【探偵#16】
私の名前はリュシエラ・ノクス。
「貴様ら、明らかに一般人ではないな」
「ダーリン、こいつなんでメイド服なの?」
「主人に媚びないと生きていけな生物だからだよ」
会場でとんでもない暗殺者と出会ってしまった、王族エルフに使えるメイド兼護衛。
私達三人は森田から頂いた、瀬礼市の演劇イベントに参加することに。
しかし、当日の会場は予期せぬ異界生物の出現、魔力の込められた爆破。
会場は大パニックに陥っていた。
大勢の人間がパニックになりながら狭い室内を駆け巡れば、人々は散り散りになってしまう…
(私としたことが…優先順位を間違えるなんて…)
とっさに転んだ少女を助けたその一瞬、お嬢様と天瀬と離れてしまった…
だが、今はそれどころではない。
「どうしたの?怖い?」
「ハニー、脅しちゃだめだよ、優しく行こうね、殺すけど」
目の前にいるのは、途轍もない殺気を放つ、異形の忍。
事前情報から照らし合わせると、おそらく”椿と豪太”。瀬礼市で目撃情報があったというが…
(お嬢様の事は天瀬を信じる…今は!)
忌まわしい男を信じざる負えない状況だが、頭を切り替えるしかない。
「この騒ぎを起こしたのは貴様らか」
この仕掛け、間違いなく計画的なモノだ。
「そうそう、主からエルフの女を攫って、護衛の妖精と人間殺せって言われたぁ」
「ハニー、そういうのはあんまり言っちゃダメ…だけど殺すからいっか」
表情一つ変えずにさらりと…
本部からは情報は仕入れていた、ならば、私のやることは変わらない。
「貴様らのような下等生物がお嬢様に触れることなど、断じてない」
「うるさいね、もう飽きた」
「もう殺そう、ハニーの方が可愛いし」
次の瞬間だった、女は懐に手を入れる。
「死ね、白黒女!」
いつ取り出したか見えないほどの手つきで、女が苦無を投擲!
(速い!見えない!)
「流石は忍び、速い」
私はギリギリで体を捻る、避け切れずに羽が削れる。
「黒白だ…切れるのかな?」
斧を構えた男の方が凄まじい踏み込みで私の眼前に迫っていた。
気配が一ミリもない、苦無に意識がいった一瞬の隙、完璧な踏み込みだ。
「私は汚いものからは傷を受けない!」
最速で取り出したナイフで男の斧を防御しに行く。
「潰れたほうがいいかも」
「はぁああああああ!」
金属がはじける高い音が裏道に響く!
(重い…受けきれない!)
私はナイフを滑らせ勢いを逃がしに行く…が、黒い影が横眼に映る。
「ダーリンの斧は受けきれないよ」
長い手甲鉤が放つ三本の銀閃!
(なに!!!)
凄まじいコンビネーション、反応が遅れる。
「美しいコンビネーションですが、まだですね」
ナイフを滑らせ斧を避ける!そして全ての力を足に集め、飛び出す!
「ぐ!!」
走った銀閃とほぼ同じで腹に灼熱が走る。
(避け切れないか)
だが…こいつらの波状攻撃はこれでは終わらない。
「逃げたら時間かかるでしょ」
男の方が振りかぶり、まるで野球のピッチャーのようなフォームで暗器が飛ぶ!
しかも女の方も仕掛けている。
「ちょろちょろしないで」
三つの手裏剣が胸元から一気に飛び出す…二人とも動きに澱みが一切ない!
私はダブルナイフで4つの攻撃を弾く、それぞれ回避しずらい角度だが、この程度は読める!
「これが…日本の忍び!」
私はバックステップした勢いのまま、二人から距離を取る。
「ほんとにもう、部屋にとんでる虫みたいで腹立つ、殺そうよダーリン」
「うん、あの羽取ってサラマンダーにあげよう」
戦闘になってもテンションは一切変わってない、この戦闘スタイルと夫婦の暗殺者…
私は頭の片隅で整理できた情報をそのまま口にする。
「貴様ら、轟流派の忍び、椿と豪太だな?確か森田財閥に使える」
私の問いに、二人は張り付けたような笑みをキープしたまま、こちらを睨む。
「名前、知ってるなんてキモイね」
「うん、女のストーカーかな?ハニーがいるから僕は無理だよ」
そして、さらに私の頭は回転し、ここ数日の情報という点が全て、線で結ばれてしまう。
本部からの情報、瀬礼で目撃情報のあった、轟の忍び。
そして、森田からもらったチケット。
全て…繋がった。
「森田…私達を嵌めるために…だから轟を…」
考えればわかることだった、ただ…
もう、自身の警戒のし過ぎでお嬢様の青春を奪うのを躊躇ってしまった。
護衛失格だ、これこそ本末転倒じゃないか…。
そんなことを考えたのが良くなかったのだろう。
「あれ?急に隙ある?」
「ダーリン、殺そうよ」
もう二人は数えきれないほどの手裏剣を飛ばしていた!
(しまった!!)
反応に遅れながらもサイドステップを踏む。
「これくらい、全て叩き落す!」
私の刃が黒い飛来物を何個も叩き落す!もう軌道は見切っている…はずだった。
ナイフを抜けた手裏剣が私の体を削っていく!
(相手が反応しずらい角度をあえて狙っているのか!)
微細な殺気を感じたその時、手裏剣と一緒に豪太が私の視界に飛び込んでくる。
「はい、半分こ。ハニーと分けるね」
横薙ぎに走る斧、だけど、それは一度体感している。
「私に二度も同じは通じない」
閃光のような斧を体をかがめて回避。
その最中でも私の頭は回転している。
(女の方がくる!!迎撃して反撃)
この流派はどうやら相手の隙を生みだし、そこを狙うのがセオリーのようだ、もう読める。
だが…私の目に飛び込んだものは完全に想定外だった。
「ダーリン、キモイから離れよ」
「そうだね、一瞬でも離れたくないよ」
二人は音もなく消えるかのように後ろに飛んでいた。
(なんだ?何かまずい!)
阿吽もコンビネーションによる波状攻撃のはず…が二人は距離を取っていた。
「怖気突いたか」
私は最速で拳銃を放つ、だが、最初からそこにいなかったかのように二人は軽く避ける。
「速い」
「いっぱい練習したのかな」
二人はまだ距離を取る、なにか引っかかったような違和感が残り続ける。
(なら、こちらから行く)
普段の私なら、この程度の仕掛け、見抜いていたのだろう。
主人から離れた失態、そしてお嬢様を裏切った友人への怒りが判断を鈍らせた。
風に乗り鼻腔に運ばれた香り、それが脳内で警報がなる!
(火薬…暗器から!!)
その大半は私の体に刺さり、この戦闘で多く地面を転がる苦無と手裏剣。
私の顔色が変わったのを見抜いたのだろう。
「えい!」
女が小さな種火をこちらに投げつける。
「やってしまった!」
次の瞬間、赤い紅蓮が裏道に駆け巡る!
「がぁ!!!」
押しつぶされそうな衝撃と灼熱が私の体を飲み込んでいく。
(意識が…)
時間にしては一瞬、だが私にとっては数時間に感じるほど意識が飛んでいた。
黒煙が晴れたその正面。
「あれ?意外と頑丈な女の子?」
「ハニー、でもかなり焼けちゃったね」
二人は相変わらず、これが狂人か。
「意識、まだあるの凄いね」
男の方があざけるような口調で私を下に見る。
「がぁ…ふざけるな…」
ここまでの近距離での爆撃は初めてだ。
自慢の羽はボロボロ、メイド服ももう焦げすぎて原型がない。
体のいたるところから激痛と火傷が意識を奪っていく。
だけど…私は!!
「お嬢様のところに…戻る!!」
残りもないほどの体に残る力を集約し、片膝で二人を睨む。
「すごーい、妖精族って頑丈だね、見たの初めてだけど」
「フェアリーの加護ってよく聞くもんね」
言う通り、私は一定炎に体制がある、出なければ死んでいた。
「でも、もう死ぬしかないね、絶望ってやつかな」
「ハニー、そうだよね。さっきでもぎりなのに、どうするのかな?」
何も感情が籠ってない、殺人者の目。
けど、ここで倒れるなんて、私の一族の伝統と矜持が許さない。
「たとえ、私が死んでも、お嬢様には髪の毛一本触れさせない!!」
血が滴る体を鞭打って、強引にナイフを構える。
私が覚悟を決めたと同時、後ろから途轍もない覇気を感じる。
「あんたのこと詳しく知らないけど、気に入ったぜ」
瞬きした刹那、もう目の前に立っていた。
黒煙を切り裂くように、赤いジャケットから取り出した一振りの刀。
「お前ら、この瀬礼市に金花探偵がいる知っての犯行か?こんなに舐められたのは初めてだ」
赤い角が怒りのオーラと共に燃え盛る。
そう、現れたのは…
金花探偵事務所の用心棒、煉城練斗。
「ダーリン、なんだかとんでもないのが来ちゃったね」
「探偵もどうせころすからいいんじゃない?」
煉城練斗が現れても、この二人は相変わらず変わらない…
「さぁ、お前らこの罪は重いぞ」
煉城練斗の刀が紅蓮に染まる。
そしてここから、この裏道が凄まじい戦場に変わってしまう…




