第14話 「元一般女性さん、部活棟に行く」
第15話は9/13(日)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
魔法生物学が終わったあとの放課後、緋夏とアンネリーサ、三銃士たちは部活棟に向かって歩いていた。
ティターノ王子とダリウスは用事があると言って、先に戻って行った。おそらく、主に三銃士たちが緊張してしまってぎこちない歩き方になっていたからだ。
部活棟と呼ばれるその建物は、聖アウロラ学院には似つかわしくない、アパートの様になっていた。
——ここだけ建築様式違うの面白いわね。急に日本みたいな雰囲気漂わせて。まあ、生徒が部活に使うためだけのものだからね。わざわざおしゃれにしなくても良い、のかな?
緋夏たちが連れ立って歩いていると、木刀で素振りをする生徒たちや、野球のような、球技らしきことをする生徒たちが屋外で活動しているのが見える。
「部活の案内とかされなかったけど、結構多いのね、やってる生徒。」
緋夏は運動があまり好きではないので、部活をする生徒には感心してしまう。
コニアは緋夏の言葉に目をきらりと光らせる。
「ですワ!わたくし生物部に少し興味があって入部を考えておりますのヨ!」
「生物部は公認だそうですから、お勉強も捗りますノ!」
「公認…て?非公認の部活とかもあるんですの、コニア。」
ギカーナが首を傾げてコニアに尋ねる。
「あら、ギカーナは知らなイ?ええとね、勉強や研究をする部活は予算が学院からおりますノ。でも、今そこらで活動されてる運動系の部活は生徒たちによる自発的な活動らしいですわヨ!」
——コニアは本当によく知ってるわね。まあ、ゲームでもよく噂話とかしてたけど…。彼女もエメルダに引っ張られて闇堕ちしてたってことかな。申し訳ねえ…!
「へぇ、つまり汗流して頑張ってる小汚いのはお金のない庶民の部活ってことですわね。」
チャリルが口を歪めてせせら笑う。彼女は放っておいたら勝手に闇堕ちしそうだ。しかし——
「つまり、お金がなくてもできることを頑張ってるわけですね。立派ですね!」
そのチャリルの前に、にゅっとアンネリーサが顔を差し込む。にっこり笑って。彼女がいる限り闇堕ちなんてさせてくれなさそうだ。
アンネリーサの屈託のない笑顔に焼かれるような顔をして気まずそうに目を逸らすチャリル。
「う、うん、そうですわね。」
——アンネリーサがこんな感じなのに、闇堕ち街道まっしぐらなエメルダってすげー。何をどうして闇堕ちしたのか今さら不思議だわぁ…。……嫉妬ってだけだったんかしら…?
そんな会話をしている内に見えていた部活棟に到着する。
入り口を入って右手の掲示板にはベタベタと部活のチラシが貼られていてちょっと見た目が汚い。
魔法学院内はおしゃれなで優美な世界だからと言っても所詮学生そのものはどこに行っても変わらないのかもしれない。
チラシの中に緋夏は新聞部の文字を見つける。どうやら部活棟の二階端の部屋を使っているらしかった。
「新聞部…は二階のようですね。」
アンネリーサが呟く。
——例の人は階段の裏にいるはずだけども、さて。
「——おや?貴族のご令嬢方、こんなむさ苦しい所へ何か用かな?あー待って待って、当てて見せよう。うーん、魔法薬学部へ入部希望と見た!!」
階段の脇に立てられた仕切りの隙間からフードを被った女性が顔を覗かせて言った。
——出た!的中率脅威の5%、占い師パイセン!
緋夏もゲーム中ではそれなりにお世話になった人物だ。攻略対象たちの好感度とか、イベントの起こりを示唆してくれるお助けキャラだった。ただ、占いは当たらない。
「いいえ、あたくしたち入部希望できたわけではありませんし、魔法薬学部じゃなくて新聞部に行くつもりですわ。」
この人物に一番近いところにいた、ギカーナが和やかに答える。
「ギカーナ、知らない人に丁寧に答えなくて良いと思いますわよ、胡散臭いし…。」
チャリルは目を細めてギカーナの手を引き足早に階段を登っていこうとする。
だが、緋夏の本命はこっちだ。
「占いやってるんですか?ええと、先輩?」
フードを被った女性は少し面食らったような顔をして答える。
「…そうだよ、僕は占星の魔女ラッキー・クラッカー。」
「——君は…ブライアロード公爵家令嬢ですかね。リヴァリエ伯爵家、グラインフォード伯爵家、ミストヴェイル伯爵家の令嬢方まで揃い踏みか。恐れ入るね。そして君は…時の人、聖女だね。」
知っていることをアピールするかのようにそれぞれの家名を口にする。
しかし、その態度はコニアにとって大層腹立たしいものだったらしい。不機嫌と顔に書いてある。
「なんですの、その態度は。わたくしたちのことは…まあ、構いませんワ?でも、エメルダ様に対して不敬ですわヨ?偽名ではなくきちんと名乗ったらいかガ?」
——ゲームではアンちゃん視点だったからか、あんまり気にならなかったけど、確かに貴族令嬢にその態度はいただけない……のかしら?身分の別を気にするのはうんぬんもあるけども…。
ラッキー先輩は大げさに謝ってみせる。
「おっと、失礼。ただ、芸風なんだよ。本名は勘弁してもらえませんか、コニア嬢?」
「まあまあ、コニア。良いじゃないのよ、どうでも。この人の名前、そんなに知りたい?」
「いいえ、知りたくありませんワ。——エメルダ様が構わないとおっしゃるなら問題ないですけどモ…。」
——ひでえ!!わたしが言い出したことだけども!
「——で、ラッキー先輩。なんで、わたしたちが魔法薬学部に入部すると思ったんです?」
「星が教えてくれたのさ!」
「その星さんの目は節穴ですわね。」
チャリルが鼻で笑う。
「あぁーいやいや、星さんは君らが魔法薬品庫の事件の関係者だって教えてくれたのさ。薬学部入部は僕の論理的な推測ってやつだよ。」
「うわぁ、なんで知ってるんですの?…気持ち悪い…。」
チャリルは不気味なものを見たように顔が引き攣る。
——年頃の女の子って占いとか好きそうなのに、みんなあんまり好きじゃないのかしら?まあ、ラッキーパイセンの占い当たらないけどさ。
「ラッキーパイセ…先輩、事件について占ってみてくれます?犯人が捕まるかどうかとか、不審者がどうとかとか。」
「いいよ!良かった〜!今月は売らない占い師じゃなくて、売れない占い師になるかと思ってたからさ〜!」
「エメルダ・ブライアロード嬢は占いが好きなのかな?」
「好きか嫌いで言えば…興味ないかな?昔は楽しかったんだけどね〜。」
緋夏は正直な感想を漏らす。
「それ…僕必要かい?まあ、やりますけど…。」
ラッキー先輩は渋い顔から真剣な顔になり、箸のような棒をじゃらじゃらやり始める。緋夏はたまたま知っているのだが、これは中国の易占いというもので数字を見るらしい。つまり——
「…星に聞くのではなかったんですの?」
チャリルが胡乱げな顔で呟く。
「言葉の綾ってやつだよ。」
「犯人は…捕まるね。……ええ?へぇ、面白い——」
ラッキー先輩は驚いた顔をする。そして、薄く笑いながら立ち上がる。
「犯人は土と火の二属性持ちのようだね。土魔法で穴を掘って、火魔法でラットを薬品庫に追いやったのさ!そしてそれをしたのは…あなただ、エメルダ嬢!」
——おや?
緋夏はほんの少し動揺してしまう。本来なら自分が——エメルダが犯人だったから。
「あなたっ…」
コニアが目をむいてラッキー先輩に詰め寄ろうとするが——
「ありえません!!エメルダ様があんな事件を起こしたりなんて!!」
アンネリーサが感情を露わにして怒る。
「ま、まあまあ、みんな落ち着いて?所詮占いなんだから。」
緋夏は喧嘩になりそうな雰囲気に思わず止めに入る。
「そうですわ、怒る必要はありませんわ。知らない人には教えてあげないと。貴族は名誉を重んじることを。冤罪をかけることがいかに名誉に傷をつけることなのかを。」
ギカーナは微笑みながら言う。
ゲームでは嫌味な子だなって思っていたギカーナ。今ならわかる。ギカーナは嫌味を言っているのではない。ストレートに事実を言っているだけで、他意はない。しかし、緋夏には周囲の空気がみしりと軋んだ音が聞こえた気がした。
そんな空気の中、自分ごとではないかのような声でラッキー先輩は口を開く。
「ご、ごめんよ〜。珍しくきちんと結果が出たと思ったら変な結果でさ。そうだよね、聞くところによればエメルダ嬢はむしろ人助けに向かったというのにね…。」
「僕自身の推理では——」
——なんなんだろう…。パイセンの占いって情報を元にした雑な推理だと思ってたけど…。
——まさか…転生者…?
「言い訳なんて聞きたくありませんワ!」
コニアが冷たい声を出す。
「卒業後に良い就職先に巡り会えると良いですわネ!」
コニアの台詞には迫力があった。流石は伯爵家令嬢だ。
緋夏はその言葉が自分に向けられたものではないのに、人生が閉ざされたような感覚を覚えた。
しかし、ラッキー先輩は全く物怖じしていない。
「あははっ!そうだね、たくさんお賃金を貰えるところが良いなあ。でもね?僕は独立するつもりなんだ。そう、占いでね!」
「見通せない目では見通しのたたない将来しかないでしょうけどね、ぷっ…くくくっ。」
「あの…もう行きましょ?わたし気にしてないから…。それに新聞部に話を聞く時間が無くなっちゃうわ。」
緋夏は三銃士とラッキー先輩のあまりの取り合わせの悪さに気持ち的に辛くなっていた。引き合わせたのは自分なのだから責任を感じてしまう。
緋夏が怒るコニアたちの背中をぐいぐいと押して階段を上がっていく。踊り場まで来た時に何気なく後ろを振り返る。ラッキー先輩と目が合う。彼女は目を細めて薄く笑う。そして会釈だけして仕切りの向こうに消えた。




