第62話 細海先輩と御森くんとチャレンジ精神
時刻は11時半
残り30分でランチタイムだ
目の前の作業にひと段落つけ、午後からの業務を確認していた時である
「御森くん、これいりませんか?」
スッと隣から賄賂を渡すように
チョコレートデニッシュが差し出された。
「わー!ありがとうございます!いただきます!ところで…」
「はい」
「お腹の調子悪いんですか?」
俺の問いかけに「はい…」と元気なさげに胃薬を取り出し
渋い顔で細海先輩は錠剤を白湯で流し込んだ
「いつもの漠然とした不調ですか?」
原因が分かれば安心だけど
体力がない人は、気がつくとどこかしら体調が悪いことがある。というのは、細海先輩について初めて知ったことだ
「(俺の周りみんな体力あって健康な奴ばっかりだからなぁ)」
俺では認識できない体調不良が存在する
心配しながら細海先輩の回答を待った
「実は昨日、冷蔵庫の奥から使い切ったと思ってたキノコが出てきまして」
「……はい?」
「茹でて食べてみたんですけど、そこからちょっとお腹の調子が」
「なんで食べたんですか!!!?」
自業自得のやつかい!!!!
「それ食べて大丈夫なやつだったんですか!?」
「数日前までスーパーに並んでた普通のキノコなので大丈夫ですよ」
「キノコの種類の心配はしてないっす!!」
とはいえ食中毒を起こしていたら
こんな平然とすることは出来ないだろう
本当にちょっと胃の調子が悪いだけで済んでいるようだ
「古い食材はもったいなくても捨てなきゃダメですよ細海先輩」
新入社員が会社の先輩に言うセリフじゃなさすぎる
だが、細海先輩にはちゃんと釘を刺しておかないと「とりあえずやってみようと思った」くらいのノリで変な物を食べかねない
「古い食材の選別も難しいんですよ、今回は色:アウト、匂い:クリア、味:クリア、総合判定〝食べれる〟だったのでいけると思ったんです」
「色がアウトの時点で捨ててください!!」
「匂いがクリアでも?」
「捨ててください」
「味がクリアでも?」
「味見する前に捨ててください!!」
「私が買ってすぐ冷凍を怠ったばかりにっ…」
反省するポイントがズレているけど
ここまでちゃんと言えば細海先輩も今後は気をつけるだろう
「細海先輩は自炊ちゃんとしすぎなんですよ、冷凍食品とか使えば良いじゃないですか」
偶に残業を挟みながら8時間労働をこなし
家に帰って料理するのは凄いけど
手抜きを覚えるのは悪いことじゃないと思う
俺の何気ない一言にどこか複雑な表情で
「御森くんの言う事は正しいんですけどねぇ、一度身につけてた事にサボりグセがついてしまうのが癪なんですよね」
〝癪〟なんて言葉が細海先輩から出たことに驚く
なんとなく、この時の細海先輩の顔が
見えない何かに抗ってるように見えて
「そんなもんなんですかね」
と、曖昧な相槌で会話を終わらせた。




