第22話 前編 「元一般女性さん、生物部を見学する」
第22話後編は明日10/8(木)に投稿します。
よろしくお願いします。
「わたくし、学芸大会に出ることにしましたワ。」
コニアが宣言する。
図書室に行った翌日の朝。
いつもの五人で「さあ朝食をいただきましょう」と座ったところでコニアが口火を切った。
「はい?も…ちろん、あたくしも行って見てみますわよ。一緒に行きたいですわね!」
ギカーナがコニアに答えるが、意図を図りかねているのがわかる。
「…そういうことを言いたいのでは、ないのではなくて?」
チャリルが運ばれてきたスープをスプーンで口に運びながら言う。
「えーと、エメルダもわかんない。つまりどういうこと?」
緋夏は手に取ったスプーンで、下唇をおさえる。リィサがいれば「お行儀が悪い」と怒られただろう。
「つまり…。わたくし生物部からラットちゃんたちのことをまとめた研究を発表しようかと思いますノ。」
「へぇ、立派ねぇ。」
「…え!?コニア部活入ってるの?」
緋夏は初めて聞く情報に驚く。
——毎日ほとんど一緒にいるのに、いつ部活なんてしてるのよ!
「そうなんですの!?」
隣でギカーナも驚いている。彼女も知らなかったらしい。
「…えぇ?入っていますわヨ?前にお話ししてからすぐに入部いたしましたノ。」
——前っていつよ!
「スタッグホーン先生とも仲良しさんですよね!」
アンネリーサは知っていたらしい。ひょっとすると緋夏より三銃士たちと仲が良いかもしれない。
「うふふ、そうですわネ。先生はすごい方ですのヨ?」
「昨日もラットちゃんたちのことを発表したいって相談に行ったら、『それは良い題材だね。…それなら共同研究にしない?今回の事件の調査結果もあるし、僕も手伝ってあげられるから』って言ってくださいましたノ!」
「は、はあ〜ん、す、すごいわね…。」
普段そばにいた子が何かに挑戦して、自分たちの元から去っていく感覚。小市民の緋夏にとって何度も感じたことがあり懐かしくも寂しい感覚。
「——え、でも大丈夫?ひと月後には前期試験もあるし、学芸大会はそのすぐ後なんでしょう?」
「えぇ、ですわネ…。でも魔法生物学は普段からよく勉強していますから大丈夫ですワ。魔法系の科目は少し大変ですけど、モ…。きょ、教養科目は、モノの数に入りません…ワ!」
「コニア様!わたしたちにできることがあればなんでも言ってくださいね!喜んで協力しますから!」
「あ…ありがとう、アンちゃん様。嬉しいですワ!でも、最初は一人で頑張ってみますノ!でも…それでも大変なら頼らせていただきますワ!」
コニアが涙ぐんでアンネリーサの手を取る。
ひとしきりアンネリーサの手をにぎにぎした後、コニアもようやく食事を始める。
「…そういえば、生物部ってどこにあるんですの?あの牧場じゃないですわよね?」
チャリルが食事の手を止めて尋ねる。「あの牧場」というのはいつも魔法生物学の授業をしている、魔法生物たちが多く住んでいるところだ。
コニアは手に取ってちぎったパンをお皿に戻す。
「ええ、違いますわヨ。部室自体はスタッグホーン先生の研究室を使わせていただいていますもノ。」
空いた手で、食堂の窓から見える隣の尖塔を指差して言う。
「先生は魔法生物が研究対象ですから、外部に出ておられることが多いのもあって自由に使って良いとおっしゃっられたみたいですワ!」
言い終えて、今度こそようやく食事を始めるコニア。
「そうなんだ…。先生の研究室…ねえ。どんな部屋なのかしら?」
言い終わってから、緋夏は少し後悔する。
想像通りにコニアはまた食事の手を止める。
「エメルダ様、ご興味がおありならいらしてみまス?部室でもありますから、お友だちも呼んで良いのですワ!」
「コ、コニア!あたくしも、あたくしも行きたいですわ!」
ギカーナが「はい、はい」と手を挙げる。そんな彼女のお皿の上は綺麗に何も無くなっていた。先に食べ終えたらしい。
「じゃ、みんなで行きましょうか。放課後…が良いのよね?」
緋夏も慌てて食事を進めながら話す。リィサがいれば(以下略)。
「ええ、では本日の放課後に終わった足で向かう、でよろしいですわネ!?楽しみですワ〜!」
コニアが嬉しそうににっこり笑う。
普段なら緋夏は早々に寮に戻って適当に宿題を終わらせるだけだ。そして夕食までの時間、魔法の練習と称して部屋の中のものを「ヴェクト」の魔法でプカプカ浮かせて一人遊びしているのだ。
しかし、今日はいつもと違う過ごし方ができる。そのことに早くも胸が躍り始めていた。
———
放課後。
教養科目の文学の授業が終わった後、五人が集まる。早速、部活見学に向かうつもりだ。
「なんだか、ちょっぴり緊張しますね…。」
アンネリーサが呟く。
「ちょっとわかりますワ…。わたくしも入部しようと思った時、てっきり部活棟に部室があると思っていたのに、まさかの先生の研究室なんですもノ。」
「そうですよね。コニア様はよく一人で行けましたね…。」
「——まあでも、アンちゃん様。ご安心なさって?スタッグホーン先生は今日、授業がないのでフィールドワークに出ておられるはずですノ。それに先輩方は…い、良い方ばかりですワ!」
「先生方の研究室は向こうの塔でしょう?早く行きましょう。」
ギカーナが先頭を歩き出す。
「…試験勉強もありますし、ね。」
チャリルもならって歩き始める。
その後ろをコニア、アンネリーサ、緋夏と続いて歩いた。
最近の学院内では、あちこちで生徒たちが何かを準備しているのが見られた。
教室の一角を借りて魔法の実験をしているらしい姿や、討論を交わしている姿。こういった人たちは研究を大会で発表するつもりなのだろう。
研究室のある尖塔の階段前まで来たとき、オルビス先輩が紙の資料を眺めながら現れる。図書室以外で見かけるのはなかなか珍しい。
ふと顔を上げて緋夏たちに気づいたオルビス先輩が挨拶をする。
「おや、こんにちは。君たち。」
「「ご機嫌よう。オルビス先輩。」」
「図書室以外で見かけるなんて珍しいですわね。」
緋夏が思っていたことを口にする。
「うん?…君らが授業を受けてる時は僕も研究室に行ったりして、研究してるんですよ。放課後とかは図書室で働かせてもらってますけどね。」
——おお…!ゲームではなかった描写だ。ゲームでは、図書室で勉強してるか、魔法の訓練してるかって感じだったけど、ちょっと違うのね。
「じゃ、またいつでも図書室に来てくださいね。」
オルビス先輩は再び資料に目を落とし、険しい顔で去っていった。
尖塔に入ってみると、塔の内壁に沿ってぐるぐると階段が続いている。
階ごとに階段の踊り場があり、そこには窓がある。眼下に見える広場で、カリオとかいうスポーツの練習をしている姿も見える。トラックを一生懸命に走り、何やら魔法も使っている。おそらく、トラックの近くのベンチにはあの小さい、おそらく小人族かなにかの、フィアもいるに違いない。
そしてまた、音楽も聴こえてくる。
今までも時々聞こえていたが、最近などは気づいた時には聴こえている。吹奏楽部によるものらしいが、相変わらずその姿は見えない。
「み〜んな、学芸大会に出るつもり、なのかしら。勤勉ねぇ。」
軽く息を切らせて、階段を登りながら緋夏はぼやく。
隣を歩くアンネリーサが息を乱さないで答えてくれる。
「この前、寮の隣の部屋の友達に聞いたんですけど、学芸大会で発表すると成績に加算されるらしいですよ。」
「流石に内容が良くなければ、大きく加算にはならないみたいですが…。」
「あ、ふーん。なるほどねえ。じゃあ『学内一位の成績!』みたいなものを取りたければ、大会に出ないといけないんだ?」
「どうなんでしょう?全科目で大会に出て…それで、すっごい発表をしないといけないんじゃ…?」
アンネリーサが首を傾げる。
「そ、それは、大変すぎますわね…!」
ギカーナの顔が引き攣る。
「ふっ…流石に無理でしょう…。そもそも成績の順位発表なんて聞いたことありませんわよ。」
先頭で階段を登り切ったチャリルが振り返って笑う。
「…じゃあ、評価より成果をって感じか…。やっぱり教育・研究機関なのね。」
緋夏はなんとなく感心してしまう。
はっきり言って『聖アウロラ魔法学院』なんて学校名は「きっと命名者が、なんかそれらしい感じで、適当にいい感じに付けたんだろう」と考えていた。だがそれはゲームの中の話だと思っていたからなのもある。現実に地に足をつけて通ってみれば、いかにしっかりとした教育機関なのかを思い知らされる。
「皆様!こちらですわヨ!」
コニアが階段の上から手招きする。
どうやら目的の階に着いたらしい。階段の踊り場を出てすぐ、環状に広がる廊下の、ある部屋の前で彼女は立ち止まる。
そしてちょうどその時、部屋の扉が開く。
一人の男子生徒が部屋から現れた。
「あ、コニアちゃん。お疲れ様。——おお!かわいい女の子いっぱいじゃんか!みんな入部希望かな?」




