第57話 細海先輩と御森くんと心霊ホテル
有馬さんが気まずそうに呟いた“味塩コショウとかでも対応できる”とは?
なんとなく雰囲気から目星をつけて検索すると
そこそこ心霊現象が起きているらしい記事が見つかった。
「(さて、どうしたものかな)」
正直、私もお化けの類は苦手だし
ホラーには極力触れないように生きている人間ではある
とはいえ、今日はもう体力も限界で
心霊さん達には申し訳無いが怖がる前に寝てしまうことは確実
そうなると唯一の気がかりは御森くんだ
有馬さんからのヒントをもとに卓上塩を買っておいて良かった。
「では、御森くん、また明日生きて会いましょう」
そう言って、卓上塩を彼に渡すと割り振られた部屋へ向かう。
「まっっっっってくださいほそみせんぱーーーーい!!!!」
素早く私の前に立ちはだかる御森くんを“なんだ、どうした”という目で見上げた。
「一緒の部屋で泊まってくださいよ!!」
「泊まりません」
「俺、床で寝ますから!!!」
「ちゃんとベッドの上で布団被って寝てください」
「細海先輩は!!俺に内緒で写真撮ったり!動画回したり!服めくったりしないって信じてますから!!後生です!!」
「なんで私がそっち側の想定なんですか、失礼だな君は…!」
御森くんの心の闇を見てしまった気がするがスルーしよう
とにかく私は一刻も早く寝たい
「……はぁ、ワカリマシタ、ヒトマズ、ハヤク、ネカセテクダサイ」
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!!この恩は一生忘れません!!!」
了解したものの、じゃんけんでどちらが先に風呂場を使うか決めた後
シャンプーの最中に後ろが気になって怖いと、この大型犬は言い出した。
「俺が髪の毛洗っている間しりとりで場を繋いでください、後生です!!」
「この短時間で後生2回目ですね」
現在、疲労と心地よい満腹感で眠気が限界である
自分も早く今日の疲れやら汗やら汚れを落としたい一心でしりとりに応じることにした。
「細海先輩!!ちゃんといますか!!しりとりの“りー”」
「いますよ…リチウムイオン電池」
「リンゴじゃないんですか!?ち、ちチョコレート!!」
「トリコモナス原虫」
「なんですかそれ!!気持ち悪い!!う、ういろう!!」
朦朧とする頭でしりとりをしていると、ふと視界に気になるものが引っかかる。
「うだつ…」
意識をそちらに向け目を凝らす。
“ひゅっ”
喉から変な声が出た。
「(ぼろぼろの、人形?)」
「つ、つ、つくねー!!」
「ネットワーク」
しりとりを続けながら、あまりの気味悪さにフロントへ電話しようと悩んだが
ふと以前、居室に虫が出た日のことを思い出した。
御森くんの腕力でパニックを起こされでもしたら
「(御森くんはまだ、エレベーターが変な動きをしたことしか見てない、ここで完全に心霊現象とこのホテルが結びついて咄嗟に縋りつかれたら恐らく私の体はグチャと…)」
「く、く、くるまふー!!」
「フィクサー」
瞬間、フラッと立ち上がる
いつの間にか地面に転がっていた人形は
不思議とずっと目が合っているような感覚があるがそれどころではない
速やかに卓上塩の蓋を開けサラサラと人形にかける
「初めまして〇〇株式会社から参りました細海と申します。本日は訳あって1人部屋に2人で泊まりますがご了承ください、なにぶん弊社の御森が異常なほど怖がりなもので、私としましても自身の骨肉を死守するべく穏便に一晩過ごすためにこのようなぶしつけを失礼いたします。」
ご挨拶を終え、塩飴の袋にその人形を入れるとそのままチェストの下にシュッと投げ入れた。
「さ、サクマドロップー!細海先輩!お風呂いただきました!」
結局、その晩はそれ以上のことは起こらず
約束通り御森くんは震えながら備え付けのソファーで、私はベッドでぐっすりと寝ることができた。
翌朝…
「さ、さ、細海先輩、荷物まとめて早くチェックアウトしましょう」
よほど、彼のセンサーにこのホテルは引っかかるのか
太陽が昇ったと同時に叩き起こされた私は
帰る準備を急かされローテンションである。
「なんでこんなげんきなんですか…」
「元気じゃないですよ!!昨日怖くて一睡もしてませんよ!!」
うそだ、しっかり寝息が聞こえてましたよ
「あーもう、早く人が沢山いるところに行ってモーニング食べて帰りましょう」
しれっとモーニングを食べる予定が入ったな、とエレベーターの表示を見ていた時だ
「「あ…」」
昨日と同様に、6階まで上がった表示が5階に降り、た…
チラッと御森くんを見ると顔が恐ろしく強張っている
「御森くん、あの…」
スーッと上がる表示が7階を示した瞬間
「プツン」という音が御森くんから聞こえ
体が宙に浮いた
??
「御森くん、私は荷物じゃないですよ?」
「御森くん?なんで非常階段の方に向かっているんですか?」
「御森くん?御森くぃやぁああああああ!!!!!!!」
その後は、見事なものでした。
2人分の荷物と私を小脇に抱え3段飛ばしで非常階段を駆け抜ける御森くんは
ジェットコースターと言っても過言ではなかったでしょう…




