第21話 後編 「元一般女性さん、ついていく」
第22話の投稿は10/7(水)に行います。
よろしくお願いします。
「ヴェクト。」
オルビス先輩が目当ての本を本棚から集めてくれる。棚から抜き取られた本はふわりと彼の手の中におさまり、それをコニアに手渡してくれる。
図書室の本棚は背が高い。梯子の用意もあるが、先輩たちは魔法を使って取っている。
「これで以上ですが…他に気になる本はありますか?」
「ご丁寧にありがとうございまス。これで大丈夫ですワ。」
「あ、あの!昔の聖女様についての本があれば読んでみたいのですが…。」
アンネリーサがおずおずと申し出る。
「あ…。ああ…!君が聖女の子か!」
「失礼、本ですね。しかし、流石に聖教会にあるものの方が詳しいと思いますが……。」
「そうです、か。入学前に教会で色々読ませてはもらいましたが…。その…知りたいことは載ってなくて。」
「ふう…む、御伽話みたいなもので良ければいくらかありましたね。こちらへ。」
オルビス先輩が案内に動き始め、それにアンネリーサが着いていく。
緋夏もふらりと着いて行こうとした時。
「あ、わたくし本に目を通したいので、向こうの机で待っていますわネ。」
「それなら、コニア、あたくしも行きますわ。それに三冊もあったら重いでしょう。」
ギカーナがコニアの抱える本を一冊抜き取って持つ。
「ありがとう、ギカーナ——」
二人を見送ってアンネリーサと一緒に歩き出す緋夏。隣にいる彼女に尋ねてみる。
「知りたいことって…?」
「…天啓のことです、ね。これまで魔王は歴代聖女様が封印してきましたから…。」
「ああ…。…!」
緋夏はアンネリーサの言葉とその表情から言いたいことを理解した。そして、気づいてしまう。
これはゲームで”現在”を変えさせられてきた弊害だ。これまでの歴史を振り返ったとき、アンネリーサと同様に天啓を得た聖女がいた。しかし、魔王は”封印”されている。——聖女の命と引き換えに。
——昔の聖女サマは生き残れる道を探らなかった…なんてことあるのかしら。いや、無いでしょうね…。
——封印以外の道が…。
オルビス先輩が図書室の奥、壁際の棚の前で立ち止まる。
「この辺が勇者と聖女、魔王に関する歴史書で、隣には御伽話を載せた本が置いてあります。御伽噺といっても最近改稿された、よく出回っている本から、原典に近いものもあるので面白いと思いますよ。」
手で示しながら説明してくれるオルビス先輩。
「…そうだ…!」
「——ちょっと真偽が怪しいですが、先代聖女の手記の写本がありました。この本は聖教会では偽物と断じられたので、取り扱いはないと思うんですよ。」
「——どこに置いてあったか…。」
ちょっと嬉しそうに目を皿にして棚を眺め回す。
——あ〜、知ってるやつ、かな?封印方法のヒントとか書いてあるやつ。三年生の頃の図書室イベントで出てくる…。確かタイトルが…。
「「赤レンガのそばにて」」
緋夏の呟きがオルビス先輩と被る。
「ん!?知ってるのか、君!」
オルビス先輩が勢いよく、ぐるっと振り向く。首を痛めたんじゃなかろうか。
「しっ、知ってるちゅうか、なんちゅうか…。」
しどろもどろになる緋夏。
「あ、あわわわ、なんか、ほら家で見たかなーって。わたし公爵家令嬢だし。お父様持ってたような…。」
もちろん適当な嘘だ。そんなこと知るわけない。
「そう、か…君、は…。ブライアロード公爵の…。そう、か。あの方なら持っていてもおかしくはない…か。」
ぶつぶつと呟くオルビス先輩。「あの方も本物と見て…?」などと言っている。
——か、勘違いが、かかか加速しててて…。
——ま、まあ?封印イベントには必須級?だったし?真贋なんて知らないけど、良いよね!
「あの!先代聖女様の手記もお借りしたいですが、先先代、先先せんせん……代聖女様の書かれたものはありませんか?」
「おお、すみません考え事をしてしまって。」
「——えーと、まずこの図書室にはありません。もちろん、保管庫にも。聖女様が書かれた手記や手紙は国立博物館の方で展示されることもありますが、そういうものはおそらく聖教会の方でも内容は把握されているでしょう。」
「んー…。」
「——二年からの、選択科目で魔法史ってあるでしょう?その先生がエドマンド先生なんですが、あの方に聞いてみてはいかがでしょうか。勇者研究をされていた方ですから、君の興味を引くような資料をお持ちかもしれませんよ。」
「へえー、エドマンド先生が…。」
——あの先生って、学院イベントの進行役じゃなかったのね。きちんと先生なんだ…。
「——ああっ!そうだ、思い出した。保管庫の方にさっき言っていた手記を取りに行ってきますので、受付でお待ちください。」
オルビス先輩はそれだけ言って、その場を離れる。
「——ちなみに、アンちゃんは『赤レンガのそばにて』って知らないの?」
「知って、いますよ、内容も。でも、読んだことはないし、何か発見があるかも。」
期待半分、諦め半分と言った表情で口の端だけ歪ませてアンネリーサが笑う。
「天啓、ねえ。未来を知っても運命が変わらないのか…変えた後なのか…。」
緋夏は口の中で呟く。
「…。」
「…アンちゃん、エドマンド先生のところに行くときは一緒に行くからね。」
「…はい。ありがとうございます。」
緋夏はアンネリーサに目配せして、受付に向かって歩き出す。
——わたしにとっては学院生活の中でふらりと寄っただけの図書室だけど…。
——アンちゃんにとっては…?この子には世界がどう見えているんだろう…。
———
十分程経った頃。
受付に戻って、コニアとギカーナと合流した緋夏たちが大人しく本を眺めて待っていると、オルビス先輩が戻ってくる。
「すみません、遅くなりましたね。こちらが例の手記です。」
オルビス先輩がアンネリーサに一冊の本を手渡す。
「ありがとうございます。」
飾り気も何もない、ただの本。タイトルが書かれているだけのそれをアンネリーサは受け取る。
「本の返却期限はちょうど一月後。前期試験が終わった後、学芸大会の頃に図書室に持って来てくれればそれで構いません。」
「——あっ、そうだ。図書室でも展示をするんです。今年は勇者たちと聖女の記録をまとめた本の展示なので良かったら見てってください。」
オルビス先輩が微笑む。
「ええ、ぜひ参加させてもらいますワ。」
「——では、わたくしたちはこれで…。友人を待たせてますノ。」
コニアの言葉の後に会釈して図書室を出ようとした時、背後から緋夏に声がかかる。
「——君も、エメルダ嬢も本に興味があったなら、ぜひ来てくださいね。拒む人なんていませんから…。」
オルビス先輩は前回の緋夏の来訪を覚えていたらしい。
緋夏は自分の方が大人であるはずなのに、子どもっぽい振る舞いをしてしまっていることに胸が痛んだ。




