第4話 「元一般女性さん、入学する」
第5話は8/13(木)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
——わたくし、エメルダ・ブライアロード。ありのまま起こったことを話すわね。
——将来わたくしが殺したりする女の子とお友だちになっちゃったみたい。何を言ってるのかわからないと思うけど、わたくしもわからないわ。
盗賊に襲われたが、緋夏の火魔法によってなぜか彼らがあっさり帰ってくれたことで、ことなきを得た。そして、その襲撃で怪我をしたリィサは、これまたなぜか通りがかった聖女アンネリーサによって救われたのだった。
正直、緋夏はこれ以上アンネリーサと行動を共にしたくなかったが、かと言って「ありがとう、さようなら」なんて、”エメルダ”じゃあるまいし感じが悪すぎる。
かなり、それはもうかなり緋夏は迷ったが、同じく聖アウロラ魔法学院の入学式に向かうアンネリーサを馬車に乗せてあげることにしたのだった。
「君は…光魔法を使えるんですね。ありがとうございます、助かりました。」
「はい、少しだけですけど…。」
「あ、あ、あわわわわ、あのそのえっと、あんた名前なんてーの?」
緋夏は努めて冷静に、既に名前を知っているのに知らない顔をして尋ねる。
「お嬢様!失礼ですよ!」
リィサが怖い顔で緋夏を咎める。
「ひぃ!!」
「わたしアンネリーサと言います。平民ですので、敬語なんてやめてください。」
「わ、わたくしはエメルダ・ブライアロード!よろしくね!……あ!よろしくしない!!しないから!」
「お嬢様!!」
「ふっ、ふふっ。なんで…なんででしょう。すごく安心しました。…貴族の方ってもっと怖い方ばかりかと。」
「あ、あはは、そういうこともあるかしら、ねえー!」
——な、何か勘づいた?聖女であるアンちゃんだ、あり得る!
「エメルダ様も聖アウロラ魔法学院に入学されるんですか?」
「わたくしは…しない、かな?」
——しまった。エメルダ・ブライアロードなんて名乗らない方が良かったかもしれない。
——今更だけど、顔も覚えられないようにした方がいいかな?
緋夏は口元を徐々に前世でマスターしたアヒル口にしていく。
「エメルダお嬢様!なんで、そんな妙な嘘をつくのですか!平民の方だからって、助けてくれた方にそういう態度を取ってはいけませんよ!」
「う、うるっさいわね!!あんたに何がわかるってのよ!!」
「はあぁぁ。——アンネリーサ様、お嬢様はこの通りの方ですが、お気を悪くなさらないでくださいね?」
「いえ、とっても楽しい方だと思います!こんな方とお友だちになれて、わたし嬉しいです!」
「おと、おと、おともだち!?」
「ええ、よろしくお願いしますね、エメルダ様!」
———
結局、聖アウロラ魔法学院へはアンネリーサと仲良く到着した。
かの学院は巨大な亀の甲羅の上にあった。それはもう大きく、最も幅の広い場所で2kmを超えるらしい。ゲームのフレーバーテキストにも書いてある。亀は一体どうやってこの巨体を維持しているというのか、不思議だ。
出発前、なぜそんなところに魔法学院があるのかとリィサに尋ねると代わりに隣にいたばあやが答えてくれた。「貴族の子女や優秀な平民が魔法を学ぶための場所なので、周辺諸国のスパイや魔物たちなど、敵勢力からの隠匿性に優れた場所が望ましかったから」だそうだ。常に移動し続ける亀の背というのは都合がいいということらしい。
緋夏はアンネリーサの登場のせいで、少しだけ、本当に少しだけ冷静さを欠いていたので、よく見れていなかったが、校舎はゲームで見たものよりも絢爛豪華で、亀が現在いる場所が湖の中であることも相まって、幻想的な風景だった。緋夏がきちんと見ていれば、天を突き刺すような尖塔群が波の少ない湖面に反射して、まるで逆さ富士のようになっている光景に気づいただろう。
「わあ!すごいですね、エメルダ様!湖にお城が浮いてるみたい!本当に亀さんの背なんでしょうか?ぜーんぜん動かないです!」
「うーん、そうね。きれーね。亀さんも大変だわ。お城なんて背負わされて。」
緋夏がうわ言を呟くように答える。
——どうなんだろう。今のところ”ウンメイの強制力”みたいなものは感じないし、素直に大好きなアンちゃんに会えたことを喜んでていいのかな?
——エメルダが闇堕ちするのって、アンちゃんがすごすぎての嫉妬からだったし、ティターノ王子から婚約破棄された後破滅の道に進んでたけど、流石に高校生くらいの男の子に捨てられたって、ねえ?…やっぱ傷つくかな?
「エメルダ様、エメルダ様!あそこの船着場から向かうみたいですよ!すごいですねえ、わたし町中で育ったから船って乗るの初めて!」
アンネリーサが馬車の窓枠に手をかけ飛び出しそうな勢いではしゃぐ。馬車の割れた窓は取り払ったので、ガラスが残っていないのだ。
「〈お嬢さん、危ないから顔は出さないようにな。〉」
ジョージの注意する声が聞こえてくるが、その声は微笑ましいものを見たように少し嬉しそうだ。
「あ、ごめんなさい!」
「アンちゃん、わかったから…わかったから揺らさないで…。落ち着いて?楽しみなのはわかったから…。」
緋夏はアンネリーサが肩をあまりに揺らすものだから、頭がくらくらしてくる。馬車自体慣れていないから三半規管が辛いのに。そして、またまた失言を重ねてしまったことに気づかなかった。
「…アンちゃん…?」
「エメルダ様、わたしのことアンちゃんって呼んでくれました?」
「あ、や、違うの!頭の中でそう呼んじゃってたからつい!」
緋夏は自分の悪癖が炸裂したことに気づき慌てる。妄想の世界から引き戻された時に、かなりの割合で余計なことを言ってしまう癖、なんとかしたい——
「わたし嬉しいです!入学前なのに、仲良しのお友だちが出来ちゃった!」
——あぁ、もうだめだ。わたくしエメルダ・ブライアロード、なるようになると思って諦めます。考えてみれば、いくらゲームみたいだからって未来もその通りになるかはわからないんだし。
——そうよ、エメルダのお付きのメイドさんがリィサだって知ったのも、この世界に来てからだしね。ゲームの通りかなんて、わかるわけないじゃない!
「そうよ!わたしはゲームとは関係なく生きるんだから!お友だちになりましょう!」
「…げーむ?ってなんですか?」
——本当にわたしって…。
「〈エメルダ様、お嬢さん方着きましたよ。〉」
「ジョージ殿ありがとうございます。——お嬢様、乗船手続きしてきますね。アンネリーサ様も一緒に済ませてくるので、ここでお待ちください。」
リィサは温かい笑顔を浮かべながら、馬車からさっと降りていった。
———
港、というより船着場のある広場には新入生が数十人ほど集まっていた。見るからに貴族で、付き人を何人も侍らせている人や、緋夏たちのように馬車で待機する集団もちらほらといる。そして、平民らしい集団には巨人族らしい、身長が人より高い者、毒々しい見た目の角が生えた悪魔族らしい者もいる。
——お!明らか人じゃない、知的生命体!宇宙人より先に出会うことになるとは…。少し感動!
緋夏は、多分おそらくきっと、失礼というか差別になりそうなことを内心で考える。だが、内心なのでセーフなのだ。
十分程経った頃。
リィサが緋夏たちの元に戻ってくる。彼女は乗船者は自分たちで最後らしいと聞いてきて、少し慌ただしく船に乗り込むことになった。
そして、御者のジョージとはここでお別れだ。
「では失礼しますね、エメルダ様、お嬢さん方。夏帰るときは、連絡くれればこのジョージどこへでもお迎えにあがりますからね!」
「おじさんも気をつけて帰ってね。盗賊とか襲われないように…。」
緋夏は朝方の事件を思い出しながら、ジョージを見る。
しかし、彼は平然と答える。
「なんの!いざとなりゃあー、馬車は捨てて逃げますよ!ま、金目のものはもう無いですから、連中も襲いやしませんよ。」
彼も御者歴は長いのだろう。公爵家の御者を務めるくらいだ。護衛は無理でも身を守る方法には心得があるのだろうと緋夏は納得して、ジョージを見送った。
———
新入生たちを乗せた洋風の屋形船のような船は十分ほどで、聖アウロラ魔法学院に到着した。見たところ新入生とその付き人を合わせて数十人しか乗っていなかったのだが、これが最終便だということだ。
そして、到着後に行う魔力測定の儀をもって、入学の儀とするらしい。
ちなみに貴族と平民の区別はこの学院では無い。国力増強のため優秀な人材の育成を目的としているので、そのしがらみは勅令で取り払われている。だが、当然納得しない者たちがいて、緋夏の知るエメルダはその筆頭だったわけだ。
今回そのエメルダは、リィサとアンネリーサと一緒に大人し〜く静かにしていたのだが、我慢ならない貴族のなんと多いことか。広場では気づかなかったが相当に空気が悪い。
「ちっ」だとか、「けっ」だとかあちこちから聞こえてくる。平民は平民で端の方に固まって今にも殴りかかりそうな様子で顔を赤くしていた。平等と聞いてきた学びの場で早速差別されれば騙された気にもなるだろう。
——エメルダが闇堕ちしなくても、誰か代わりに闇堕ちするんじゃないの、これ…。
——はっ!!これが「ウンメイの強制力」では!?
「エメルダ様、エメルダ様!あの門の向こう、何か噴水みたいなものありません?お洒落ですねえ。」
「ウン?どれどれ?」
——アンちゃんは無邪気だなあ。この醜い争いが見えていないのか、見えていても気にしないのか。なんにせよ心が洗われるわ〜。
緋夏がほっこりしながら、アンネリーサの指差さす先を見ると水のない噴水がある広場が見える。
—— あ、あれは恋人の泉!初めて生で見るとちょっと感動。あそこで告白するのよね。魔力測定する魔道具だけど、最初しかその使い方しないっていう。
「あれ?この時アンちゃんて、ティターノ王子と一緒だったような——」
「静粛に!今から魔力測定の儀を執り行う!」
拡声器でも使ったかのような大声が広場に響く。見ると、黒のローブに身を包んだ鷹のように鋭い目の男性が立っていた。
「儀式の進行役を務める、魔法史教授エドマンドだ。くだらんお喋りの方が重要な者は帰ってくれて構わんぞ。」
「この噴水のようなものは魔泉杯という魔道具だ。これで現在の己の実力を知ってもらう。」
「水の色によって適性のある属性がわかり、その湧き上がる量によって個人の魔力量を測れるというものだ。」
「最初に言っておくが現在の結果などどうでもいい。これから始まる5年間の習練の中で、この実力をどれだけ伸ばせるのかが大切なのだ。やれあいつはどうだなどとくだらぬことを言う輩は必ずいるが、そういう者から学院を去っていく。」
「ふっ、まあいい。名前を呼ばれたものから前へ出なさい。」
「エメルダ・ブライアロード嬢!!」
「あれ、わたしから!?」
——ティターノ王子は!?ゲームでは王族からとか言ってたのに!
「ティターノ殿下は到着が遅れておられるようだ。よって、公爵家令嬢のあなたからお願いしたい。」
——ゲームだと、アンちゃんとティターノ王子は道中で会ったとか書いてなかったっけ?で、なんでか忘れたけどお礼に一緒に学院に来たはず…
——あれ?わたしのせい?
「エメルダ嬢!」
「あ、はい。」
「噴水の前の石板に手を置いて…そう、そして魔力を込めてくださるか。」
——要は魔法を使う感じでいいのよね?…本気出したらどうなるのかしら。異世界チート的な奴になったりして!
——我が体内に巡る赤き閃光よ、時は来たれり。煌めき、轟き、鳴動せよ!焼き切れ!ヘルズファイアー!!なんて言っちゃってみたり…。
魔力を手に集中させると、じんわりと痺れるような感覚を覚える。送り込む魔力と、何か探るように体を撫でる魔力を感じる。
しばらくすると、さぁさぁと音を立てながら、血のように紅い水が噴水から噴き上がった。
「「おお〜」」
見守る生徒たちから小さなどよめきが上がる。その声音は驚きというより感心に近かった。
「わあ、ぐろい。…まあ、こんなものよね。壊れたりしたら後の人が困るしね。」
「ほう、見事な紅色だ、さすがですな!ご入学おめでとうございます!では、次の者——」
エドマンド教授はにっこりと笑い、入学を讃えてくれた。その後も見守っていると、噴水のように噴き上がるものはほとんどいなかったので、確かにすごいのではあろうが、パッとしない入学式となった。
——目立ちたくはないから、良かったといえば良かったのだけど、なんだかねえ〜。
【ちょっとお知らせ】
今後、投稿頻度を短くすることを視野に入れています。
具体的に決まりましたら、またお知らせします。
また、ホラー短編を執筆中です。
「ファントム・バイブレーション〜鳴り止まない通知〜」
こちらの作品も投稿日が決まりましたら、お知らせします。
よろしくお願いします。




