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第24話 「元一般女性さん、応援する」

第25話は10/15(木)に投稿します。

よろしくお願いします。

 前期試験が終わった次の日の朝。


「お嬢様、起きてください。」


「ん、う〜ん?…何よこんな朝早くに…。」

 緋夏は早朝にリィサに起こされた。窓から差し込む朝日が眩しい。


——試験も授業も終わったのに、なんでこんな早起きしなきゃいけない…の。あれ?試験は夢じゃないよね?いま…今、今から!?


 しかし、目が覚めてすぐの頭でよくよく考えても試験は終わっている。ほっと安堵しながら体を起こす。


 緋夏と目の合ったリィサが言う。

「今日は二人分の支度をしないといけませんから。」


「二人分…。あ、そうか。」

 緋夏は自分がリィサを学芸大会に参加させると言ったことを思い出す。


 リィサはどうやら許可が下りたとのことで、今日はメイドの仕事はお休みで緋夏と一緒に学芸大会を見物するのだ。だから、彼女もおめかしするための時間が必要だと昨晩言っていた。


 休みの日なのにリィサは緋夏の朝の支度はきちんとしてくれる。


——休みとは何なのか。休みなんだから徹頭徹尾休めばいいのに…。っていうか、主人に連れられて学芸大会見て回るのって仕事みたいなもんじゃ…?

——いや!だ、大丈夫!わたし嫌な上司になってないはず!楽しみにしてくれてるは、ず…。


 リィサに支度されながら緋夏は抱いてしまった嫌な考えを首を振って振り払った。


「お嬢様、髪の手入れ中なので首を振らないでください。」

 リィサは緋夏の背後で微笑みを浮かべながら、いつもより優しい手つきで丁寧に彼女の手入れをしていた。


 しかし、それに緋夏が気づくことはなかった。


———


 学芸大会はお堅めのイベントだ。学外から生徒の関係者以外にも、イベントに携わった商会や他校の研究者なども見学に訪れるらしい。

 ただ、顔は出すものの”発表者側に立たない”生徒にとっては、やはりこのイベントは週末から始まる夏休みまでの消化試合のようなものでしかない。


 だから、朝食をとりに訪れた食堂もどこか気の抜けた雰囲気が漂っている。


 では、発表者側に立つ生徒はどうなのか。緋夏たちの卓の中で一人、発表をするコニアだけがしきりにグラスに入った水を口にして、ぎこちない表情をしている。

 

「…コニアの発表まで、あと少しですわね。」

 チャリルは軽いため息と共に、触れざるを得なくなって話しかける。


「あわわわ、そ、そうですわネ!」


「ふふっ、エメルダ様みたいな慌て方ですね。」

 アンネリーサが笑う。そのすぐ後に二人を揶揄うようなことを言ってしまったと気づき「あっ」という顔をする。


「え、わたしそんなあわあわしてたことあった?」

 いつも落ち着き払って泰然としているつもりなので、緋夏にしてみれば身に覚えのない指摘だ。


「エメルダ様と同じ、ですノ?な、ならきっとうまくいきますわネ。すうー。…ふぅぅ。」

 コニアは薄く笑って深呼吸をする。どうやら少し落ち着いたらしい。

「あともう少ししたら、発表する教室に移動しておきますワ。もう少しだけ練習をしておきたいですシ。」


「9時から、でしたわよね?」

 ギカーナが再度時間の確認をする。


「ええ、9時から9時40分までの部の一番目ですワ。」


「じゃ、また後で会いましょうか。わたくしたちも教室の後ろで見ていますからね。頑張ってくださいましね!」

 ギカーナがガッツポーズをするように両手を胸の前でグッと握る。


「ええ、ありがとう、ギカーナ。わたくし頑張りますワ!」

 コニアはそう言って席を立ち、ひと足先に会場に向かった。


 コニアを除いた彼女たちも、何だか落ち着かなくて早々と食事を済ませた。そして、時間前に会場の教室に集合する約束をして食堂を出た。 


———


「では、一番目の発表者の方、どうぞ。」

 司会の先生が言う。年配の男性で、他校の先生らしく緋夏に見覚えはない。


 コニアが前方の席で立ち上がるのが見える。隣には細長いスタッグホーン先生の姿もある。

 コニアが登壇すると、彼女の後ろの黒板に文字が浮き上がる。

 それを確認したコニアが口を開く。

「皆様、ご機嫌よう。コニア・リヴァリエです、ワ。発表内容は『魔耐ラットの特殊行動とその原因の究明』です。」

「研究の経緯、目的は資料で示した通りです。当学院で今年春に起きた魔法薬品庫の爆発に魔耐ラットが関わっており、脱走に使われたのは土属性の魔法と判明しております。また、通常、集団行動を取るはずのラットたちは学院の各所で発見、捕獲されております。以下目的です。今回の魔耐ラットの特殊行動の原因を把握し、脱走を防ぐこと。」

「具体的な事例ですワ。魔耐ラットは金属製のケージで飼育されておりました。爆発の数時間前に餌の補給に行った者からラットたちは普段と変わらない様子だったとの報告があります。しかし、爆発後の調査でケージには外的な力が加えられ、また、魔法薬品庫がある側の壁を土属性魔法で掘削するという行動が見られました。この時薬品庫にいた学生たちが姿を確認しておりますが、直接魔法を使う様子は見られなかったとのことです。そして、爆発の発生後に学院全体に散り散りにラットたちは逃走しました。このときラットたちはパニックを起こしていたと考えられます。」

「今回の特殊行動が何によって誘発されたものか調べるために次のような実験を行いました。」

「特殊行動を誘発した可能性のあるものを揃え、ラットのケージの側に置き、一週間の間その反応を観察するという実験が一つ。当時魔法薬品庫にあった薬品をそれぞれ揃え、同一の部屋の中に置きました。また、生徒に反応した可能性も考慮し、男女生徒が一日、ラットと同一の部屋の中で観察も行いました。」

「もう一つの実験はラットたちがパニックを起こしていた事実から、ラットたちが集団行動を乱すほどの”何か”を探るべく天敵となる鳥類や、猫、あるいは地下階でよく見られる生物などを見せた時の反応を観察しました。」


かーんっ


 司会の先生が手元にあるベルを打ち鳴らす。時間経過を示しているらしい。


 コニアがその音を聞き、わずかに動揺する。

「え、えと、一つ目の実験の結果、魔力制御・集中力補助薬、植物用の発育促進薬に対する反応は見られませんでした。ただし魔力生成促進薬については、興味を持つ個体が多いことがわかりました。また、個体によっては女子生徒に対してわずかに避けるような素振りを見せたものもいましたが、普段餌を与える生徒とは違う可能性を考えれば特筆すべき反応はなかったと言えます。」

「二つ目の実験の結果です。えーと、いずれの生物に対しても逃避行動が見られましたが、ラット以外の小型の魔法生物に見られる行動と同じく、隠蔽や逃走に小さな魔法を使うのみでした。そして、集団行動を乱すようなパニックは起きませんでした。」


かんかんかんっ


 再度ベルが鳴らされる。


「最後にまとめです。魔力生成促進薬を除く薬品に対しては反応は見られませんでした。また、魔力生成促進薬であっても特殊行動を誘発することはできませんでした。また、パニックを起こした原因についてもこの実験からは把握できませんでした。今後は複合的な状況を加味し、魔力生成促進薬と天敵のセットで研究を進める予定です。」

「以上で発表を終わりますワ。」

 コニアがぺこりとお辞儀をする。いつものカーテシーではない。


「はい、発表ありがとうございました。」

「——では質疑応答に入りたいと思います。どなたか質問のある方——はい、そちらの方。」

 司会が指名する。


 指名されたのは三十代か四十代くらいの女性で、生前の緋夏と変わらないようにも見える。

「はい、大変興味深い研究内容でした。ありがとうございます。マデソン製薬のルワンと申します。お伺いしたいのは、ラットが土属性魔法を使用して掘削を行ったとのことですが、魔法を使用する場面を見た人はいないんですよね?何をもってラットが魔法を使用したと?」


——ああ…!来ちゃった、質問!頑張れコニア!


「ラット…えと、質問ありがとうございます。事件後の調査で当時ラットの飼育されていた部屋へ立ち入った者はおらず、他に魔法生物も確認されなかったためです。」

 コニアは動揺しながらもしっかり返答する。


——よっしゃ、いいぞ!コニア!やったれ!


「うーん、ラット以外に魔法を使用したものは考えられなかった、と。ふむ…。身を隠す程度を超えて壁の掘削をしたとなるとラットには使用すること自体が厳しい魔法だと思うのですがそれはどう思われますか?」


「え、えーと…。それは…。」

 コニアの中に回答の用意が無かったらしい。答えに窮して、しどろもどろになってしまう。


——黙れ、おばさん!コニアが困ってんじゃない!


 緋夏が内心でルワン氏を侮辱していると、スタッグホーン先生が何気なく手を上げて立ち上がる。


「あ、発言よろしいでしょうか。共同研究者のアウロラ学院のスタッグホーンです。」

「——おっしゃる通り、壁の掘削とまでなると彼らほどの小型の生物には厳しい魔法でしょう。ただ、野生化した魔耐ラットの中には、身体の安全を優先して、攻撃魔法を使用する例や大きな土壁を生成し、敵対生物の拘束を試みる例が見られます。家畜から野生へ帰ると攻撃性が増す可能性の研究もありますから、今回もそれに近いことが起きたのではないかと考えています。」


「あぁ…ありましたね!…なる、ほど…!ありがとうございます。」

 ルワン氏は納得したらしく着席する。


「他に質問のある方はいらっしゃいますか?」

「——では、司会のわたくしから質問させていただきます。サターニア魔法大学のハイムです。」

「パニックを確認するための実験では、天敵の生物たちに魔法を使わせるようなことはしましたか?」


「そ、それはしていませんワ。至近距離で猫ちゃんを見せるというようなこともしましたが、むしろ団結するような動きを見せたので…。」


「おお…そうですか。んーと、言いたいのは、何らかの魔法に反応した可能性もありますので各属性魔法への反応を確認するのも面白いのではないでしょうか。」

「おっと、そろそろ時間ですね。では次の発表に参りたいと思います。次の方どうぞ。」


「はい!」

 生物部の先輩、ウォルターが立ち上がる。スタッグホーン先生の隣にいたらしい。


 入れ替わりで自分の席に帰るコニア。

 そうして彼女の初めての学芸大会の、初めての発表は終わった。

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