、契約した企画書を携え異世界の少女への道を急いでいた。 この企画書こそが、社畜を救い再び社会に自由を取り戻すための鍵となるのだ・・・
アバントリアに向かって歩き続けて早3日。
もうそろそろ着いても良いんじゃね?
というところまで来ているが、その前に今まで黙っていたが聞いてみたかった事をぶつける事にした。
「……なあオスクラ」
「なにかしら」
長い髪を揺らしながら歩くオスクラは無表情を崩さないまま俺を見てきた。
無表情ではありながらも可愛い顔は俺の頬を緩ませるのに充分だ。
元気なエスペランサとはまた違った魅力がある。
「ひとつ、大事なことを聞いてもいいか?」
「確認をとるよりも待たせていることを失礼と思いなさい」
「なら聞かせてもらうがな……」
「替えのパンツってどうしてんだ?」
蹴りが飛んできた。
「っ、あっぶねぇ!」
「蹴られても文句は言えないことを言ったからよ」
「でも気になるだろ!」
オスクラと共に行動し始めて早3日。
途中に村なんぞなかったのでモチのロンサムジョージで三日三晩野宿だ。
現代人だった俺には厳しいかと思ったが、1年に1度行われたキャンプに参加していたのが幸いして楽しく過ごせた。
だが、その間一度たりともオスクラが着替えたのを見たことがない。それどころか身体を洗うとこすら見たことがない!
旅中のドキドキ二大巨頭をしていない俺のストレスはマッハだ。
「あ、それと旅中の自慰ってどうしてんだ? ティッシュ使う?」
「……アンタ、デリカシーないって言われたことないのかしら」
「胸を張って言える、ないね!」
溜息をはくオスクラと反対に俺は笑顔だ。
そんな俺を一度睨むと、足を止め正面から俺を見た。
「で、本当はなにを言いたいの」
「……やっぱ分かるか」
「私の神多夢を甘く見ないでくれる?」
オスクラの神多夢は2種類ある。
その一つ、深層の方は嘘や誠を見抜く第三の眼だ。
これのせいで何度下心を見抜かれたものか……
「実はアレのことなんだが……」
「あぁ、アンタのアレね」
すると真剣な瞳で俺の目を覗いてくる。
いや止めて惚れてしまうじゃないの。
ややあって視線を逸らすと確信を持った表情で頷いた。
「やっぱり、フウトは『夢幻略奪者』よ」
「……………」
「どうしたの?」
「いや、俺のことそんなに嫌ってるんだなって……」
「……だからっ、ムリって言ってるんじゃないの。夢幻略奪者のことを普通はムリって言うんだってば」
「完璧に無理あるぞ、その略し方」
まあ少し恥ずかしい思いはしたが、どうやら俺はベジタボゥが願ってもなれなかった夢幻略奪者という奴になっているらしい。
ベジタボゥの記憶を見たのも、それが原因だとか。
「夢幻略奪者は神多夢の十字架と記憶を喰らい、自分の物とする神多夢の中でも異質の中の異常、化け物よ。アンタもアイツの十字架と記憶を持っているのでしょう?」
「そうだな。確かに俺にはベジタボゥ・オプテネルの記憶がある」
今になっても奇妙な感覚だ。
自分という中にベジタボゥという存在がいるような、ベジタボゥという人格が同居しているかのような感覚。
父母、兄、エスペランサを愛する心は俺の中でも芽生えている。
そしてベジタボゥの神多夢も俺の物として頭の片隅に確かに存在する。
「でもベジタボゥは夢幻略奪者を御伽噺のような存在だと言っていた。それほど稀少な存在じゃないのか?」
「だからアンタが夢幻略奪者ということが信じられないの。でも私の神多夢で見ても間違いないみたいだし、私にしてみれば、なんでこんな変態スケベ童貞なんかがって感じよ」
「どどどどどどどど、童貞ちゃうわ!」
すると小さな笑みを浮かべ再び歩き始める。
急いで横について行きながらも会話は進められた。
「夢幻略奪者のこともそうだけど、アイツがあのアプテネルだったっていうことの方も驚きよ」
「そんなに有名なのか?」
「そりゃそうよ、当たり前だと捨てられ畏怖の存在でしかなかった神多夢を研究し常識として世に広めた人なのよ。あの人がいなかったら、今でも神多夢は受け入れられない存在だったでしょうね」
まさか復讐の為に研究していたとは誰も知らないだろうに世間ではかなりの有名人のようだ。
それを聞いてますます罪悪感が膨れ上がる。
「……ほんとうにベジタボゥを殺して正しかったのか」
思わず言葉にしてみたが、オスクラは目を丸くし素っ頓狂な声を上げた。
「戦いに正しいも悪いも正義も悪もない。あるのは戦って、勝ったか負けたか、それしかないのよ。
あの時にはああするしかなかった。でもそうしなければ私達がどうなっていたのか、今は分かってもあの時は知らなかった。戦いに過去も今もないの、あの時はアレが最善で、私達が今立っていることこそを誇りなさい。
そうしないと、全力で命をかけた帝国兵や神多夢研究最高責任者ベジタボゥ・アプテネルに迷惑で、相手にとってもこの上ない不名誉だわ」
「そう……だな」
言って無言で歩き続ける。
俺が殺されたとして、殺した奴がいちいち後悔してたら殺された方にとっては憤慨ものだ。ならお前が死ねばよかったじゃないか、と叫びそうだ。
「ん?」
歩き続けていると果ての方で微かに白いものが見える。
そのまま歩き続けるとその姿が目に見えた。
幾重にも並ぶ自然の黄金絨毯と守られるようにして聳え立つ城壁、その中の一番高い場所に立つ城。
中世時代を思わせるそれらはなんともファンタジックで美しいものだった。
「……着いたわよ」
「じゃあ、ここが……」
後ろ風に吹かれオスクラの長い髪が靡いた。
「そう。ここが神多夢迫害主義として有名な独裁の街アバントリア」
なにやら不安を匂わせる単語も、後ろ風に舞って消えていった。
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