第25話 「元一般女性さん、学芸大会を見学する①」
第26話は10/18(日)に投稿します。
よろしくお願いします。
いつもの面子にリィサを加えた一行はコニアの発表があった会場を後にして、学院の食堂に立ち寄っていた。朝からコニアは緊張し倒しだったため、お茶でも飲んで一息つこうとなったのだ。
ちなみにリィサは「流石にお茶に同席はできない」と、固辞して外で待つとのことだ。
緋夏は運ばれてきた温かい紅茶を飲む。そして漏れ出るため息とともに感想を口にする。
「いや〜、良かったわ、コニアの発表!わたし感動しちゃった!」
「ええ!立派でしたよね!コニア様、すっかり研究者のお顔をしていましたよ!」
アンネリーサも同調して、満面の笑みだ。
「や、やめてくださいまシ!恥ずかしいですワ…!」
コニアは顔を赤くして手で隠す。
「何を恥ずかしいことがあるんですの?恥ずかしがる必要ないと思いますわよ?」
「…謙遜も過ぎれば嫌味、というやつですわね。」
「そう、ですかしラ…?」
「ただもう、疲れましたワ…。今日はもうゆっくりさせていただいてよろしいかしラ?昨夜もあまり眠れなくって…。」
「そりゃ寝た方が良いわ。学芸大会はまだ初日だし、明日にでも一緒に回るようにしたら良いわ。」
「ちょうどわたしも今日は家族サービスしとこうかなって思ってたし。」
「ご家族、ですの?公爵閣下がいらして…?」
ギカーナが首を傾げる。
「あ、お父様ではなくて、リィサの方よ。もう夏休み前だしね、あの子に暇を出したのよ。」
まるで自分が許可したような口ぶりの緋夏。
「…家族だなんて、面白いことをおっしゃいますわね、エメルダ様。」
チャリルが言う。
「一緒に住んでんだから良いじゃない。ブライアロード家の一員って意味なら通るでしょう?」
「それじゃあ、今日は解散ですの…。」
少し寂しそうなギカーナ。
「明日回れば良いじゃないの、また明日また明日!」
「あ!図書室の展示は明日、みんなで行きますよね?」
アンネリーサがふと声を出す。
「えー…?そうね、そうしましょうか?——あんたたちもそれで良い?」
緋夏は「何か見たいものでもあるのかな?」と考える。ただ、今日は別の展示を回れば済む話だ。なんの問題もない。
三銃士はこくりと頷く。
そうして緋夏たちは食堂を出た後解散した。
学芸大会はまだ続くのだ。いつも一緒だが、一日くらいは別でも良いだろう。
コニアは寮に、アンネリーサは散歩ついでに友だちの顔を見に行くと去って行った。ギカーナとチャリルは他の研究発表でも見ることにするそうだ。
———
食堂を離れた緋夏とリィサ。
学芸大会デートの定番と言えば、吹奏楽部の演奏を聴いて楽しんで、その辺の展示を見て、ラッキー先輩に適当な助言をもらうとかそんな感じだった。
しかし、これは現実だ。だから、興味深いものは好きに見て回れる。ひとまず、普段は授業もなくて行かない場所を巡ることにした。
今は魔法力学の教室の一つ上の階にいる。この階では、二年生から学ぶ、各属性魔法に特化した授業を行っている。緋夏も自分の適正属性である火属性の教室の展示が気になるわけだ。
そして、緋夏は火属性魔法の教室に足を運んでいるのだが——
「お嬢様、お嬢様。見てください。なぜか消えない火の魔法ですって。」
リィサが、ガラス瓶の中でチラついている火を見て言う。
「へえ、酸素なくても燃えるんだ。」
「——リィサの適正属性も火なの?」
自然と隣にいるリィサ。自分に付き合ってここに来てくれているのかと思った緋夏は尋ねてみる。
「はい、そうですよ?普段から使っているじゃないですか。ほら、雨の日に洗濯物乾かす時とか。」
リィサは火のチラつきを目で追いながら答える。
「あ、あれ火魔法なの?」
緋夏は初耳だった。火属性魔法なんてカッコ良さそうな魔法が実は家事に便利だとは。
「正確には火魔法と、生活魔法の組み合わせですがね。温風が出せます。」
「——あ、あと、一応光属性も適正、なくはないんですよ?」
「普段使うことといったらお掃除のときに浄化するくらいですが。——あ、治癒とかはできませんからね?」
「へえ、メイドさんへの適正が凄いのね…!」
緋夏の素直な褒め言葉にリィサは得意げな顔をする。
「ふふん!おっしゃる通り、それを見込まれて公爵閣下に雇っていただいたんですから!」
こういう時の彼女は年相応に見えて微笑ましい。
——確かに公爵家令嬢付きメイドが凡庸なわけないのか…?実はリィサってめっちゃエリート?
「うわあ、こんな魔法使えたら良いですねえ…!これ太陽を作るんですって!洗濯が捗りそうです!」
リィサが眺めている展示では史上最大規模の火属性魔法が写真付きで紹介されている。
写真の中では、人の背丈と同じくらいの火球が、実験室の中で燃えていた。
リィサの肩越しに展示を見る緋夏。
「へえ、えっと?…魔道具使ってなんとか実現できたみたいよ、この魔法。」
「——というか、あんたそればっかりね。」
「良いじゃないですか、別に。わたしはこのお仕事が楽しいので。」
その後もしばらく色々な展示を眺めて、それから、近くの、また別の教室の見学に向かうことにした。
———
次はリィサが魔法史の教室が近いと言うので今度はそちらの展示の見学に向かっていた。
「魔法史って、何勉強すんのかしらね。」
緋夏はなんとなく感じていた疑問を口にする。
王国史はわかる。なんなら、勉強中だ。建国から一度も同一国家で変わっておらず、戦争にも強いと再三にわたって学ばせられた。
「さて…?週末学校では、生活魔法と算術の授業が主でしたし、歴史は王国史くらいしか…。魔法史というくらいですから、魔法のこれまでの発展についてとかでしょうか?」
リィサが首を傾げる。
「魔法の発展…。なんかそれ——」
楽しく会話をしている二人に背後から男性の声がかかる。
「——魔法史の話かね?」
授業を受けていない生徒にも割と知名度のある先生、エドマンド先生だ。
「お…こ、こんにちは、エドマンド先生。」
不意をつかれた緋夏がなんとか挨拶をする。見れば展示のある魔法史の教室の隣、おそらく準備室から出てきたらしい。
「うむ、こんにちは…。」
エドマンド先生が挨拶を返す。
「——エメルダ嬢は魔法史に興味があるのかね?」
エドマンド先生は黒々とした顎髭を握るように撫でる。
「人並みには…?」
興味などあろうはずもない。よくわからないものを、”ちょうど暇なとき”に”ただ”で見学できるから来ただけだ。
「ふはは、正直なのは良いことだな。」
エドマンド先生は面白そうに笑って頷く。
「魔法史は魔法のあり方の変遷を学ぶものだな。魔法技術の継承は脈々と続いてきた。魔法史では人類がどのようにして魔法を発展させたか、あるいは失ってきたか、あえて消したものもあるな、それを学ぶのだよ。」
「興味があるのなら、生徒たちが作成した展示を”ぜひ”覗いていくと良い。」
エドマンド先生が自然に教室に案内してくれる。
——あれ、この人、もしかして呼び子してた…?
厳格そうな見た目で紳士然としたエドマンド先生だが、「うきうきと生徒たちが作った展示物にお客を案内している」と考えると途端に可愛く見えてくる。
緋夏はにやけそうになる口を真一文字にキュッと結んで魔法史の教室に入った。




