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第14.5話 「分岐」

今回は、新たに現れた二人の能力者の話です。

同じように傷ついた二人が、何を願い、何を選ぶのか。


少し前。


崩れかけた建物の前に、臨時の救護所が設けられていた。


「先生!」


「この人、呼吸が弱くなってます!」


咲良さくら 伊吹いぶきは、血に濡れた両手で男性の傷口を押さえていた。


それでも、指の隙間から血が溢れてくる。


「咲良、もういい」


医師が首を横へ振る。


「次の患者へ行け」


「でも、まだ息があります!」


「ほかにも助けを待っている人がいる!」


分かっている。


ここで時間を使えば、ほかの誰かまで手遅れになるかもしれない。


それでも、手を離せなかった。


「家族に……」


男性の指が、伊吹の白衣を掴む。


「ありがとうって……」


「自分で言ってください」


「私が伝えるんじゃなくて、あなたが――」


白衣を掴んでいた指から、力が抜けた。


男性の胸が動かなくなる。


「……待って」


首元へ触れる。


脈はなかった。


男性の身体に、白い布がかけられる。


また、助けられなかった。


「私……」


血に濡れた自分の手を見る。


「何のために、ここにいるの……」


その時だった。


ズズンッ!!


地面が大きく揺れた。


近くの建物が崩れ、激しい砂埃が救護所を覆う。


「助けて……!」


瓦礫の奥から、微かな声が聞こえた。


「中に誰かいます!」


伊吹が駆け出す。


救助隊員が、その腕を掴んだ。


「待て! 二次崩落の危険がある!」


「今入ったら、君まで死ぬぞ!」


もう一度、助けを求める声が聞こえた。


今度は、さらに弱い。


伊吹は救助隊員の手を振りほどく。


「まだ、生きてる」


「まだ助けを呼んでる!」


崩れた建物へ飛び込んだ。


瓦礫の隙間を這って進む。


鉄筋が白衣を裂き、肩へ食い込んだ。


割れたガラスで、手のひらが切れる。


それでも止まらなかった。


「今、行きます!」


崩れた柱の向こうに、一人の少女が倒れていた。


伊吹は鉄の棒を瓦礫の隙間へ差し込み、全身で押し上げる。


手のひらから流れる血で、棒が滑る。


「動いて……!」


僅かに持ち上がった瓦礫の下へ、自分の足を入れる。


少女の身体を引き寄せた瞬間、天井が崩れた。


伊吹は少女へ覆い被さる。


背中へ、幾つもの破片がぶつかった。


「ぐっ……!」


怖い。


痛い。


それでも、身体はまだ動く。


「傷ついたって、へっちゃら……!」


伊吹は少女を抱え、崩れかけた建物から飛び出した。


白衣を染めていた血は、いつの間にか他人のものより、自分のものの方が多くなっていた。


「腹部の損傷がひどい」


少女を診た医師の表情が曇る。


「脈も落ちてる。このままでは……」


また、命が消えようとしている。


「嫌……」


伊吹は血に濡れた両手を、少女の胸へ重ねた。


「助けたい」


「治したい」


「この人を、救いたい!」


今の自分にできることを、最後まで諦めたくない。


その瞬間。


伊吹の両手から、淡い光が溢れ出した。


少女の身体を包み込む。


止まりかけていた鼓動が、再び強く鳴った。


「……息が戻った」


伊吹は少女の鼓動を確かめると、白い布をかけられた男性へ駆け寄った。


冷たくなった胸へ、両手を重ねる。


「お願い……」


「戻ってきて……!」


しかし、光は現れなかった。


救える力を手に入れても。


失われた命までは、取り戻せなかった。



同じ頃。


崩壊した建物の中に、断上だんじょう けいが立っていた。


周囲にあるのは、砕けた壁と折れた柱。


瓦礫の隙間から、片手だけが伸びている。


何度呼びかけても、返事はなかった。


大切にしていた物は壊された。


守りたかった居場所も奪われた。


信じていた人との仲も、誰かに壊された。


継は、瓦礫から伸びた手を見つめる。


「壊されて、壊されて、壊されて……」


握った拳が震える。


「もう、疲れた」


何度大切にしても、最後には壊される。


何度繋ぎ止めようとしても、自分の手から離れていく。


「なんで俺だけが、壊されなきゃいけねぇんだ」


返事の代わりに、崩れた天井から小さな破片が落ちた。


乾いた音が、誰もいない建物に響く。


継は力なく俯く。


「最後には、全部壊れる」


ゆっくりと、目の前の鉄骨へ手を伸ばす。


「俺も、どうせ死ぬんだったら――」


指先が、鉄骨へ触れる。


その瞬間。


拳の震えが止まった。


「その前に、俺が全部壊してやる」


触れた箇所だけが、音を立てて砕け散った。



「……二つ」


佳子が突然、足を止めた。


「どうした?」


御鏡が尋ねる。


佳子は、遠くを見るように右目を細めた。


「新しいBeginningの反応です」


「少し前に、二つの力がほとんど同時に発現したようです」


「近いのか?」


「いいえ。私たち含め、それぞれ距離が離れてます」


佳子の表情が曇る。


「ただ――」


右目に、淡い光が宿る。


「正反対の波長を感じます」

お読みいただきありがとうございます。

新たに現れた、咲良伊吹と断上継。

二人の選択が、この先どこへ向かうのか。

第15話「分岐」でした。

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― 新着の感想 ―
XのRT企画から伺わせていただきました! 率直な異能バトルものという印象と、最低限の文で簡潔に状況を伝える作風が感じられて、読みやすくまとまった作品だと思いました! 読み手側の読解力を問わずキチンと…
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