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細海先輩と御森くん  作者: 紙屋川トカゲ
3章 1人前未満
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81/82

第73話 細海先輩と御森くんと下半期

私事だが、私は目標の設定が苦手です。


いや、きっと私だけじゃないだろう。


社会人になって、まさか年に二回も〝期〟の目標を提出する義務が発生するとは、夢にも思っていなかった。


画面に表示された目標管理シートを、ぼんやりと見つめる。


(前期の目標で〝属人化の脱却〟を書いて、今回の達成度を七〇%にしたから、ここからさらにブラッシュアップして……)


これに関しては、御森くんの教育を任されたのはラッキーだったと思う。


正直、上昇志向が皆無の私にとって、目標を成長させていくのはとても大変なタスクなのだ。


〝新人の教育〟という新しいミッションをいただけたことで、目標を一つ、ゼロから追加できた。おかげで、去年よりは負担が減ったと思っている。


(とはいえ、御森くんも基礎業務はすでに単独でできるようになってきているし、ここからあまり新人教育の件を書くのも、来年の自分の首を絞めそうな気がするな)


基本、真面目な私だが。


真面目と怠惰は、そこそこ一人の人間に共存できる。


期待されて責任のある仕事を任されるよりは、今のお給料、今の業務内容で安定して毎日を過ごせる方が理想的だ。


ビバ、最低限文化的で健康的な生活、です。


(はぁ……提出期限までに目標設定と文章化を頑張らないと……)


そんなことを考えながら、ふと隣を見ると、キラキラと目を輝かせながらキーボードを叩く姿が目に入った。


「御森くん、目標管理シートの記入が捗っているようですね」


「はい! だって、自分でクエストを設定して、クリアできるように頑張るのって楽しくないですか?」


ぐぅぅぅ……眩しい……。


なんなんですか、本当にこの子。


こんな社会に都合の良い人間がいて良いんですか、まったく。


先ほどまでの自分の考えに後ろめたさを感じるほどの光を浴びつつ、なんとなく彼のパソコンを覗き込み、ギョッとした。


(……志が、高すぎる)


良いことだ。確かに、とても良いことです。


ですが、会社及び業務を通じた社会貢献の内容が、新人の目標にして良いものではない。


(ホップとステップを飛ばして、ジャンプしてるみたいな内容だ)


最終的に何年かかけてそこに辿り着くのは、御森くんのポテンシャルなら可能だろう。


でも、この目標管理シートは〝最終目標〟を書くものではない。


とはいえ。


『目標が高すぎると追々大変なので、無難に達成できて来年以降も汎用できそうな内容が良いですよ』


というライフハックは、正しい指導なのだろうか。


公には言えないけれど、暗黙の了解として、目の前の小さなハードルを書いて飛び越えられるような目標にしておいた方が、将来的には楽だよ! という話を、どう伝えればいいのだろう。


それに、会社が御森くんに求めるものは、彼が書いたような目標なのではないだろうか。


いや、でも、達成できなければ来期の達成度が低くなって、査定に影響が……。


うーーーーん……。


そこで私は、小さな紙切れに目標管理シートの注意点を書き、折り曲げた。


表面には〝声を上げず、黙って読んで破棄してください〟とだけ書き


それを、サッと御森くんに渡す。


なんとも小賢しい真似をしたわけですが。


神妙な面持ちで紙切れを読んだ御森くんは、少し考えたあと、画面と睨めっこをし始めたのを見て胸を撫で下ろした。


さて

私はそっと、自分の目標管理シートに向き直った。


私は私で来年の自分が困らないように。

上長に気付かれないレベルに志低めの目標を考えねば

……まずは、この書類を期限までに提出しよう。

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