第27話 「元一般女性さん、学芸大会を見学する③」
第28話は10/24(土)に投稿します。
よろしくお願いします。
学芸大会編はあともう少しだけ続きます…。
「エメルダ様、今わたしだけ残ったのはですね?以前のあの話のことを伺おうかと思ったからなんです。」
アンネリーサが言う。
「以前?誰に、な…にを…。…?」
緋夏はつるつるの脳細胞をフル稼働させて思い出そうとする。
「エドマンド先生に、歴代聖女のことを。」
「……あ!そうそうあれね!天啓のことね!なんか色々聞いてみるんだったわね。」
前に図書室に行った時にそんな話をした覚えがある。あれ以来話題に上らなかったのと、試験の事で頭がいっぱいでつい忘れていた。
——そういえば、あの手記は、改めて読んでどうだったんかな?
「——わたしに何か聞きたいのかね?」
名前を呼ばれたエドマンド先生が口がへの字に曲がったままの顔を覗かせる。
「はい、聖女のことを知りたいと。先生は勇者研究をされていたとか…。」
アンネリーサが尋ねる。
「ああ、していた。」
「聖女は天啓を受けていたはずなのに、魔王の侵攻による惨事が史実として残っていますよね?北部第三高地の戦いとか、カリファの悲劇とか…。」
「あぁ、そのことかね。…すまない、逆に質問させてもらおう。」
軽いため息を漏らすエドマンド先生。
「アンネリーサ嬢、君は天啓を受けたはずだね。聖教会の連中から内容を教えてくれと頼まれたかな?」
「いえ…?大司教様は『魔王の復活がいつか?』とだけ…。」
「だろうね。そうか、連中は君に教えなかったのか…。」
「簡単に言おう。『お前はいついつに死ぬぞ』と言われて戦える者は多くない。どんな手段を使っても生き残りの道を探すはずだ。」
エドマンド先生は顔を背けて、窓辺に向かって歩いて行く。
後ろをついていくアンネリーサと緋夏。
「——表立って歴史書に載ることはない、が、当事者の君なら構わない、か…。」
「それって…学生が聞いても大丈夫な話なんですか?」
緋夏が尋ねる。間違って国家機密を聞いて処罰を受けるなんて笑えない。
「構わないさ。歴史を研究する者なら誰でも知ることだ。」
エドマンド先生は目をギュッと瞑り、訥々と話し始める。
「……詳しくは、言わない。昔、聖女の天啓のあらましを聞いた、ある王がいた。その王の国はサターニア王国の北西にあった小さな新興国家でね。しかし、地図から消えてしまった。もう千年も前の話だ。理由は、魔王軍への寝返りだ。紆余曲折あったが…結果として両軍の間で引き潰される形で消滅した。以来、天啓の内容が聖女の口から語られることはなくなった。先代聖女ジョアンヌも誰かからその事を聞いたか…経験したか…。史料としては残っていない。」
「そ…うですか。」
アンネリーサが考え込むように俯く。
俯くアンネリーサの代わりに緋夏が尋ねる。
「先生は!天啓を覆せると?」
「覆せるだろう。論理的に考えれば、な。良い方向にも悪い方向にも。しかし、未来の知識なんぞ甘い蜜であると同時に毒である。知らぬ方が良い。」
「我らは過去に学ぶべきだ。——アンネリーサ嬢、君も軽々に口を滑らさぬように。」
エドマンド先生は固く言い切り、そのまま黙ってしまう。
エドマンド先生との対話は突然に始まったものの、有意義なものだった。だが、アンネリーサの抱える荷が軽くなるものではなかった。
———
話が終わった後、緋夏は教室内を見回してもいないリィサを探してアンネリーサと共に退室する。
「講義は終わりましたか?」
リィサは魔法史の教室を出てすぐのところで、静々と立っていた。
「あんた、こんなところにいたの…。」
「ごめんなさいリィサさん、デートのお邪魔をしちゃって…。」
アンネリーサがリィサに駆け寄り、謝る。
「お邪魔なんてとんでもないです。お気になさらないでくださいね。…デート?」
「この後、どうしようか…。そろそろお腹空いてきちゃったし、もうなんか疲れちゃったのよね。」
緋夏のお腹は朝に流し込んだ食事を消化しきり、くるくると鳴き始めていた。
「それなら、寮に帰りませんか?昼食をご用意しますから。」
リィサが言う。
「え?それは嬉しいけど、リィサ休みなのに…。」
「いえいえ、仕事のつもりはありませんよ。単に作りたいんですよ。入学してからずっと、お嬢様の分も、自分の分も全部学院側で用意されるせいで、料理したい欲がはち切れそうなんですよね。」
リィサが鍋を振るう様子をジェスチャーする。
「ふぅん?そういうことならお願いしようかな。アンちゃんもどう?一緒に。」
——お友だちお招きチャンスがこんなにも早く来るとはね。
——それに、あの話結構ヘビーだったし変に気に病んでないか気になるもんね。
「…お呼ばれしちゃって良いんでしょうか?リィサさん大変では?」
「たくさん作るのは慣れてますから!大丈夫ですよ!」
———
寮に戻った後。
アンネリーサにその内心を確認するつもりの緋夏だったが、その機会には恵まれなかった。
ただ、「普段出番のない寮のキッチンはそんなところにあったのか」などちょっとした驚きもありつつ、アンネリーサも普段と同じように笑っていたので、「おそらくは問題なさそうだ」と緋夏は一人胸を撫で下ろすのだった。
午後。
リィサの健康度外視の少しジャンキーな食事を食べた後は展示を見に行く気にもなれなかった。だから、そのまま緋夏は昼寝をしてゆっくり過ごした。
リィサは読書をしたり編み物をしていて、アンネリーサはそれを見て感心したり、習ったりしているようだった。
朝から慌ただしかったものの、静かに一日は過ぎ去っていった。




