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第30話 「元一般女性さん、学芸大会を見学する⑥」

間話の投稿は11/2(月)に行います。

よろしくお願いします。

 聖アウロラ魔法学院の運動広場にて。


 これからカリオ・チャーの決勝が行われる。

 会場はなかなかの盛況ぶりで早めに会場入りした緋夏たちでも良い席は確保できなかった。


 トラックの中心に、既に選手は入場していて準備運動をしている。その中にはてっきりマネージャーか何かだと思っていたフィアもいる。


——あの子選手側なんだ…。しかも決勝に出るってことはめっちゃ強いの?


 そして、この世界ならではの光景が見られた。


 選手の何人かが腕や足首、腰に何か棒状のものを取り付けていくのだ。


 隣に座っているギカーナに尋ねようとするが——

「ね、あれ何つけて——」

 気づいてもらえない。

「あぁ、もう!」


 会場内は観客たちが応援する声や野次を飛ばす声で騒がしい。ハスキーボイスな緋夏の声は通りが悪いのだ。

 緋夏はギカーナの耳元に口を持っていき尋ねる。

「あれ、何つけてんのかしら!?」


「あれは!魔道具ですわ!選手はボールを奪い合いながら走ってゴールを目指すので、呪文を唱えてる余裕はあんまりないんですの!」


 なるほど、息切れしながら呪文を唱えても魔法は上手く発動できないのだろう。


「でも!選手によりますわよ!魔道具だと、使える魔法が限定されてきてしまいますし!」

「あ、始まりますわよ!」


「——お待たせしました!第五十三回カリオ・チャー学芸大会決勝戦を始めます!司会はわたくしアクセルが担当します!」

 拡声魔法による男性の声が響く。


 パチパチと拍手する音が会場を包む。

「いよ!」

「待ってました!」

「フィアー!頑張れ!」


 緋夏は周囲を見渡して声の主アクセルを探すと——見つけた。

 声の主は会場脇にあるテントから実況しているらしい。


「決勝戦に進んだチームを改めてご紹介します!小人族のフィア選手率いる二年生女子チーム!」

「カリオ歴10年!モズ選手率いる三年生男子チームです!」

「フィア選手は学院入学後に初めてカリオをプレーしたそうですが、いかんなくその才能を発揮し、小柄な体と風魔法をいかした逃げ切りが得意な選手です!」

「対して、モズ選手!妨害魔法をものともしない豪快なプレーが見どころです!」


——逃げ切り…。よく知らないけど、やっぱちょっと競馬っぽいのかな?リレー形式っぽいからそこが違う感じ?


「はい、はい…。——準備が整ったようです!」

「10キロレース、5人チーム!2キロのトラックを五周し、ゴールを目指します!」


 アクセルの声に試合会場に視線を戻すと、いつの間にか、走者がスタートラインにうつ伏せになっている。あの状態からスタートするのだろう。


——フィアは…アンカーなのか…。モズって子…子って感じじゃないけどもアンカーね。

——あれ?ボールは…スタートラインの反対か!


 トラックを半周した先にボールが置かれているのが見える。


 審判が手をあげ——

「第一走者!セット……スタート!」

 開始の合図をした。


 女性走者が走り始めるが、男性走者は動かない。


「あれ!?全然走り始めませんよ!」

 アンネリーサが叫ぶ。


「妨害ですワ!きっと何か…!」


「あれは土魔法で拘束されてんだ!第一走者のあの子、魔道具の発動早いからな!」

 近くにいた男子生徒が教えてくれる。

「でも、すぐ抜け出すはず…!頼む〜!」

 手には何かを握りしめている。


ボコンッ


「わははー!筋力!」

 男性第一走者の手首と足首が勢いよく跳ね上がる。


——へぇ、筋力で抜け出られるもんなんだ…。


「女子一番走者がまもなくボールに到達します!」

 アクセルの実況が入る。

「早い!です!」


 二年女性チームは走力が圧倒的だ。みるみる、その距離をあけていく。


「男子チーム大丈夫なの!?あれ!」

 緋夏が叫ぶ。

 あんなに水をあけられたら、勝敗も何もあったものではない気がする。


「だ、大丈夫!ですわ!」

 チャリルが辛そうに声を張って叫ぶ。

「勝つのは10キロを走り切り、ゴールの時に”ボールを持っているチーム”ですの!」


「ゴール前での攻防戦が半日続くこともあるみたいですわ!」

 ギカーナが教えてくれる。


——じゃあ、一周諦めて奪取力のある選手で待ち伏せもありってこと!?


「ボール持たずにゴールって…!?」


 また男子生徒が教えてくれる。

「だめだめ!ボールがなければゴールにはならない!それに逆走も!一周多く走れるなら走るとか、ゴールライン前で妨害するとか!」

「だから、岩塊戦法…えと、待ち伏せ戦法のチームをゴールラインより向こうに吹き飛ばしてゴールなんてのもあるよ!」


 男性第一走者は頑張って走っているがところどころで立ち止まってしまう。無理に拘束を解いたために足首を痛めたのだろうか。


 女性第一走者はまもなく一周を走り切る。時間にしてみれば三分ほどだろうか。異様な速さだ。


「女子チーム第一走者から第二走者にボールが渡されたー!!」

「速い、速すぎるー!!」

 第二走者の足元には水が湧き上がり、波乗りのようにトラックを進んでいく。


——うわぁ。波がありえないカーブしてる…。


「ちなみに第二走者の子はネモというお名前で僕の彼女です!」


——知らん知らん、んなこと。


「だまれー!」

「偏向実況したらぶっ飛ばすぞ!!」


 観客も野次を飛ばす。


「見てください!華麗な水魔法を!頑張れネモ!可愛いぞー!——あ!!」


 アクセルの声と共にネモの姿がふっと消える。


 会場がどよめく。


「すまんな!走力自慢のチームの足を奪うのは定石だ!」

 見れば男性第一走者も一周走り切り第二走者に交代したところだった。


「てめえ!ネモをどこへ!」


「ブーッ!!偏向実況やめろ!!」

「アクセル降板!アクセル降板!」


「わはは!落ち着いてくれ!水魔法使いならそろそろ脱出するだろう!」


ズズッズッゴガォン!!


 土を大きく抉られ水が噴き上がる。

 ネモだ。


「どちくしょう先輩!この程度で封じられると思わないで!!」

 地面の下から脱出したネモが吠える。


 そして、勢いよくまた足を進めるが——


 ふっとその姿が消える。


「罠は一つではないぞ!わはは!」


———


 その後の展開はまさに泥試合だった。

 三年生男性チームが仕掛けた罠群は多彩で地面もどんどん荒れていく。後の走者になればなるほど悪路を走る羽目になるのだ。

 二年生女性チームは、苦戦を強いられ前の順の走者が罠を回避してもその次の走者が罠にかかることもあった。


 女性チームは走力で何とかリードを取り、ボールを保持し続けていたが、最終周回となる五周目で男性チームに追いつかれてしまう。

 アンカーのフィアとモズは同時にスタートすることとなってしまったのだった。


「ごめ、フィア!お、追いつかれ、ちゃった!」

 髪をひとつ結びにした女子生徒が顔を泥とちょっぴりの血で汚し、ボールをフィアに渡す。


 フィアはそのボールを抱えるようにして持つ。

「大丈夫!わたしに任せて!」


——フィアの体じゃ、あのボールでかすぎるでしょ!あれでどうやって逃げ切るの——


 フィアが屈んで靴に触れる。すると、その小さな体が勢いよく舞い上がる。靴は魔道具のようだ。


 そして、叫ぶ。

「ブラスヴェク!(吹き飛ばせ!)」


 ごうっと会場に重低音が響く。次の瞬間フィアの体は凄まじい勢いで飛んでいく。


「フィア後輩!ボールは不要か!!」

 そういうモズの手にはさっきまでフィアが抱えていたはずのボールがあった。


——うそ!いつのまにボール奪ったのよ!


「あ!モズ先輩!返して!」

「コモヴィント!(風よ!)」

 急停止したフィアがモズに突進する軌道をとる。

「ヴィンティヒボーレ!(風よ打ち抜け!)」


「フィア、だめー!!」

 女性チームから悲鳴に近い叫びがあがる。


 しかし、フィアの風魔法は止まらない。砂塵を巻き込み見えやすくなった風の弾丸がモズに迫る。


ばちぃぃいん!


 その魔法はモズの持つボールに命中する——が、ボールを手放さない。


 観客から野次が飛ぶ。

「反則だー!」

「審判!あれは攻撃だ!」


「違う!!」

 モズが吠える。

「違うぞ!ふはは、魔法はボールに命中した!」

「やるな!フィア後輩!」


「当てる自信しかなかったもんね!じゃなきゃ使わねーよ!」

「コモヴィント、ブラスヴェク!(風よ、吹き飛ばせ!)」


「水の方が重いぞ!コモアクア、コモアクア、コモアクア!(水よ、水よ、水よ!)」

 モズは魔法の水を作り出して風を防ぎ、そのまま突進するように走り始める。


 ここまでの展開で荒れたトラック内を平地のように走り抜けていく。


「くそぉ!行かせない!地面を蹴れなきゃ走れないでしょ!」

「コモヴィント、ちょっと弱めにブラスヴェク!(風よ、吹き飛ばせ!)」


 モズの足元から上に風が吹き上がる。

 体が少し浮き上がり、走行中の踏み込もうとした足が空中で空振ってしまう。そしてそのまま地面に倒れ込む——

「ぬおおおっ!!」

「仕方ない、使うか!」

 直前、溢れ出した水がモズの体を包んだ。


 モズは先ほどネモが使った波乗りと同じような水魔法でゴールを目指す。波乗りというより流されているが。


「ちょっ、ずるい!だったらこうだ!コモヴィント!(風よ!)」

 フィアは地面の砂土、泥を風で巻き上げモズを纏う水にぶつける。


 水だったものがどんどん土で濁り失速する。ほとんど泥の塊となったところで塊は弾け、中からモズが現れた。

「げほっ、なかなか、悪どいことをする…!」


「モズ先輩酸欠だね!?よっしゃきた!コモヴィント、ブラスヴェク!(風よ、吹き飛ばせ!)」


 フィアの風魔法がモズの体を包む。強風に吹き飛ばされまいとモズは踏ん張る。


 息も絶え絶えの中、強風に耐え、さらに息もしづらかったのだろう。突然糸が切れたように地面に倒れてしまう。どうやら失神したらしい。


 フィアは地面に降り立ち、悠然とボールを拾い上げる。そして、モズが目を覚ます前にジョギングでゴールしたのだった。


「に、二年生女子チームの優勝だーー!!よっしゃああ——」

 アクセルの偏向実況が極まり、決勝戦は幕を閉じた。


———


 カリオ・チャーの決勝戦後。


 緋夏たちは興奮が冷めないままに寮に向かって歩いていた。


「いやあ、フィア…先輩とはちょっと知り合いなんだけど、すごかったわね!」

 なんなら、緋夏はフィアに部活勧誘まで受けているのだ。有名人と知り合いになったようで気分が良かった。


「エメルダ様、お知り合いなんですノ!?すごいですわネ!」

「フィア先輩は若手選手の中では期待の星だそうですわヨ!」


「あたくしも頑張ればあんな魔法が使えるってことですわよね。同じ風魔法使いなんですから…。」

 ギカーナが言う。彼女は魔法で空を飛べるようになるのが夢だと話していたはずだ。


「わたしもあれくらい自在に魔法を使えるようにならないとですね…。」

 アンネリーサが呟く。


「アンちゃんは一年生の中じゃかなり使える方でしょうに。あまり自分を追い詰めちゃだめよ?」

 緋夏がアンネリーサを諌める。責任感の強い彼女は放っておいたら、ひたすらに鍛錬を始めかねない。


「そうそう、そうですワ!ま、魔王との戦いだって、サターニア王国の勇猛果敢な兵士さんたちがいますもノ!無理をして体を壊すようなことがあってはいけませんわヨ!」


「コ、コニア…!踏み入りすぎですわ。——あと、それも大切ですけど、”あのこと”お話しすべきではなくて…?」

 チャリルが緋夏の袖口をくいっと引っ張る。


「あ!そうだわ!アンちゃん、誕生日は夏休み中でしょう?過ごし方は決めて…るのかしら…?」


「え、どうしてわたしの誕生日をご存知なんですか!?」

「——えと…夏休みは実家に帰ると危ないかも知れないからって、学院に残るつもり…です、ね。」


「つまり!暇ってことですわネ!」

「わたくしのお家に遊びにいらしテ!誕生日パーティーを開かせていただきますワ!」


「コニア様のお家へですか!?で、でも、わたしは平民ですし、何より…危険なことがあるかも…。」


「問題ありませんわネ!リヴァリエ領は海運業を営んでおりますもノ。つまり私兵を保有しているのですワ!」

 コニアによれば、「リヴァリエ領兵はサターニア国内でも強者揃いと評判なんですノ!」ということだ。


「そうよ。それに一年生の頃はそんなに危なくなかったじゃないの。コニアの実家なら安全に過ごせるはずよ!」

 本当はブライアロード領に来てもらえれば、夏休みに遠出しなくて済んだのだが仕方ないのだ。


「でも…やっぱり…。」

 アンネリーサが浮かない顔をする。


 これから先のことを思えば、躊躇う気持ちはわからないではない。だが、五年間も気を張り続けるのはやはり無理があると緋夏は思うのだ。


「でもでもだってなんて子どもみたいよ?もう誕生日プレゼントだって用意してるんだからね!断れないわよ!」

 強引な説得だが、いい思い出を作ってあげたい。


 アンネリーサはかなり悩んでいたが、緋夏たちが「既に準備を始めているから」と粘り強く説得すると、寮に着く頃にようやく首を縦に振ったのだった。


「——でも、聖教会の護衛担当の方にお話ししてから、ですからね!ダメって言われたら、そのときは…やっぱり…。」


「——おや、お嬢様、皆様。お帰りですか。」

 寮の前ではリィサと貴族連中のメイドや執事たちが協力しながら、帰省に向けて準備をしていた。


「あ、アンネリーサさん、お届け物預かってますよ。はい、これ。」


「あ、すみません、お預かりいただいて…。ありがとうございます。」

 リィサから受け取ったのは贈答用の綺麗な小箱だった。


「あら素敵な包装紙ネ。…プレゼントではなくっテ?」

 コニアがにまにまと笑う。


 タイミングから言って、自分たちと同様に気を回した人からに違いなかろう。


「あ、手紙…。」

 アンネリーサが小箱に添えられていた手紙を広げる。


 そこにはこう書かれていた。

『親愛なる聖女様へ 君の先輩より』

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