間話 「バッドエンディングNo.17 白い花は赤に沈む」
第31話は11/5(木)に投稿します。
よろしくお願いします。
一年生の年度末。
なんとか一年を無事に乗り切れたアンネリーサ。年度末は聖教会の方に戻って、そこへ両親が訪ねてきてくれる予定だ。夏休みには会えなかったからすごく楽しみだ。
年度末試験はそれなりの出来で終われたが、もう少し頑張れたと思う。だから、試験後も気を抜かないで図書室で勉強していた。
ただ、夜も遅くなってしまったので、その日は頑張るのも終わりにして寮に向かって歩いていた。
ほうっと漏らす白い息が道の脇に立つ外灯に照らされる。
——今年一年、ダリウス君がいなかったら大変だったよね。春の魔法生物たちの脱走もそうだし、秋の魔法の暴発なんて、本当に危なかった。ダリウス君が助けてくれなかったらヨハン君も巻き込んで…二人とも、し…死んでいたかも…。
「——アンネ!何考え事をしてるの?」
不意に声がかかり、どんっと背中に軽い衝撃を感じる。
歩いているアンネリーサの肩へ親友のエミリーが抱きついたのだった。
「エミリー!びっくりした〜…。何してるの?」
「…お腹すいたから食堂にね。——またぼんやり歩いてたでしょ。ほんと隙だらけなんだから。」
「えぇ…?ただ、いよいよ一年生も終わりだなーって。」
「はーあ、アンネは良いよね…。ダリウス様ともいつのまにか仲良しだし。最近なんか、ティターノ様ともいい感じよね…。」
「いやいや、わたしが聖女だからって良くしてくれてるだけだよ。」
「それにお二人が優しいだけで、別に…れ、恋愛とか?そういうのとは違うから…!」
——そう。違うはず。平民の娘が王子様やかっこいい男の子と結婚なんて、おとぎ話の中だけ。そりゃ憧れがないと言うと嘘になるけど…。
「ふぅん、そーお?向こうは案外そのつもりかもよ?アンネぽーっとしてて気づいてないだけで。」
「でも…気をつけなよ?ただでさえ地獄令嬢に目をつけられてるんだから。そのうちキンキン声で『わたくしのティターノ様に色目使ったわねー!』って言ってくるかも。」
エミリーが面白おかしくエメルダの真似をする。
「笑えないよ…。この前なんか、階段から、お、落とされそうになったんだから…。」
否、落とされた。聖教会で念入りに教えられて覚えた治癒魔法。これがなければ今も骨折の治療に苦しんでいたはずだ。
「……き、貴族ってほんとどうかしてるよね。どうせ、家では雇ってる使用人とか虐めぬいて遊んでるんだよ、絶対そう。わたしは…もう二度と関わらない…。」
「——あ…あぁ、そうだ。今から寮に戻るだけだよね?ちょっと、つ、付き合って欲しいんだけど、いい?」
「え?うん、どこ行くの?」
「ちょっと、ほ、星でも見に行こうかなって。」
「あっち!」
エミリーがアンネリーサの腕を引く。
腕を引く力が少し強くてびっくりした。だが、寝る前に少し気を抜く時間を作るのも悪くない気がした。
行き先は林の中らしい。道を逸れて走っていく。木々の根元に足をかけないように気をつけながら後ろをついていくと、開けた場所に出る。
丘になっていて、星が明るく照らしてくれている。
しかし、照らし出したのはアンネリーサとエミリーだけではなかった。丘の上にはもう一つ人影があった。
「誰か…いる…?」
「い、行こ…!アァ、アンネ!」
エミリーの掴む腕が痛い。怖くなって振り払おうとするが、非力なアンネリーサには解くことができない。そのまま羽交い締めにされて丘の下に引きずり出されてしまう。
「や、やめて!痛いよ、エミリー!」
「——来たわね。」
星を見上げていた人影が視線を切り、二人を見下ろす。
「エメルダ様!つ、連れてきましたっ!だからっ!わ、わたしの弟をか、ぇしてぇぇ…。」
「ええ、この件が無事に終わったらね。あんたの店の債権も、うす汚いチビも。」
「でも、まだあんたにはやらないといけないことがあったでしょ?やらなきゃ終わらせないわよ。」
「ヒっ!…ぐぅぅッ…!」
「ご、ここ、めんね、ごめ!ね…!ア…ネ!」
「友だちだも、ね!ゆ、ゆぅ…!ゆるじて!」
「エミリー!?な、何を!やめて!」
エミリーはいつから持っていたのか、ナイフでアンネリーサの喉を切る。
少し遅れて喉に冷たい痛みが走った。じんわりと服が濡れていく。呼吸がうまくできない。
——治癒魔法!治癒魔法を唱えないと!
「かっ……ひゅ…。」
かすれた音が漏れる。唱えたい呪文は言葉にならない。
恐れからか、あるいは憐れみを買うためか身体の力がうまく入らなくなっていく。
エメルダが丘から歩いて下りてくる。倒れ伏したアンネリーサの目に赤と黒のスカートの縁が映ったとき。
冷たい声が頭上から降り注ぐ。
「もう良いわ、帰りなさい。ここでのこと他言したら家に火をつけるだけじゃ済ませない。今度は家族諸共、皆殺しにしてやるから…。」
「ふ、は、い!ひ、ひいぃ…!」
エミリーの言葉にならない声が地面を踏みしめる音ともにだんだん遠くなり、やがて聞こえなくなる。
「ふうん?肉屋の娘だけあって切るのが上手いのね。まだ生きてるわ。」
「いい気味だわ。——いい?あんたは今から死ぬの。なんでだと思う?」
興奮からか、エメルダの声が上ずっていく。
そして、喉を裂いたナイフを拾い上げ、嬉しそうに指で刃先をなぞる。
「あんたがっ!!悪いのよ!!全部、ぜんぶ、ぜんぶ!!」
「聖女がぁ!みんなを救うぅ!?バカが!バカ、バカ、バカばっかり!」
「救えないわよ!救えないやつら!!」
エメルダがナイフを振り上げたのが見える。
次の瞬間、腹に殴られた痛みが走る。そのあとに体の中を冷たい何かが致命的に壊していく感覚を覚えた。
「死ね!死ね!死ねぇ!」
エメルダは何度もナイフを振り上げ、アンネリーサの腹に突き立てる。
「ふっ、ふふっ…あは!あはーははは!あはははは!」
「聖女はおしまい!バカどもめ!全員死んじゃえばいいぃ!」
「あーはははは…——」
エメルダの甲高い笑い声が次第に遠くなっていく。
「——…か…てよ…。」
誰かの恨めしそうな声とともに、アンネリーサの意識は血の海に沈んだ。
〜バッドエンディングNo.17 白い花は赤に沈む〜




