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【探偵#20】

「お前ら、その見た目は完全にもう人間辞めてんな」


刀を構える用心棒が圧をかける、後ろからでもそのオーラで潰されそうだ。



「ダーリン、混ざってるキメラが何か言ってるね」


椿の方には黒い蝙蝠のような羽が痛々しく生えている。



「ハニー、きもいなら実質痴漢してるってことだよね?」


豪太に至っては人間の形を成していない、異様に筋が発達した怪物。



「あんたたち探偵はもう負けたようなもんでしょ、死んでよ」


「ハニーの愛、強烈過ぎて気づかなかったもんね」


そう、金花探偵事務所はこの二人の凶行を止められなかった。


このテンションでもまさに一流の忍び、工作に潜入、暗殺技術は至高の領域。



だが、そんな嘲りはこの男に通じないようだ。


「たしかに俺達は依頼された。お前らの侵入を許し、イベントはめちゃくちゃ…探偵失格かもな」


でも、っと顔を上げた煉城の角から、途轍もない煉獄が噴出した。



「まだこの用心棒が倒れてねーぞ、バカにしたけりゃ俺を殺してみろ。金花探偵事務所の戦力とは、イコールで俺の事なんだよ」



辺りを焼き払うような強烈な殺意、なんという戦闘者…



(だんだん回復してきた…必ずこの傷の借りは返す)


私、リュシエラ・ノクスは物陰に身を潜め、このひどい火傷と裂傷の回復を待っている。


この重症、本来ならどんな生物も戦闘不能だが、我が妖精族には加護という不思議な力がある。


私がもつ加護はまさに炎。防御もそしてこの回復も加護の恩恵。


これが無ければ等の最初にあっさり死んでいる。



「ダーリンと過ごす時間、少なくなっちゃうね」


「お金もらえればいいだけさ」


この二人、ここにきて悪魔の力を解放、まさか悪魔付きという情報はどこにもなかった。



私の普段は機能停止している生存本能。そのアラームによる警告が体中で乱打する。



(なに…震えが止まらない)



情けない私とは対照的に、それに真正面から対峙しているこの男。まさにかつての最強戦闘者だ。



「悪魔付きや悪魔なんざ、組織時代死ぬほど殺してきてんだよ、さっさとかかってこいや」


彼らとの会話中、煉獄の頭は音を立てて回っていた。


(この物を依り代にした悪魔との契約、古い術でかつ低級の悪魔、理不尽な魔法じゃなくて身体強化の延長線上…)


流石は対異界戦闘者、異界の戦闘に関しての経験値は誰よりもある。


(地球の人間が契約しても体を長期間維持でき、身体機能を失ってない…代償は力を発揮するたびに寿命を支払ってるぽいな)


異界の悪魔とは、この世界のファンタジー同様、契約には代償が必要。多くは寿命だが、悪魔の力が強ければより多くの代償が必要。


(つまり、結論はぶった斬る)


煉獄が沈みこむように構える。



それと同時、椿が手にしたのはまるで毬栗のような球体。


「いっぱい穴だらけになれ」


もう点火している…これは改造された炸裂弾!!



次の瞬間、爆破と共に途轍もない針が戦場に放たれる。


(悪魔の力じゃない!?忍術か!!)



予想外に煉城の顔に影が差す。


「いっただろ?俺に飛び道具はきかねーんだよ!」


煉城の手からは煉獄を纏うスライムの壁、一瞬にして針を無効化する。


炎とスライムのダブルガードで針が止まる…が。



「ハニーを痴漢するな」


豪太がなんと爆風の勢いで加速しながら飛び出してきた。



(こいつの肉体…頑丈どころのレベルじゃない!)


あの爆風…体中に針が刺さっている。さらに!



「意味ないよ、こんな壁」


強化された肉体は、炎とスライムの壁を強引に弾き煉城を射程に捉えた!!


落石のような斧が天から落ちる。


「俺がパワーで負けるか!!!」


このパワーを止めるには全身の力を総動員させる…それこそが最大の隙。



「ダーリン、カッコいいね」


もう黒の閃光が煉城に向けて放たれていた、黒い羽の椿がもう横にいる。



「くそったれ!!!」


胸に三本の赤を染めながらも、煉獄刀を横に薙ぐ。



「意味ないよ、スライムちゃん」


椿が紙一重の見切り。近距離でさえも磨かれている。



「意味ない…だと?」


空を斬ったはずの煉獄刀が一瞬にして跳ね返る、刀に紅蓮を纏いながら。



瞬きのあいだに刃が走る!それは空気を爆ぜさせる、強烈な逆袈裟!


「俺相手になに言ってんだ」



「危ない!!」


「ダーリン!!」



二人は消えるようなバックステップで刃圏から逃れる。が…豪太の体がバッサリと切れていた。



「俺の斬撃に射程距離という概念はない」


なんというレベルの戦闘、一瞬も油断できない。



(腕がのびたように見えた、スライムの能力か?)


私がいる物陰からはそう見えた、大技ではなく小技も引き出しにあるのか。



「ダーリン!!痛そう!!大丈夫??」


「ハニー、こんなの痛くもないよ」



ここまでの連続攻撃、攻略方がまるで見えない。


悪魔の能力に忍びの搦め手…組み合わせればここまで強いのか。



_____________




(そう…こんなの痛くもかゆくもない…ハニーに比べれば)


目の前に立つ男、強い。”奥の手”を使っても押し切れない…


ハニーの顔には心配の表情がにじみ出ている。


「しっかりしてダーリン!!私達幸せになるんでしょ!」


そうだ、俺達は幸せにならなくちゃならない。




俺の産まれた一族は、古くから森田財閥に使える暗殺組織の末裔。


轟流の忍術で過去と異界が混ざる現代を暗躍している。


男は戦闘者、女はくノ一…要はスパイ。女性の方が様々な組織にヒットマンとして潜入しやすい。



けど、一族の潮目が変わったのは今から10年前。


異界の扉が開いてから50年がたち、存在そのものが街に溶け込み始めた頃だった。


強力な力を持つ異界人によって我々人間の社会は脅かされ始めた、無論人間に協力的な異界人も多く存在し、種族間の存続に影響するほどの脅威はまだなかった。



だが…それはあくまで一般人の話、生き馬の目を抜くこの富豪の世界。当然異界の力は影響し始める。


一族は当時とある課題を抱えていた、それは現状の暗殺技術では異界の存在に対抗できないことを。



異界から送られてきた戦闘者に多くの忍びがやられていく中、当時の長が決断した。



【異界に人間が対抗するには、悪魔の力を借りる。それしかない】



異界とは、かつて人間の科学が発展する前まではゲートが断続的に開き、交流が行われていた。世界各国の神話や妖怪、そして悪魔はこれに該当するのだろう。



森田財閥を守るためなら、この一族はどこまでも闇に沈む。


闇のルートで仕入れた異界のアイテム…それは悪魔の契約に使用する石。


それを使い、轟流はの分家の子を集め、なんと…強制的に悪魔に契約させたのだ。


どんな拒絶反応や代償が出るかはわからない…ならと分家の子を実験台にした。



悪魔に寿命を吸い取られる者、拒絶反応で死ぬ者、様々だった。


けど、そんなまさに地獄を生き延びたとある忍びがいた。



「椿の為…死なない」


「豪太の為に生きる」



何人の少年少女が倒れる中、紫の痛々しい紋様を胸に刻み付けた二つの影が立ち上がる。



それこそ、当時、組織にばれないように付き合っていた、俺と椿


その光景を見た大人達はその異様な存在に目を取られる。後ろに浮かぶは意識を持った異様な黒い影。


影が俺達の後ろで蠢く。



【”アイ”トハ、スバラシイ】



俺達二人と契約を結んだのは、身体変化の力を持つ下級クラスの悪魔。


【モット、スバラシク】


その時、俺と椿の脳が激しく揺れた、まるで脳みその内部に何か電波を直接浴びせられてたかのように。


悪魔の言う素晴らしいとは、人間が持つ通常の感性ではないのだ。



「ハニー…大好き」


「ダーリン以外いらないや」



轟一族はこの日を境に、強力な異界の能力を持った忍びが人間の財閥を守り始めた。



だけど、最初の手順も何もかもが手探りで生まれた俺達という失敗作は、一族に大きく影を残すことになる。



力に溺れ、無軌道に暴れる俺らに呆れた組織はきっと、言うしかなかったのだろう。



『一族の為に成果を残していけば、二人の結婚生活は保障しよう』



この一言が、俺達を戦場に縛り付ける、最悪の呪いとなる。




__________________




「殺す殺す絶対殺す、ダーリンを傷つける奴は絶対殺す」


「消す消す必ず消す、ハニーを泣かせる奴は必ず消す」



この二人は相変わらずの極端な他責思考、それは張り付いた愛と言う呪いのようだ。



「俺は瀬礼市の人を泣かせるお前らを倒す、それだけだ」



煉城の体に煉獄とスライムのオーラ、まだ底が見えない。



この裏道で起きた最悪の戦闘、この先、私の人生史上最も無残な結末を迎えるなんて、まだ知らなかった。



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