第63話 細海先輩と御森くんと悪夢の話その3
「お疲れ様です」
そそくさとパソコンの電源を落として荷物をまとめる細海先輩の横で
自分も忘れ物が無いか確認をして立ち上がる
「細海せんぱーい、エントランスまで一緒に行きましょー」
早歩きの先輩に追い付き横に並び
「なんか今月入って突然業務増えて脳がパンクしてます」
と話を振ってみる
「9月は半期の終わりなんですよ、ここから年末に向けて仕事も増えるので覚悟しててください」
「頭が今年も半分終わったって思ってるから、ここから次の半期が始まって違和感が凄い」
そんな話をしながら細海先輩を観察した
うん、やっぱりいつもより表情が明るい気がする
なんか良いことがあったならそんな話がしたいなぁ〜と思い
「ところで細海先輩、なんか良いことありました?」
と聞いてみる
「あー…分かりますか?」
少し困ったように眉毛を下げて
なんとなく申し訳なさそうな表情に
「何があったんですか!?遠慮しないで聞かせてくださいよー!!」と煽ってみた
そう言うと、もにょもにょと口元を緩ませながら頬をかき
「実は、とても良い夢を見たんです」
と、それはそれは嬉しそうな顔をした。
「あの悪夢しか見ないって言ってた細海先輩が!!?めっちゃ良いことじゃないっすか!どんな夢だったんです?」
傍から見たから良い夢を見たくらいどうでもいいことだろうが
悪夢がデフォルトな細海先輩が良い夢を見たんだから俺は一緒にめっちゃ喜んじゃうよ!!
「とても大切な人が、大好きな人と結婚すると報告してくれる夢でした」
穏やかに笑いながら
いつもは淡々としてる細海先輩の表情が柔らかい
「その夢に出てきた人のこと、めっちゃ大切なんですね」
あまりにも細海先輩が嬉しそうに笑うので
思わず俺も笑顔になる
うん、やっぱ嬉しい事って共有すると感情が移るよね!
聞いて良かった!
「はい、自分が良い思いをする夢も楽しいですけど、大事な人が嬉しそうな夢って起きた時の幸福感が違ってて一日中思い出し笑いしてたみたいです」
「あー、分かります!幸せな時って気がついたら勝手に口が笑っちゃいますよね!」
幸せの裾分けをもらって自然とニコニコしていると
「まぁ、なので今回の帳尻合わせの夢はハードな内容でしたぁ〜」
と言うセリフが聞こえてきて「ん?」となる
「帳尻合わせの夢…?」
「はい、持論ですが、良い事があると帳尻をあわせるために悪いことがセットになってまして」
「そんな帳尻あわせなくて良くないですか!!????」
なんでだ、良い事があったなら良い事があっただけで良くない!?
「そうですね、良い事は良い事、悪い事は悪い事、という法則の人も居ると思いますが」
「生きてく上で変な法則の存在を示唆しないでください」
「私の場合はプラスマイナス0の法則で生きてます、プラスになることもマイナスになることも無く、0に戻ってくるのがメリットです」
えー…嘘でしょ
純度100%で幸せ享受しましょうよ細海先輩…
「いやぁ、嫌なことがあった時に必ず良い事があって帳消しになると考えないとやってられない時があるんですよ大人には」
その説明を聞き
細海先輩の独自の理論に無理やり納得しつつ
「因みに、どんな帳尻合わせな夢だったんですか?」
と、たずねると
「披露宴の日に目の病気にかかり治療のため火で炙ったスプーンで眼球を擦られる夢です」
と返ってきた。
「明らかに悪夢の割合の方がデカいじゃないですか!!!」
そんな俺に
「いやいや、良い夢が見れるのがレアなので妥当ですよ」
と言う細海先輩の幸福論を心から心配しながら家路についた。




