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第1話 「元一般女性さん、悪役令嬢に転生する」

第二話の投稿は7/26(日)の深夜に行います。

よろしくお願いします。

——みなさん、ごきげんよう(暗黒微笑)。わたくしは茨木 緋夏(いばらき ひな)、どこにでもいるブラック企業戦士ですわ。年齢はひ・み・つ!今日はわたくしの素敵な職場をご紹介いたしますわ!


——わたくし、何を思ったか、最近の時勢の波に乗り、中小企業で電気設備の施工管理になりましたの。3Kなんて”過去の話”……なあんて、う・そ!


——現場次第では現場事務所のプレハブに泊まりなんて当たり前ですわ!幸い泊まりは今まで二日くらいしかしたことないけどね!


——明日は十四日ぶりの休みで、し・か・も!二連休ですの!積みゲー消化してもいいけど、やっぱりやるのは”アレ”よね。


 緋夏は誰に向けたかもわからない脳内自虐をしながら帰路につき、自宅前に到着する。

 小一時間続けたお嬢様ごっこは打ち切り、深夜の静まり返ったアパートの隣人に配慮しながらそぉっと、鍵を開けて入った。


「ゔぁぁああ〜、づがれだ…。何が二連休よ。二日続いたくらいで連休面してんなよ。」

 緋夏は止まらないため息とともに脱ぎ散らかした服の山に倒れ込む。

 洗濯もままならないで溜まり続けるそれらは、若干すえた臭いを発していたが、構うものか。


——いや、ダメだ。臭い。


 緋夏は鼻に皺を寄せて、ため息をついて立ち上がる。適当にスカートを脱いで放り投げ、冷蔵庫に向かう。

 冷蔵庫にはお酒しか入っていない。どうせ生鮮食品なんて買っても料理する暇がないのだ。無駄はよした方がいい。お野菜だって可哀想だ。


 デスクトップパソコンに電源を入れて、座椅子にもたれかかり目を閉じる。

 明日明後日は休みだというのに、書きかけの配線図が頭に浮かんでくる。こんなことではいけない。まるでワーカホリックではないか。


 首を振って目を開けるとパソコンの起動音がちょうど鳴ってマウスに手をやる。

 少しの逡巡の後、緋夏はデスクトップにある可愛らしいアイコンをダブルクリックした。


 乙女ゲーム「恋する♥聖アウロラ魔法学院〜君と運命の選択〜」だ。主な登場人物たちはティラネス人とかいうエルフみたいな種族で、エルフ好きにはたまらないと、前評判だけは良かったゲームだ。しかし、発売後は界隈ではクソゲーと名高い。というのも、主人公である聖女のアンネリーサがエンディングで魔王を封印するために高確率で死ぬのだ。いや、100%と言っていい。たったの一つだけ生存ルートもあるにはあるが、どう考えてもハッピーエンドではない。

 そういうわけで「恋する♥聖アウロラ魔法学院(恋しない)」とか「君と運命の選択(死亡)」なんて揶揄されている。


 しかし、緋夏はどうしてもこのゲームにハッピーエンドが存在しないとは思えなかった。

 乙女ゲームなのに幸せになる前に絶対に死んでしまう主人公なんて、制作スタッフはヒロインが嫌いなのかと思えてしまう。だが、どのエンディングも悔しいことに泣けるのだ。

 アンネリーサは誰のルートに進んでも必ずこんなことを言う。

「大好きな人がわたしのことを心配して涙を流してくれるんです。何を置いてもいいから、とにかくわたしに幸せに生きてって言ってくれるんです。だからこそわたしはあなたのために生きたい。……本当はもっと一緒に生きていきたかったんですけど…。」

 こんなことをヒロインに言わせて、諦められるわけがない。絶対に幸せにしてあげないと男が廃るだろう。女だけど。


 こんなにプレイヤーにヒロインを大好きにさせておいて、バッドエンドしか用意がないなんて許せない。

 確かに22種類あるエンディングはコンプしているので、ハッピーエンドがないことは知っている。エンディング集のページに22/22が表示された時は愕然としたものだ。ただ、コンプしたその日、ページを閉じる一瞬前に22/23に見えた気がしたのだ。

 しかし、そんな話はネットで検索しても出てこなかったし、何度開いたり閉じたりをしてみても、変わらず22/22が表示されていた。

 もしかすると、初めてコンプした時だけなのかもしれないと、実家のパソコンでも新しくゲームを買ってやってみたが、それでも駄目だったので、やはり空目しただけだったのだろう。


 たった一度、たったの一度空目したせいで、あるかどうかもわからないエンディングを求めて、緋夏は発売から三年経った今もこのゲームを遊び続けていた。


「さーて、今日もいっちょ死んでもらいましょうかね。」

「って死なせる前提かいっ!こらーっ!ごめんね?アンちゃん、この人あほなのよ。」

 お酒で早くもテンションが上がり、一人芝居をしている緋夏は自分の異常に気づいていなかった。


 緋夏の心臓は度重なる労働に悲鳴をあげ、脈は異様に速くなっていた。さらに普段から頭痛持ちである緋夏はいつもより痛みが酷いことに気づくことすらできなかった。


「ふわぁ…あ…。あれぇ?…う〜ん。やっぱり、疲れてるなぁ。明日は休み……なんだし、今日はも、う…寝て、また明日……すぅ。」


「『ようこそ!聖アウロラ魔法学院へ!素敵な男の子たちと——』」



























——トンネルを抜けると——


「雪国でした、なんてね。ふっ……ふぁ…ぁあ?」

 緋夏は自分の声がやけにハスキーボイスであることに違和感を覚える。


「なんか…喉変ね。」

 緋夏が喉をさすりながら体を起こすと——


「「「おはようございます、お嬢様。」」」


「うきゃあ!な、な、なに!?だれ!?」

 

——ひとり暮らしの自分に朝の挨拶をしてくれるのなんて、ニュースキャスターくらいなのに、それどころか”お嬢様”だって?


「し、失礼いたしました!驚かせてしまい申し訳ございません!」


 緋夏が顔を上げた先で、壁の際に見慣れない人たちが静々と立ち尽くしていた。

 先頭の老婆が口を開く。

「お嬢様、お目覚めをご不快なものにしてしまい申し訳ございません!なんなりと罰をお与えいただきたく……!」


 緋夏が口をあんぐりと開けたまま老婆を見やると額からは汗が滝のように溢れていた。

「えっ…と?」

 緋夏はあまりの訳のわからない状況に戸惑っていると、自分の足先が向く方角に全身鏡を見つけた。そこにはどこか見覚えのある腰まで伸びた黒髪に少し長く尖った耳が映っていた。


「エメ、ルダ…?」


「ええ、エメルダお嬢様。あなた様はエメルダ・ブライアロード様でございます。」


——エメルダって!?聖アウロラ魔法学院の地獄令嬢じゃない!!

別作品の紹介です。

・ホラー短編「ぴちゃぴちゃちゃぷん」全五話 完結済み 

音を題材に体感に迫る恐怖を描いた作品です。


・異世界転移もの「深淵からのぞいていたのは、あくまでも神でしたか?」 次話更新日7/23(木) 本作と二日ごとに交互に更新予定

妖の存在する世界で、青年は出会いと別れを経験しながら生活していくという作品です。


更新予定は厳しくなれば見直すかもしれません…!

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