第60話 細海先輩と御森くんの夏休み
社会人の夏休みって儚い
夏季休暇も明日で最後になってしまった。
仕事は嫌いじゃないけど、やっぱり自由に使える時間が連日あると
出社するってちょっとだけ億劫に感じる。
「明日は何しようかなぁ」
寝返りをうちながら今日までのことを振り返る
初日から地元の友人が遊びに来てくれて観光案内から始まり
後半は会社の先輩方とゲームをして過ごした。
学生の時は使えるお金も少なかったし課題もあったけど
社会人1年目の夏休みはそういうの気にせず、やりたいことが沢山出来て本当に楽しかった。
「……そう言えば」
ふと夏季休暇が始まる以前の記憶が頭をよぎる
いろんなことがいっぱいいっぱいで抜けていたが
パーソナルスペースが広い、とことあるごとに言っていた細海先輩に
随分と出張の間ストレスをかけていたのではないか?
「え、やば、俺は安心できたけど、細海先輩ずっと我慢してたらどうしよう」
1度浮かんだ不安から芋づる式に“頭抱え案件”が思い出される
そもそも最初の頃に「人の体温とか、脈とか、近さとかちょっと得意じゃない」と言っていた先輩を
思い切り担ぎ上げてしまったぞ??
瞬間、ガバッと起き上がるとスマホを手に取った
夏季休暇中は惰眠とタルタル祭りって言ってたし、もう寝てるかもしれない
というか、ちゃんとタルタル祭りは楽しめただろうか
俺がストレスかけたせいで胃の調子が悪くてあまり食べられなかった、とかだと申し訳なさすぎる!!
悩んだ挙句
朝起きた時に見てくれれば良いやとLINEを開いた
>お疲れ様です。夜分恐れ入ります。
>出張の時、同じ部屋に泊まってもらったり、先輩のこと担いじゃったの思い出して
>ストレスでタルタル祭り楽しめてなかったらどうしようと心配で…
ぽこん、と平謝りする犬のスタンプを一回はさみ
>先輩、前に人の体温とか苦手って言ってたの思い出して謝罪LINEでした!!!おやすみなさい!!
と、画面を閉じて布団にもぐる
「(人の懐に入るのは早い方が良いけど、距離感は大事!!明後日から気を引き締めよう)」
人との距離が近いのは良いことの方が多いけど
だからってみんながみんな同じ感覚じゃない、と反省して目を閉じた時だ
ぽこん、ぽこぽこぽこぽこん
と連続してメッセージが入った音に恐る恐るLINEを開く
「うわーーー!!飯テロ!!!」
そこには綺麗に盛り付けられた料理にたっぷりとタルタルソースがかかった画像と
“ごちそうさまでした”のスタンプがあった。
「ぐぅ、食べ垢見てなかった…めっちゃ楽しんでるじゃん細海先輩」
空腹ではないのに食欲を刺激された
この時間にこの所業は大罪だと思う
これ以上は目に毒だと直視を避けていた時だ
ぽこん、と受信音がした
>無遠慮に触られるのは嫌ですけど、怯えた後輩の手を叩き落とすようなことしませんよ
そのメッセージにフッと体の力が抜けていく
「なんか、その感覚は確かに分かるかも」
なんやかんやお人よしの細海先輩にストレスをかけてなくて良かった
今度こそ寝るために、おやすみなさいスタンプを押して目をつむった




