第66話 細海先輩と御森くんと新視点
御森くんほどではないけど
私とて、そこそこ重いものでも運ぶことが可能である。
持ち上がらないレベルの重さは論外だけど
持ち上がってしまえば、あとは足を交互に出せば移動ができるという暴論の上に成り立っている。
そんな風に普段から“できるかできないかで言えばできる”ことは行動する私の目の前で
今まさに納品され、どっさりと積まれている備品の数々がある。
「すみません、うちの部署の荷物なのでついで持っていきます」
受付の人に台車をお借りし、何回かに分けて台車に乗せた。
「(一気に発注した筆記用具類はさすがに重いな)」
ぐっと力を入れて押せば
荷物の重みで一瞬の抵抗を見せたのち、わずかに車輪が動いたことで前に進み始めた。
「(なんだっけ、こういう仕組み、慣性の法則だったかな…)」
物理ってとても便利だ、知識があれば私みたいな脆弱な人間でも大きな質量を動かすことができる
ひとまず、まだ就業前だったので居室まで移動させることにした。
ゴロゴロと音をさせながら動く車輪の感触が気持ち良い
「おはようございます。」
「細海さん、おはようございます。ありゃ備品持ってきてくれたの?重かったでしょ?」
先に出社していた部長が申し訳なさそうに言ったが
ついでに持って行けば効率が良いと私が勝手にやったことなので逆に申し訳ない
「就業前だったので一瞬迷ったんですが、持ってきちゃおうと思いまして…」
「うんうん、ありがとう。あとは業務開始までここに置いといて都合の良い時に備品室にもっていってくれればOKです。」
部長の指示通り、台車を隅に置いて朝のルーティンをこなしていれば
あっという間に業務開始時刻になった。
「さて御森くん、私はちょっと朝移動させた台車を備品室に持っていくので、何かあれば他の先輩に声をかけてください」
さっさと続きをしてしまおうと指示を出した時だ
「え!?細海ちゃんまさか一人であれを持っていくおつもりか??」
と後ろの席の物部がグリンとこちらに顔を向ける
「はい、持っていくおつもりです。」
「はい、だめでーす。どう見てもめっちゃ重い台車なので御森くんを連れて行ってくださーい!」
そう言いながら御森くんにチラッと目線をやれば
「了解でーす。俺お供しまーす!」
と謎の連携を見せた。
「いや、私一人で…」
「はいじゃあ一緒にいきましょー!!二人の方が早く終わりますよ!」
同意する間もなく気が付けばバタバタと御森くんと廊下に放り出され解せぬというやつです!
「これくらい私一人でも運べるんですけど」
ゴロゴロと台車を押す私の横を「まぁまぁ」と並んで歩く
「物部先輩も細海先輩が少しでも楽できれば良いな~って思っての提案ですよ!愛ですよ、愛!」
「愛なんでしょうけど~…」
こうやって気を使ってくれているのは理解している
でも、思うのだ
私がもっと強くて頼りになるポテンシャルなら御森くんは別の業務ができたのに、と
定期的に触れる人の優しさに罪悪感が湧く私に、優しくしてもらう資格があるのだろうか
「(いや、そもそも良かれと思ってやったことが迷惑になっていたら…)」
少しばかりネガティブになりかけていた時だ
「あだっ!!」
突然、台車が何かにつまずいた感覚と同時に体勢が前のめりになる
「(しまっ)」
明らかに自分よりウエイトのある荷物の重心が前方にズレ、体が宙に浮く感覚がした瞬間だ
「あっっっっぶなぁ…セーーーフ!!」
台車の持ち手を掴み、御森くんがそのまま前に倒れるのを阻止してくれたおかげで荷物が2箱ほど転げ落ちただけで事なきを得る
「あー、誰かがハンカチを落としちゃったんですね」
そう言って、車輪に食い込んだハンカチを外し見せてくれた。
「帰りに管理部に落とし物申請しに行かなきゃですね~、細海先輩?」
少し、呆然としている私を心配して顔をのぞき込んできた御森くんの目をしっかり見据え口を開く
「今、適材適所の大切さを御森くんから学びました。ありがとう」
「唐突に!?」
真顔の私に御森くんは少し、いや、多分かなり引いていた。
居室に戻ったら物部にもちゃんとありがとうを言おう




