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俺。混ざる記憶と異世界目標

完全不定期更新です

 思考が歪む。

 別の記憶が混ざるような吐気、他人の願いが自分の物となるような背徳感。

 なにより娘を心配する親のような感覚が俺を襲う。


 訳も分からずただひたすらに耐え続ける。

 経験した事がない他人の人生なのに、まるで自分が経験したかのような、あれが自分の物であるようなソレは耐え難く、その十字架は非情に重かった。


 あれだけ笑い、オスクラを失敗作とコケにしていた裏にあんな人生があったなんて知らなかった。

 漫画では敵の過去話なんて面白くないと思っていたのに、それが自分の事のようにのし掛かり、その絶望とそれに抗うため別の何かで埋める様は他人事とは思えない。


 また、俺はこんな人間を殺してしまったのだという罪悪感が生まれる。


 オスクラを殺す任務に不満を感じ国を裏切ってでも助けようとし、兄を殺してしまいながらも生きようという願いを、家族を愛し、研究所の人達を守り、軍に入っても兄の娘を愛し続けるその人を

 俺が殺したのだ。



 あんな人生を送れば、俺は途中で投げ出して死んでしまうかもしれない。

 ……こんな過去、知らなければよかった。


 そうすればベジタボゥという人物は俺の中で高笑いするだけのいけすかない敵でしかなかったのに、今ではどうして殺してしまったのかと後悔の念が渦巻いていた。




「ーーーうと……フウトッ!」

「ハゥッン!?」


 気付くと、オスクラの顔が近くにあった。

 その顔は出会った時とは違い不安の気持ちが顔に張り付いている。


「どうしたの? 顔色が悪いわよ」

「……い、いや」


 今さっきまでオスクラを殺すための資料を読んでいたのだ。まともに顔を見れるわけがなかった。

 だから視線を泳がせていたが、あることに気付く。



「……ベジタボゥは?」


 あの男の姿がない。

 俺にとっては第二の人生といっても過言ではない男は姿を無くしていた。


「アンタの神多夢で消したんじゃないの?」

「いや、そんな事は」


 周りを見渡してもベジタボゥの姿はない。

 オスクラが手を差しのばしてくる。


「ほら、早くここから行くわよ」

「あ……あぁ」


 久しぶりに女の子の手に触れたはずなのに、俺にはエスペランサを触れていたせいか不思議と何も感じなかった。

 立ち上がると傷が塞がっていた。

 あの夢を見ていたせいか?


「ところで、どこに行くんだ?」

「さあね、まあまずは体を休めないといけないから……アバントリアかしら」


「近いのか?」

「歩いて3日ってとこかしら。結構近いわよ」


 歩いて3日が近いとはエライこと言いやがったぞこいつ。

 まあ、でも他に行くあてないし、今じゃそんな気はしないが俺にとっては異世界1日目で右も左も分からないんだ。


「なら付いて行こうオスクラ」

「良いわよ、エスコートしてあげる」


 無表情に戻ったオスクラを見ながら、俺は軽く笑った。

 オスクラが変な物を見る目で見てきたので慌てて誤魔化す。


「いやっ、兄さんが「笑った方が疲れも飛ぶ」って言ってたから……」

「へぇアンタ兄貴なんているのね」


「……あ」


 ほんとうにゴッチャだ。

 でも俺の中にはたしかにベジタボゥの記憶が存在している。まるで自分の記憶かのように鮮明で、目を閉じただけでも思い出せる。


 だからこそ、バグズトロイヤ帝国へ行かねばならない。



「よしっ、行こうアバントリア!」

「そっちじゃない、こっち」


 オスクラの指す方向へ歩き出すと、ポケットに違和感を覚えた。

 確認してみると、どうやらペンダントのようだ。


 これには見覚えがある。

 たしかエスペランサと一緒の物を購入したのだ。

 それを思い出すと非情に申し訳なくなるのを感じ、また俺の中にあるベジタボゥがこれを身に付けろと言ってきている気がしてペンダントを首からかける。


 それを見たオスクラが不審な目を向けてくる。


「……ペンダントなんて、女が付けるものでしょ気持ち悪い」


「敵に回した! 今全国のペンダント男子全員敵に回した!」


 言いながら俺は笑う。

 たしかに笑った方が今の状況より何倍も良い。

 よくよく考えてみたら人を殺して女の子とそこから逃げるのだ。犯罪者のレッテルが貼られても文句言えまい。


 オスクラの後を追って横を歩く。

 あの男にとっての兄のように俺はこの少女の心からの支えとなるよう努力しよう。





 俺の、異世界での目標が決まったのは、そんな最悪な幕開けとなった異世界生活初日の事であった。

今日はこれで終わりです

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