捜査file.6 黒い陰陽師と密告者
午前9時。S.I.C.S地下本部のオフィステラス。
キーボードを叩く軽快な音とともに、オペレーションルームのE(神条)がモニター越しに楽しそうな声を張り上げた。
「ねぇねぇ、Nさ〜ん! ちょっと手伝って〜! 新しく開発した『怪異検知AI』の霊的音声学習テストやるよ〜!」
「……はぁ。Eさん、私は今、昨日の捜査報告書をまとめて――」
デスクで整然と書類を整えていたN(芦屋)が眼鏡のブリッジを押し上げ、困惑気味に溜め息をつく。
「いいからいいから! 陰陽師の本物の声で呪文を読ませないと、AIが霊波を認識してくれないの! ほら、マイクに向かって『急々如律令』って言って!」
「……分かりました。……『謹請、急々如律令』。」
Nが凛とした声でマイクへ呪文書を読み上げる。
すると、モニターに描かれた可愛らしい3Dの式神キャラクターが、パッと目を輝かせてスピーカーから合成音を響かせた。
『音声認識完了だにゃ! 萌え萌えキュン! 悪霊さん、飛んでいけ〜!』
「……は?」
Nの動きがピタリと止まる。
「えへへ〜! 隠しコマンド仕込んどいた! 可愛いでしょう?」
「Eさぁぁぁんっ!! 陰陽道の神聖な式神の呪文に何を学習させているんですか!! 萌え萌えキュンとは何ですか、萌え萌えキュンとは!!」
顔を真っ赤にして立ち上がるN。
「朝から賑やかだな、N。AIも愛嬌があった方が現場の緊張が和らぐのはわかるが、少しやりすぎじゃないかE?」
隣の席でコーヒーを淹れていたJ(山田迅)が、冷やかし混じりに淡々と呟く。それにEが「はーい。」と、叱られた子供のように肩を落とした。
「本当に、もう二度としないでください! 私は…」
Nが抗議しようとしたその時。Jのデスクの緊急端末が高らかに鳴り響いた。赤く点滅するディスプレイ。Jの瞳から一瞬で冗談の色が消え、冷酷な光が宿る。
「……遊んでいる暇はなくなったぞ。本庁から緊急入電だ!」
◼️◼️◼️
数十分後。
都内の首都高速道路、遮断されたトンネル内部。
赤色灯を明滅させた警察車両と鑑識班がひしめく中、重圧感を纏った大型護送車が突っ伏するように停車していた。
「……酷いな。外傷は一切ない。」
佐々木(S)が護送車の後部ドアを覗き込み、眉をひそめる。車内のシートには、逮捕された呪具ブローカーの男が、目をカッと見開き、全身の水分を吸い尽くされたような乾燥した遺体となって横たわっていた。
「死因は心不全……として処理されそうになったが、現場に到着した鑑識が『異様な空気』を感じてこちらへ回してきた。」
Jが静かに手帳をめくる。後から合流したK(鴉天狗)が、漆黒のジャケットの裾を揺らしながら歩み寄ってきた。
「……間違いない。ただの病死ではないな。この空間にはまだ、禍々しい妖の霊気が充満している。」
Kはクールな瞳を細め、手袋を嵌めた指先で護送車の壁面をなぞった。
「トンネルに入る直前、護送車だけが数分間、外部から遮断された『漆黒の結界』に閉じ込められたそうだ。外の警護車両からは、護送車が一瞬消えたように見えたらしい。」
「結界の中で、内部の容疑者だけをピンポイントで呪殺したってことですか……!?」
Sが息をのむ。
「ああ。……だが、問題はそこではない。」
Jの低い声が、薄暗いトンネル内に冷たく響いた。
「この護送車の走行ルート、通過時間、そして容疑者を本庁へ移動させるという決定……。それらはすべて、S.I.C.Sの極秘データベース内にしか保存されていなかった情報だ。」
「え……?」
SとKがハッと息をのむ。
「護送の情報は、本庁の一般捜査員にも伏せられていた。……にもかかわらず、敵は完璧なタイミングで結界を張り、容疑者を口封じのために呪殺した。」
Jの冷徹な眼光が、現場にいるメンバーたちをゆっくりと射抜く。
「……チームの内部、あるいは極秘アクセス権を持つ身内に、情報を敵へ流している『密告者』がいる。」
◼️◼️◼️
地下本部の鑑識室。
青白い照明の下、Jが提示したホログラム画面を前に、Nは息をのんだまま立ち尽くしていた。
画面に映し出されていたのは、本庁護送車のシステムに残されていた不気味な呪印——そして、もう一枚のアクセスログデータだった。
「……N。護送ルートと移動時間の暗号データを閲覧したアクセスログを洗った。……君のIDと、君の自室PCからのアクセス履歴が明確に残っている。」
Nの顔から一瞬で血の気が引いた。眼鏡の奥の瞳が激しく揺れる。
「な……ッ!? 申し訳ありません、Jさん! 私は……私は誓ってそんな真似はしていません!!」
「疑っているわけではない。だが、突きつけられたデータという事実は一つだ。」
Jは淡々と冷静に語りながら、画面に表示された被害者の遺体写真を指し示した。
「さらに、この呪殺に使われた術式……見覚えはあるか?」
「……っ! これは……我が芦屋家に伝わる禁術、『黒陰陽』の呪印です。……ですが、なぜ……!? この秘術が書かれた巻物は、本家の厳重な霊的結界の奥に封印されているはず……!」
ギュッとNの拳が握られる。
「外部の何者かが芦屋本家の結界を破って盗み出したのか。……あるいは、芦屋家の血を引く者が内部から持ち出したのか…どちらかだ。」
Jの静かだが鋭い言葉が、ナイフのようにNの胸を突き刺した。情報漏洩のIDログ、自室端末からのアクセス、そして芦屋家にしか扱えない禁術の存在。すべての状況証拠が、Nを「内通者」だと指し示していた。
耐えきれないというように、Nの表情が歪む。
「くっ……! 私は……私は自ら本家へ向かい、巻物の無事を確認してきます!」
「待て、N! 感情的になるな。君は一度――」
「失礼します!!」
Jの制止を振り切り、Nは逃げるように鑑識室を飛び出していった。
「あ、Nさん!? どこ行くんですか!?」
通路で鉢合わせたSが慌てて声をかけるが、顔色を変えたNは返事もせず、弾かれたように地下駐車場へと走り去っていく。
「ちょっと、Nさん……!? どうしちゃったんだ……?」
ポカンと見送るSの陰から、漆黒のジャケットを纏ったKが静かに姿を現した。
「……S、追うぞ。」
「え? K、Nさん何かあったのか? すごい顔してたけど……?」
Kはクールな瞳を細め、短く告げた。
「理由は後だ。……あの焦りようは危険だ。自らの潔白を証明しようとして、敵の罠に飛び込みかねない。」
鑑識室から出てきたJは、二人に命じた。
「S、K。Nの追跡を任せる。ただし、刺激はするな。……私は別のルートから、この『漏洩』のカラクリを洗う。」
Jは足早にさっていく背中を見ながら、胸の中の靄に小さくため息を吐いた。
「…悩んでいるのかい?」
その背中に静かに声がかかる。振り返った先にはどこから現れたのかお初が立っていた。
「これが悩まないでいられるか?」
「悩む…それは本当に悩んでいるのかい?」
「…何が言いたい?どういう意味だBOSS。」
珍しく苛立ちを隠さず尋ねるJにお初は、ゆったりと微笑んだ。
「悩んでいるのは自分の中の答えが、目の前の証拠と違うから…だろ?信じるべきは何か。…その答えは、もう出ているように見えるがね…?」
「……!」
お初はそのまま静かに部屋を出ていった。Jは何も言えずにそれを見送るしか出来なかった。
◼️◼️◼️
深夜。歌舞伎町の片隅に佇む、照明を落とした静かなショットバー。
カウンターの隅で、Jはロックグラスの氷を静かに揺らしていた。琥珀色の液体に映る自分の顔を見つめ、珍しく深く重い息を吐き出す。
「……らしくないな、迅。」
隣の丸椅子に、重厚な体を滑り込ませて腰掛けたのはQだった。Qはバーテンダーにプロテイン入りのシェイカーを注文することなく、ストレートのウイスキーグラスを手に取った。
「……お前、今日は非番だろ?そんなに俺の顔が見たくなったのか?」
「フン、一人で酒を飲むなんてメッセージを送っておいてよくいうぜ。……で? 珍しく眉間に皺を寄せているじゃないか。チームの中に『狐』……いや、スパイがいるとでも思っているのか?」
冗談まじりにいうQにJはグラスを口に含み、苦笑混じりに呟いた。
「データは嘘をつかない。データベースのログ、自室端末の形跡、芦屋家の禁術……すべてがNを指し示している。……だが、私の勘は、Nが白だと告げている。」
「なら、その勘を信じればいいだろう。」
Qはグラスを一煽りし、喉を鳴らした。普段の豪快な態度とは全く異なる、数千年の時を生きてきた大妖怪ならではの圧倒的な風格と眼光が、Jを射抜く。
「お前はS.I.C.Sの統括リーダーだ。お前が冷徹なロジックと仲間への信頼の間で迷ってどうする。……Nがハメられているのなら、真の黒幕を炙り出してその首を跳ね飛ばせば済む話だ。」
「……言うのは簡単だな。過去の記憶を失っている私が、本当に仲間を見極められているのか……時折、不安になる。」
Jがぽつりと漏らした本音に、Qは不敵に口角を上げた。
「忘れたなら俺が覚えていてやる。お前がどんな男か、俺が一番よく知っている。……安心しろ、迅。お前がロジックで追い詰め、俺が力と知略で粉砕する。それが俺たちのやり方だろう?」
Jは一瞬驚いたように目を丸くし、やがてふっと静かに笑った。
「……そうだったな。感謝する、Q…いや、九十九。」
「フン、お前がその名で呼ぶのは珍しいな。礼ならプロテイン一箱でいいぞ。……さて、暗い話は終わりだ。」
Qがグラスをカウンターに置くと、その瞳が金色に怪しく光った。
「Nをハメた浅知恵の黒陰陽師どもだが、妖界のネットワークを使って、アジトを吐き出させておいた。」
「……仕事が早いな、相棒。」
Jはグラスを飲み干すと、鋭い眼光を取り戻して立ち上がった。
◼️◼️◼️
翌朝。雨が静かに降り続く歌舞伎町の路地裏。
Jの乗る漆黒の指揮車へ、傘もささずに戻ってきたQ(九尾)がドアを開けて乗り込んできた。
「J。昨夜、妖どもから吐き出させた『葛籠寺』の件だが……Nがハメられた術式のカラクリが解けたぞ。」
Qは濡れた髪を軽く払い、不敵に口角を上げた。
「あれは数千年前にもあった『影移し(かげうつし)』の呪詛だ。本人の霊的波形を別の媒体へ転写する術だが……奴らはそれを、NのPCとIDログへ応用したのだな。」
指揮車内でPCを操作していたJが、静かに頷く。
「……古代の呪詛を、現代のデジタルログの改ざんに応用したわけか。Q、お前の知識と妖ルートの情報助かった。」
「フン、伊達に数千年も生きておらん。……で、Sの方はどうだ?」
同時刻。地下本部のオペレーションルーム。
「……おかしい。やっぱりおかしいぞ……!」
Sは目を真っ赤にし、三台のモニターに映し出された護送ルートの防犯カメラ映像と、交通管制データを血眼になって比較していた。
「S、もう朝だよ? 一晩中データ見てるけど、大丈夫……?」
オペレーターのEが心配そうに缶コーヒーを差し出す。Sはそれを一気に飲み干すと、モニターの一箇所を強く指さした。
「Eさん! ここ見てください! 護送車が結界に閉じ込められた直前、現場の手前にある『信号機の制御プログラム』が一瞬だけコンマ数秒、狂ってるんです!」
「え……? 信号機……?」
「刑事の勘です! 警視庁のメインサーバーに外部から侵入する時、必ずどこかに『トラフィックの歪み』が出る! NさんのPCからアクセスされたとされる時刻、Nさんは自分のデスクで僕と一緒にコーヒーを飲んでました。……つまり、NさんのIDと端末は、外部から遠隔で『身代わり』にされただけだ!」
Sは拳をデスクに叩きつけた。
「Nさんは裏切り者なんかじゃない! 人間の警察の捜査が、それを証明してるんだ!」
『……よくやった、S』
通信越しに届いたJの低い声。
『Qが解き明かした術式と、お前が割り出したクラッキングの痕跡……完全に一致した。Nのアリバイと無質は証明されたぞ』
「Jさん……! よっしゃぁぁぁッ!!」
Sがガッツポーズを決める。
『K、S。ただちに多摩の葛籠寺へ向かえ。単身で乗り込んだNを救出し、黒幕の黒陰陽師どもを拘束する!』
「了解!!」
◼️◼️◼️
多摩の深い森に包まれた廃寺・葛籠寺。
境内には冷たい雨が降り注ぎ、不気味な黒い札が幾重にも貼り巡らされていた。
「くっ……! 離せ……ッ!」
本堂の境内で、両腕を黒い霊鎖で縛り上げられていたのはNだった。単身で本家から盗まれた巻物を追ってここへ辿り着いたものの、敵の仕掛けた重厚な『黒陰陽』の結界に足をとられ、囚われてしまったのだ。
「フハハハ! 哀れだな、芦屋の面汚しめ!」
Nを見下ろすのは、黒い狩衣を纏った男——黒陰陽師・道玄だった。
「お前が大人しく濡れ衣を着ておけば、S.I.C.Sもろとも社会的に抹殺できたものを……わざわざ自分から命を捨てに来るとはな!」
「貴様ら……! 芦屋の秘術を汚し、一般人を呪殺するなど……絶対に許さん!」
「許さんだと? 命じたのは我らではない。……我らにこの『黒陰陽』の力を与え、警視庁のサーバーへ忍び込む術を教えてくださったのは、あのお方——『顔の見えない翁』様だ!」
「顔の見えない翁……!?」
道玄が禍々しい呪符を掲げる。
「さあ、死ね! 芦屋の血筋を引くお前の生血をもって、この地に大いなる妖を呼び降ろす贄としてくれるわ!」
黒い符が発光し、Nの胸元へ放たれた瞬間——!
シュバッッ!!
漆黒の刃が一閃し、黒い符が空中で粉々に切り刻まれた!
「……そこまでだ。」
雨を切り裂いて舞い降りたのは、漆黒のジャケットを羽織ったKだった。そのクールな瞳が、黒陰陽師たちを冷たく射抜く。
「な……何者だ!?」
「S.I.C.S捜査官、K。……N、無茶のしすぎだ。」
「Kさん……!?」
Nが目を見張る中、境内を覆う黒い結界が内側からバリバリと豪快に叩き割られた!
「へへっ! 間に合ったぜ、Nさん!」
特殊警棒を構えたSと、腕組みをしたQが煙の中から堂々と姿を現した。黒鎖で縛られていたNは、濡れた瞳を見開いて二人を見つめた。
「Sさん……Qさん……!? どうしてここが……!?」
「Nのアリバイは、Sが警察の鑑識データで証明してくれた。そして、この場所はQが割り出してくれたんだ。」
Kがクールな声で告げ、手刀の一閃でNを縛っていた黒鎖を切り払う。
「さあ、立ちなさい、N。私たちが来たからには、もう誰もNを傷つけない。」
「……っ、はい!」
Nは立ち上がり、メガネの奥の瞳に凛とした決意を宿した。
一方、手下を切り捨てられた黒陰陽師・道玄は、顔を引きつらせて叫んだ。
「おのれ、S.I.C.Sめ! 構わん、まとめて黒陰陽の式神どもで噛み殺してしまえッ!!」
道玄が不気味な黒符を投げつけると、境内の影から粘液を垂らした無数の黒い巨大蜘蛛が湧き出した。
「K、S! 雑魚の相手は任せたぞ!」
Qが袖を弾けさせ、重圧な霊圧を放つ。
「了解です! 」
Kが疾風のごとき速さで跳躍! 漆黒の翼を一瞬だけ羽ばたかせ、アクロバティックな刃の嵐で巨蜘蛛の群れを切り刻む。
「俺だって、刑事の意地がありますからねッ!」
Sも果敢に踏み込み、妖の弱点である眉間へ正確に特殊警棒の打撃を叩き込んでいく。
「ククク……知略の術式など、九尾の前では児戯に等しいわ。」
Qが前に出ると、道玄が放った呪詛の矢を片手で軽々と受け止め、そのまま粉砕した。
「な……呪術を素手で……!?」
「数千年間、世界を裏から動かしてきた本物の『呪』を見せてやろう。……J、指示を。」
通信インカムを通じて、車内からJの冷徹な声が響く。
『Q、道玄の足元の影だ。そこに「影移し」の術核がある。撃ち抜け。』
「了解だ、J!」
Qの手から放たれた金色の霊気が、道玄の足元の影を直撃する。その途端、術式が破綻し、道玄が苦悶の悲鳴を上げて膝をつく。
「しまっ……術が……!?」
「最後は、お前が決めろN!」
Kの呼びかけに、Nが前へ踏み出で、美しく袖を翻した。
「——天地の理、陰陽の道! 芦屋の正統なる術式をもって、黒き禍根を断ち切ります! ……『急々如律令』!!」
Nが放った清廉な白光の陣が境内を包み込み、道玄の黒陰陽を完全に浄化・封印した。
◼️◼️◼️
事件は解決した。
拘束された道玄は、取り調べに対し「ネットの『顔の見えない翁』からプログラムと呪術を授かった」と自白。Nの身にかけられた内通者の濡れ衣は、完全に晴れることとなった。
夕暮れ時。雨が上がり、茜色の光が差し込む地下本部のオフィス。
「Nちゃん〜! 本当によかったよ〜っ! 濡れ衣が晴れて安心した〜!」
オペレーションルームから駆け下りてきたEが、Nに抱きつこうとしたのを綺麗にNがかわす。
「Eさん……ご心配をおかけして、本当に申し訳ありませんでした。」
Nは申し訳なさそうに頭を下げつつ、隣に立つSに深々と礼をした。
「Sさん、私のために寝ずに鑑識データを洗ってくださって……本当にありがとうございました。」
「いいえ! 刑事として、仲間の無実を証明するのは当然ですから!……まあ、めちゃくちゃ眠いですけどね。」
Sが照れくさそうに頭をかくと、オフィスに温かい笑いが広がった。
「今回はSとQの手柄のようだ。」
Kが静かに微笑み、Qも満足そうに頷く。
その輪から少し離れたデスクで、Jは一人、PCの画面を見つめていた。そこへ、コーヒーカップを持ったQが歩み寄ってくる。
「……浮かない顔だな、J。」
「……スパイの正体は、Nではなく『本庁幹部の端末を遠隔操作していた敵のプログラム』だった。……だが、敵は警視庁の深部にまで手を伸ばしている。間違いなく、次の手を打ってくるぞ。」
「ククッ……上等じゃないか。どんな罠だろうと、俺たちが叩き潰すまでだ。」
Jはふっと口角を上げ、静かにコーヒーを口に含んだ。
——同時刻。
地下本部の奥深くに位置する、室長室。
薄暗い室内で、お初は古びた陰陽鏡を見つめながら、ぽつりと低く呟いた。
「……相変わらず悪趣味な手口じゃ。陰で糸を引くだけでは飽き足らなくなったか……。迅(J)、試されておるのはお前の『意志』かもしれんのう?」
鏡の表面に静かな波紋が広がり、黒い闇の中へと消えていった___。
(第6話・完)




