第13話 前編 「元一般女性さん、魔法生物学を学ぶ」
第13話の後編は明日の深夜、同じくらいの時間帯に投稿とします。
よろしくお願いします。
魔法生物学は屋外で行われるとのことだった。今日で三度めの授業とのことだが、緋夏はタイミングが悪く、初めての受講だった。
一年生の後期から座学が増えてくるらしいが、前期の間は魔法生物との触れ合い、その生態を知ろうということで屋外授業が多いらしい。
授業は学院を乗せた亀のお尻側にある、林になっている所で行われるとのことで、緋夏はいつものメンバーでお昼ご飯を食べた後にのんびり歩いて向かっていた。
緋夏は授業続きで、さらに途中入院していたこともあり、この林の方へ来るのも初めてだった。亀の背だという割にやけに背の高い木が生えていて、林の手前には農作物も植っているのがわかる。コニアによれば魔法薬学で使う薬草もここで育てているらしい。
久しぶりに嗅ぐ土の匂いは臭い様な、それでいて懐かしくていい匂いに感じられた。
前を歩くコニアが神妙な顔で緋夏の方に振り向く。
「実は今日まで、エメルダ様に内緒にしていたことがありますノ…。」
——内緒なんて珍しい。いっつもあれやこれやと嬉しそうに報告してくるのに…。
「なに?改まって…。悪いことでもした?」
緋夏の問いかけに後ろからギカーナが許しを乞うような悲痛な声をあげる。
「ええ、大罪ですわ。あたくしたちのしたことは…。」
「大罪って…。ぷっ、おふざけがすぎますわ。」
二人の調子に対して、チャリルは鼻で笑ってさっさっと歩き去る。
「すごく楽しんでおられましたもんね。実はう…むぐっ!」
アンネリーサはその内緒の答えを知っているらしく、気軽に口にしようとする。
だが、コニアが俊敏な動きでアンネリーサの口を押さえてしまった。
「ダメですワ!アンネリーサ様!お見せして驚かせるんですノ!」
「何か、面白いものでも授業で見られるってこと?」
——そんな面白いものあったっけ?魔法生物学の授業って、特にゲームで出てこなかったのよね…。魔法生物自体は少し気になるけど。
———
授業があるという林の中には牧場があり、柵で囲われている。何やら生き物の耳らしいふわふわが柵の上にぴょこぴょこと覗き見える。
近くまで来るとその正体がわかった。
中には大きな白や茶色の毛をした大きな獣たちが——大きな兎たちがいた。
「きゃああ!!かわいイ!!あの茶色の子!前回わたくしあの子と授業だったんですけど、とってもお利口でしたノ!」
コニアは柵に小走りで近づいていく。ギカーナも一緒だ。
「エメルダ様、エメルダ様!かわいいでしょう!?黙っていてごめんなさい!」
ギカーナは切れ長の目をとろんとさせて謝るが、もう緋夏の方は見ていない。
他の生徒たちもすでに集まっていて三銃士たちのように柵の外から兎たちを見て嬉しそうにはしゃいでいる。
——ほわぁ、でっ…か!人とおんなじくらいあるんじゃないの?
——そんで、ふわっふわねえ。そりゃ女子は喜ぶわ。
そんな大きな兎の間から背の高い細めの男性がのそりと立ち上がる。男性もこれまた大きな人だった。
「やあやあ、来たね。これで揃ったかな、一年生諸君。今日が初めましての生徒は…。」
「——ああ、あなただね。エメルダ嬢。わたしはオックス・スタッグホーン。魔法生物学教授だ。よろしくね。」
スタッグホーン先生が緋夏を見つけて細長い腕を生徒たちの頭を越えて伸ばしてくる。
その容姿は遠目で見た時、枝の様と形容するのが相応しい感じだったが、近くで見ると印象が変わる。
——枝っていうか、幹みたいな腕って感じだわ。
その幹のように逞しい腕と緋夏が握手を交わすと、満足そうに戻っていく。
「さてさて、今日は引き続きオオウサギの観察をしてみようか。今日は前回教えたオオウサギたちが食べられるものの中から、それぞれの子が好きな食べ物を調べること。宿題は観察記録のまとめを3ページね。」
スタッグホーン先生が話し終えると生徒たちがはしゃぎながら、柵の中へと入っていく。
緋夏も続こうとすると、幹のような腕が緋夏の前に差し出された。
「——さて、エメルダ嬢は講義からだ。教科書の15ページを開いてくれるかい?」
「え、はい。わかりましたわ。」
アンネリーサと三銃士たちがふわふわの大きな兎を抱きしめているのを落ち着かない気持ちで眺めてから視線を戻す。
「オオウサギは魔力を持ったウサギだ。普通のウサギとの違いはその体の大きさだ。体高約2メートルある。」
「うちの学校のやつは1メートルと少しだけどね。危ないからって、学院長に止められたんだ。別に怒らせなければ普通のウサギと変わらないんだけどね。」
「では、まず確認しておこうか。魔法生物と普通の動物との違いはわかるかな?」
「いえ…ただ、そうですね。魔法を使うかどうかでしょうか。」
「うん、正解だ。では見分け方はわかるかな?」
「ま、魔法を使うかを見ていればわかるのでは?」
「それだと使わないとわからないだろう?結構簡単なんだよ。普通の動物にはない特異な身体的特徴を持つんだ。オオウサギは見ての通り、体がとても大きくなる。」
「ちょっと面白い話をしようか。聞いたことがあるかな?我々人も分類でいえば魔法生物だ。でも、魔力を持たない人が存在しないせいで、元々どんな姿なのか、我々の”特異な”身体的特徴がわからないんだ。」
「聖学者とかは、我々人は特別で魔力を元から持つ生物として神に作られたとか言ったりしてるけどね。」
「古代史を漁っていくと、魔力を持たない人の記録らしきものもちょびっと見つかるんだけどね。どこか神の国からこの地に追放されたとか、逆に神に救われてこの地に来たとかなんとか、おとぎ話みたいなのしかないんだよね〜。」
「——おっと、脱線しすぎたかな。」
「あ、あの巨人族や悪魔族という人たちもいますよね?彼らの姿は”特異な身体的特徴”には当たらないんですか?」
「彼らは種族からして別だというのが、学会の総意だね。同じヒト族の巨人種、魔人種、あと他にも小人種とかまあ色々いるけどね。」
「あ、魔人種は、世間でいうところの悪魔族ね。彼らが自称してるだけだから、正しくは魔人族だけど…。ま、最近は辞書でも悪魔族ってなってるけどさ。」
「——そろそろ話を戻そう。オオウサギは魔力を持つウサギだ。付き合い方はウサギと変わらない。ただあの体躯だ。潰されないように気をつけること。噛まれたら大変だし、怒らせて魔法を使われたら手に負えない。だから、怒らせないこと。」
「個体によるけど、尻尾やお腹を触ると嫌がるからね。ま、その辺は教科書を見てくれ。あと、背中なら喜ぶよ。——じゃ、実習といこうか。」
スタッグホーン先生は話し終えて軽い息を吐いて緋夏を柵に案内する。
柵の中ではアンネリーサと三銃士がひとつずつ野菜をあげていた。アンネリーサが最初に緋夏に気づいて立ち上がり手を振ってくれる。
少しオオウサギがぴくりと震えて、チャリルが何やら言ってアンネリーサが謝っているのが見えた。




