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細海先輩と御森くん  作者: 紙屋川トカゲ
2章 本格始動
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第64話 細海先輩と御森くんと有給について

その日は比較的、業務が落ち着いていたこともあって

居室のいたるところで雑談が聞こえてくる、穏やかな空気が流れていた。


「で、1個で終わろうと思ってたのに気が付いたら一袋食べてて」

「それは映画が面白すぎたのかお菓子がおいしすぎたのかどっちですか」

「どっちもっすね!」


私と御森くんも例にもれず、当たり障りない会話をしていた。


「おや」


すっとパソコンの端にメッセージ通知が見えたので開くと

部長からの今後のワークバランスについての連絡だった。


『お疲れ様です。来月から御森くんも有休が使えるようになるので都合の良い時に説明してあげてください』


そうか、もうすぐ御森くんが入社して半年になるのか

なんとなく生暖かい気持ちになりつつ「業務の話に戻ります」と日常会話を切り上げる。


「御森くんの方にも連絡が行っているかもしれませんが、部長から有休について連絡がきたので説明します」


そう言うと「有休!」と目を輝かせ背筋を伸ばして私の方に向き直った。


「10月1日から10日間付与されます、原則“業務状況を見て”になりますが取得は自由です」

「はい!」

「法律上、有給取得義務で年間5日は消費しなくてはいけませんが、うちは有給取得100パーセントを目指しているので取れるだけ取っちゃってください」


私もそうだったが、休むのが苦手な人種はこのルールに適応するのに

少なからず罪悪感が湧くが、御森くんは心配する必要はないようだった。


「わー!10日も使えると思うと慎重に考えなきゃですね!」


そう言って嬉しそうにカレンダーを確認する。


「そこで、ですね?」


そんな中、水を差すのは申し訳ないが

現実的なスケジュール調整のため説明を続ける。


「御森くん、繁忙期はいつと説明したか覚えてますか?」

「はい、1月中旬から3月末と9月頭から10月にかけてです!」

「花丸です」


そう、どの会社にも繁忙期が存在する。


「先ほど“業務の状況を見て”と言ったのはココにかかります」


冠婚葬祭・急な体調不良・ご家族の予定etc…

社会人にはありとあらゆる理由で仕事を休まなくてはいけない瞬間が来る。


「はい、えっと、繁忙期は取りづらいから気を付けてね。ってことですか?」

「半分正解です。今のニュアンスだと繁忙期は取りづらい、だけの認識ですよね?」

「違うんですか?」


きょとん、と頭にはてなを浮かべる御森くんに


「1番まずいのは、その繁忙期までに取得義務の5日間が残っていた時です。業務は大量にあるのに無理やりにでも休まなくてはいけなくなるからです」


「あっ!」


確かに!!というリアクションに安心しつつ


「私は入社1年目の時に有休を取るのが苦手過ぎて盛大にやらかしました。御森くんは、絶対に、確実に、来年の10月1日までに5日は取得をしてもらいたいと思います」


決して同じ轍は踏まないよう強めに伝える。


「えっと、ちなみに細海先輩はその時どうなったんですか?」


その問いに


「ただただ、先輩たちが忙しい中、特に予定もないのに会社に来られない新人としていたたまれなさを感じる羽目になります」


死んだ魚のような目の私に


「…有給の取得って、大事な仕事なんですね」


と、理解を示してくれ

私の屍を正確に超えてくれたことに

自分の過去の失敗が成仏する感覚を味わうことができた日だった。

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