第70.5話 細海先輩はその時
「せんぱーい、備品室の整理と在庫確認してこようと思うんですけど、良いですか?」
その日の業務は珍しく落ち着いていた。
外部からの問い合わせもなく、部署全体がどことなく手持ち無沙汰な空気に包まれている。
〝さて、どうしたものか〟
そんなことを考えていた矢先だった。
御森くんから備品整理の申し出があり、
「では、単独作業の練習に備品室の整理でもお願いしましょうか」
という話になったのが数分前のことだ。
グラッ
小さな揺れを感じた次の瞬間、パソコンのモニターが一瞬だけ暗転し、すぐに元へ戻った。
「あー、今の地震だったんだね〜、若間さんが来社される日に珍しい…」
「本当ですね、とはいえ大きくなくて良かったです」
後ろの席の物部と顔を見合わせ、安全確認を行う。
「今くらいなら備品室の心配はいらないかな」
「おそらく。最初の頃に安全装置の説明はしていますし、御森くんなら大丈夫でしょう」
「確かに!御森くん強いし、しっかりしてるもんね!」
軽い雑談のあと、それぞれの業務へ戻った。
……数秒後。
「(以前、安全装置の説明はした。うん、した)」
私はふと手を止めた。
「(地震を感知した際の動作も説明したはず……)」
そこまでは思い出せる。
だが。
「(認証ドアがエラーになった時の復旧方法は……?)」
記憶を辿る。
説明した
気がする…
いや、していないかもしれない。
「(……待ってください)」
嫌な予感が背筋を這い上がる。
業務中の対応方法や備品室の利用ルールは説明した。
しかし、キーパッドがエラーを起こした場合の対処法は?
「(私、教えていないのでは……?)」
御森くんのことだから、備品室のドアを開けたまま作業している可能性もある。
その場合は何の問題もない。
そう。
問題はないのだ。
「細海ちゃん?」
「少し備品室の様子を見てきます」
物部にそう返しながら席を立つ。
大丈夫。
きっと大丈夫。
そう思う反面、
御森くんが備品室のドアをきっちり閉めて作業してたら…
「(閉じ込められてしまう!!)」
そう思い、一歩扉へ方向を転換した時だ。
「皆さんお疲れ様です。先ほどの地震で閉じ込められてたので保護してきました」
若間さんだ。
そしてその後ろには、
しょんぼりーぬ後輩がいる。
「若間さん、お疲れ様です。御森くん申し訳ない大丈夫でしたか!?」
「いやぁ〜閉じ込められてました〜」
その姿は迷子センターに連れてこられた子供の様に見えたのでした。




