第71話 細海先輩と御森くんと傾向と対策
その日、私はOJTシートと
御森くんを任された際にまとめたマニュアルと睨めっこしていた。
「細海先輩おはようございます、どうしたんですか雰囲気が重いですけど」
朝一番、表情が強張っていることに気付き慌てて「おはようございます」と返事をする。
「先日の地震の件、反省点も含めてマニュアルを見直そうと思いまして」
元々これは、社内用のマニュアルに自分が新人の時のメモを合わせ
御森くん用に作ったマニュアルだ
「えー、もう俺キーパッドのリセット方法覚えたんでわざわざよくないですか?」
確かに、1回インパクトのある経験をしたのだから御森くんはもう忘れることはないだろう
だけど―
「このマニュアルは、御森くんが誰かを育てる時に必要になると思うんです。」
マニュアルとは“基本操作”が書かれただけのものが多い
料理の「レシピ」や家具の「組み立て方法」のようなものだ
でも私はバイトや職場が変わるたびに思ったのだ
なんで先輩は“ここでつまずいた”とか“忘れがち注意”という情報をくれなかったんだろうと
躓いたなら“そこは石がある”と書いておくべきだ
「なるべく、私がやらかしてしまった情報は残しておきたいんです。もちろん、御森くんがこれを使う使わないは自由ですよ。」
その時には、全然違う部署や業務を任されてるかもしれない、とまでは言わないが
それでも別にこの時間や手入れが無駄になっても構わない
「入社して半年ですでに後輩を教育をする日まで見据えられてたんすか俺」
まだもうちょっと、この部署の末っ子ポジでいたいっす…
と、肩を落とす御森くんに
「まぁまぁ、心配しなくてもずっと先のことですよ。転ばぬ先の杖ってことで」
と、なだめる
そぅ、弊社は類まれにみるホワイトな会社だ
不満が原因で転職してまって人員が枯渇する…
なんてことはまずない
それでも時間が止まっている訳でもない
「まぁ、あと、先日のあれが本当に火事を引き起こす地震だったら御森くんに取返しが付かないことをしたという自分への戒めです。」
最悪、彼は閉じ込められたまま逃げることができなかったのだから
そう言うと、御森くんは少し考え
「ほ…ほんとだ、一歩違えば俺大惨事じゃん」と今更真顔で冷や汗を流す。
「そんな訳で、私もこのマニュアルも御森くんと一緒にアップデートさせていくのが今後の課題です」
「ひぇ…改めて、よろしくお願いいたします!」
自分だけが気を付ければ良い時期が過ぎたことを感じる
初秋の出来事でした。




