第13話 後編 「元一般女性さん、魔法生物学を学ぶ」
第14話は9/10(木)の深夜に投稿します。
よろしくお願いします。
オオウサギは”大きいだけのウサギ”とスタッグホーン先生は言っていたが、流石に少し違って見えた。まず、歯が鋭いというか、凶悪だった。ふわふわ可愛いだけの動物というには少し野生味を感じた。
——可愛いんだけどねぇ。大きいと怖いってのも入ってくんのよね。でっかいワンちゃんになんとなく引いてしまうのの、過剰な感じっていうか…。
だが、性格はすごく温厚で間違って耳とか触っても、嫌がるそぶりはあっても怒ったりはしなかった。そして、緋夏たちと過ごしたオオウサギはどうも大根が、それも先端が好きらしい様子だった。
大根の先端以外には興味を示さないでそっぽを向いてしまうオオウサギ。
コニアは齧った跡のついた大根を持ってオオウサギの口元へ回り込む。
「あ!ダメですワ!好き嫌いしちゃ!きちんとお大根全部食べなきゃ!」
だが、流石に動物の反応速度にコニアはついていけていない。
「葉っぱも美味しいんですのよ?あたくしお屋敷に住んでた頃、庭師に言って自分のお大根育てたりもしたんですけど、美味しかったですわあ!」
オオウサギが食べなかった野菜を拾いながらギカーナが言う。
チャリルはギカーナと一緒にそれを拾って余計なことを言う。
「大根役者ならぬ、大根貴族…ぷふっ。」
しかし、チャリルの嫌味はギカーナにはきかない。
「チャリルも食べてみる?お大根。あたくしの家は土属性一家だからね。本当に出来が違うんだから!」
——なんでこの子たち喧嘩にならないのかしら?いっつも一緒だし、友だちってわからないわね…。
緋夏がぼんやりと三銃士を眺めている横で、アンネリーサはオオウサギの観察メモを書き上げる。そして、顔を上げるがなんとなく浮かない表情で——
「ギカーナ様のお大根も気になりますけど、とりあえずこれでこの子の好きな食べ物わかりましたね。」
「——観察記録ってどうつけるのが良いんでしょう…。3ページも大根が好きでしたって書けないし…。」
アンネリーサの心配事は宿題だったらしい。
緋夏は「なんだそんなことか」と人生の先輩らしく、リードする。
「そういうのは分解して書いたら良いのよ。例えば、どうアプローチしたのってところから始めて、これとこれが好きらしくこんな反応をした、それからさらに観察していると大根の先っぽばっかり食べてましたって感じで。」
コニアも同じことでどうやら困っていたらしく目を輝かせて提案してくる。
「後で一緒に仕上げましょウ!エメルダ様!その方が良いものになりますワ!」
———
そして、授業後。
例の事件の魔耐ラットについてスタッグホーン先生に尋ねるために五人は生徒たちが帰るのを待っていた。
そうしていると、ティターノ王子が話しかけてきた。ダリウスも一緒だ。
「おや、エメルダ。君たち、帰らないのかい?」
「あら、殿下。ご機嫌よう。っつーのも、変ですわね。授業で顔合わせてますのに。」
「わたくしたちスタッグホーン先生に尋ねたいことがありますの。」
緋夏は気楽に挨拶を交わし、会話を始めると——
三銃士たちは顔を強張らせて、丁寧にカーテシーをする。
「「「殿下におかれましては、ご機嫌麗しくお過ごしであらせられましょうか?」」」
もし無礼な態度でも取ろうものなら、場合によっては処罰だってありうるのだから、畏まるのが当然なのだ。無礼講だというのを間に受けて、王族にタメ口を聞いたりする愚か者は貴族にはなれない。
「うむ、わたしは大きなウサギさんと触れ合えて大変ご機嫌だよ。君らもそう畏まらなくっていいよ。エメルダの友だちだろう?学外だと咎めないとだが、ここでは構わないさ。」
「で、尋ねたいことって?」
「この間の事件のことですわ。殿下はあれから何か、聞きまして?」
「いやぁ、何にもだね。ダリウス、君、ガル先生に呼ばれてたよね。」
ティターノ王子が半歩後ろで立っているダリウスを振り向く。
「はい、おう…ティターノ様。現場で何か見なかったかと聞かれましたね。」
——この先、友人の関係になるのよね、この二人。まだこの時期だと、ダリウス君かっちかちね!
「あ、そうですわ!わたくしがすれ違った生徒のことですわよね。ダリウス様に尋ねるとガルドリック学院長言ってましたわね。」
「あの方は結局どなたでしたの?」
「ああ、魔法薬学の授業を受けていた上級生だった。階段を降りてすぐの右の柱の影に階段を登れずに座り込んでいたんだ。すぐに上階へ連れて行って、その後エメルダ嬢と会った。俺もだが、その生徒も不審者は見ていないらしい。」
「ということは、不審者とかいなかったってこと、なんでしょうね。不思議ですわ。」
——犯人がいないなら…。偶然…?
——エメルダが何もしなかったから何も起きなかった。偶然の事故だった。それでいいはずなのに、なんでこんなにも気持ちが落ち着かないのか…。
一行が話し込んでいると、柵の中で授業の片付けをしていたスタッグホーン先生がそれを見つけてにこにこと声をかけてくる。
「——君たち、何か質問かな?」
「はい、スタッグホーン先生。彼女たち質問があるそうですよ。」
ティターノ王子が優雅にスタッグホーン先生と緋夏の間を開ける。
「ふむ、何かな?あぁ、好きな食べ物見つからなくっても、観察記録は提出してね。3ページ以下にはまからないよ。」
「ん、そのことではないですわ。——魔耐ラットのことですの。」
「…おや、面白いね。もしかして、君らは新聞部かい?青春だねぇ。僕は学院生時代、新聞部でもあったんだよ?生物部とかけもちだったんだけどね。」
目を細めて微笑するスタッグホーン先生。
——そういや、部活なんてあったわね。というか、スタッグホーン先生新聞部とかけもちなんて、ゲームでは聞かなかったな…。
——ゲームでは見なかった描写…?エメルダ…の事件も、見えていなかった何かがありえる?
緋夏は思わず考え込みそうになるが、今はスタッグホーン先生への質問が優先だ。頭を切り替える。
「ガルドリック学院長言っていましたわ。魔耐ラットの脱走はあり得ても、厚い土壁をわざわざ掘って魔法薬品庫を荒らすなんて考えにくいって。不審者を疑っていたようですが、その後どうなのですか?」
「不審者、ね。不明をさもそうであるかのようにいうのは勉学に身を捧げたわたしとしては避けたい。”わからなかった”が答えだ。魔法の使用痕跡はあったが、ラットだって使うからねぇ。」
「魔耐ラットが厚い土壁を掘ることについても、同じだ。理由はわからないが彼らだって生き物だ。道理や論理で説明できない行動をすることだってあるし、わたしたちのまだ知らない行動原理によるものかもしれない。」
「学外の人間の存在より、あり得そうじゃないかい?——こんなところでどう?一記事くらい書けるんじゃない?ま、断定なんて愚かなことしないようにね。真相なんて後からいくらでも覆るんだから。」
スタッグホーン先生の言葉を聞いたチャリルがボソリと呟く。
「先生が犯人だったりしてね…。」
「それは面白いスキャンダルだね!」
「魔耐ラットを操り、魔法薬品庫爆発を企んだのは、なんと!魔法生物学教授オックス・スタッグホーン!!して、その真意は…?記者がかの教授を独自取材!!」
「——な〜んて、実に愉快…。いや、失敬。巻き込まれた生徒の前で言うことではないね。」
「先生、わたしからも一つ質問があるのですが、魔耐ラットは魔法耐性があるんですよね?操ることってできるんでしょうか?」
ティターノ王子が緋夏の聞き切れていないことを補って聞いてくれる。
「無理ではないよ。ただ恐ろしく面倒な魔法だ。意にそぐわない行動をさせるなら、かなり難しくなる。そして、彼らには魔法耐性がある。」
「魔耐ラットを操りたいなら、生物を操る魔法に熟練していて、そしてかつ彼らに対する専門知識がないといけないね。両立できるのは…ガル先生クラスの魔法使いじゃないかな?」
「つまり、どういうことなのかしら…。あたくしわからなくなってきちゃった。結論はガル先生が犯人ですの?」
ギカーナは眉を顰めて不可解そうな顔をする。
真剣に調査をする色が次第に濃くなってくる。
緋夏はちょこっと先生に聞いて適当に済ませるつもりだったというのに。
その重みに耐えられなくなった緋夏は——
「…そうよ!たぬきジジイが犯人ですわ!ボロクソに書いてもらうよう、新聞部に垂れ込みましょう!!…というのは——」
アンネリーサはギョッとして、飛び上がる。
「エ、エメルダ様!?さ、流石にガル先生がかわいそう…!」
緋夏の軽口をまともに受け止めてしまったらしい。
「ア、アンちゃん、さすがに冗談よ…。」
「あっははは!ガル先生をたぬきジジイと呼べるのは君くらいだろうね。まあ食えない人だけどさ、ふっふふふ。」
ティターノ王子は緋夏を見て大笑いする。
三銃士たちもティターノ王子の様子に、少し緊張感がなくなり、一緒に微笑んでいる。
「ま、まあ、冗談はさておき、部活棟に行くだけ行ってみましょうか。」
——変に盛り上がってきちゃったしね。もうちょっとだけ調査っぽいことすればみんな満足するでしょ。
「え?…ああ、君ら新聞部ではないの…。」
ほんの少し残念そうなスタッグホーン先生。
「——彼らに話を聞きに?」
「ええ、先生。何か知っている生徒がいるかもしれませんから。」
——すっかり忘れてたけど、情報通のあの人が部活棟にいるはず…。ゲームでは好感度とか教えてくれるだけだったけど。




