第77話 細海先輩と御森くんとストレス解消法
肉の塊を煮込みたい日がある
パソコンの画面に映し出される大量の依頼を見ながら、ぼんやり昨日の仕事帰りに特価になっていた肉塊に思いを馳せる。
まだ先なんて思っていても少しずつ年末の雰囲気がそこら辺から滲み出るこの時期
ジワジワと電話やメールの依頼が増えていき、祝日で回復した体力ゲージを根こそぎ削られていく。
「御森くん、業務外のことなんですけど」
気がつくと隣の後輩に声をかけていた。
疲れてる時、考えを整理するため御森くんと会話するのはとても効率が良い
「なんですか!」
「ストレス緩和に豚を煮込むならコーラと紅茶どっちが良いですかね?」
「先輩、最近説明会行ってないですよね?」
〝ぶた…?〟と御森くんが呟く
そう豚だ、牛でも鶏でもない
私は昨日、それはそれは素晴らしい上がる豚バラと肩ロースの塊を手に入れたのだ
「豚です、豚肉、塊を煮込みたいんです」
「……角煮を作りたい、ってことっすか?」
なんとか考えを読み取ろうと推理顔でコチラを観察する御森くんの顔が随分と険しい…角煮、角煮かぁ
「角煮、良いですね」
最近はタンパク質を意識して摂ってるおかげかちゃんと胃が動く感覚もある
豪華な一品として紅茶豚も捨てがたいしジャンキーにコーラ煮にして1人ラーメン鍋用にしようかと思っていたが、角煮は原点にして頂点ですよね…
「角煮にします、御森くんありがとう」
そう言って画面に目線を戻した私に「……ちょ……っと素朴な疑問良いっすか」と声がかかる
「はい、なんですか」
「えっと、俺料理しないで分からないんですけど、紅茶で煮込む豚とコーラで煮込む豚があって、それは角煮ではないんですか?」
成る程、一般的に角煮という料理は存在が偉大ですもんね…
「個人の意見ですが、コーラ煮はコーラに入ってるスパイスを利用して作る中華風の角煮、いわゆるトンポーローに味が近いと思います」
「トンポーローはなんか聞いたことあるからイメージできました」
「紅茶豚は紅茶の香りをつけて油をサッパリ食べさせてくれるので角煮ではなく煮豚というジャンルみたいです、オシャレチャーシューだと思ってください」
「オシャレチャーシュー…」
料理はしない人でも、美味しいものに興味があるのは皆んな同じだろう
それでも店頭であまり見ないメジャーだとは言えない料理を食べれるのは自炊するメリットだなぁ、と御森くんと話していると分かる
「もし、作りたいならレシピ共有しましょうか?」
一人暮らしをはじめて簡単な料理はしていると前に聞いたことがある、とはいえ私みたいにストレスで肉を煮込む人間でなければ下拵えが面倒なのであまりおすすめはできない
少し悩んだ末、「いや、うちしっかりした鍋まだ無いんで今回は大丈夫です」と断られた。
「私もそれが良いと思います、今後、御森くんが料理にハマって圧力鍋や肉叩きを買い揃えはじめた時に声かけてください。多趣味な君が突然蕎麦打ちに目覚めても私は驚きませんよ」
「わぁ…有り得そうっすね…その時はおすすめレシピ聞きにきます」




