第55話 細海先輩と御森くんの1歩前進
「おはようございます、本日こちらの説明会を担当します。御森と申します!」
新幹線から降りて、電車を乗り継ぎ
現地到着した頃には、根性だけで動いている私と違い
本領発揮と言わんばかりに御森くんは元気なあいさつで説明会をスタートした。
「(体力温存の仮眠って意味ないのだろうか…)」
ひそかに打ちひしがれる私をよそに
「えー、実は初めて説明会を任せてもらい、とても緊張しています!僕も初挑戦なので遠慮なく質問してください、分からないことはあちらで待機している細海に即確認しますので!」
という出だしでクスクスと笑い声が広がり、場の空気が和らいだ
開始1分で、この空気を作ってしまえるのか…
「御森さん、ですか…初めてとは思えないくらい堂々としてますね」
説明会責任者の有馬さんがこそっと声をかけてくれる
「はい、今は基礎学習の途中ですが、説明会中心の業務に移行する予定です」
「うちの新人と同じ空気感で説明してもらえたのはラッキーだったかもですね…いや、しかしいつもの担当くんもヒビで済んで良かった」
〝全快した際は次の説明会でお待ちしてますよ、とお伝えください〟
穏やかな笑顔で言ってくださり普段からの信頼関係が見てとれた
「はい、そのように申し伝えます」
ここで私達がやらかす訳にいきませんね
改めて気合を入れ直した時だ
「トラブルなどで報告が遅れた際は何日を目処に対応すれば良いですか?」
「…3日だったと記憶してますが認識が不明瞭なので確認します!」
〝細海せんぱーい!!〟
口パクで呼ばれ早速の出番によしっ、と顔を上げ笑顔を貼り付ける
「御森に代わり回答いたします、基本ルールとしてはーーー」
私が担当する説明会とは違う
少し柔らかで温かい空気を肌で感じながら
経験だけで埋めることのできない強みを目の当たりにできた
「(教育係としても、1人の社会人としても収穫でしたね)」
御森くんの課題も浮き彫りになったことで
今後の方針も定まって良かった
「以上で説明会を終了いたします。後日、ご不明な点が出た場合はお配りした資料に記載した連絡先へお問合せください!」
元気な笑顔でスタートした彼の初ミッションは
元気な笑顔のまま終了し、賑やかな空気の中で説明会場の居室を後にした
「お疲れ様です」
「ひーーー緊張したぁーー」
余裕がないことを隠しもしない御森くんに
有馬さんも「お疲れ様でしたね」と笑ってくれる
「いえ、先輩には及びませんが精一杯やらせていただきました」
「うんうん伝わってましたよ、若いのに大したもんです」
その日の午後は付近に商業施設がないからと
ゲストルームで軽い食事をいただく流れになった
「細海先輩!!お茶すごく美味しんですけど!?」
「お弁当のお米も光ってます、お水がおいしんですね」
「あっははは、いやいやお褒めにあずかり光栄です。ところで」
有馬さんも一緒に名物のお漬物をつまみながら
「本日はこのままお帰りですか?」
と尋ねられた。
「いえ、ご挨拶をするお取引先へ行くので1泊してから弊社へ戻ります」
ケガをした社員の代わりに同じ地区のお取引先へ行ってからでは
この辺りはもう乗り継げる電車が無い
「この時期に2人分の部屋を確保できたんですか!それはラッキーでしたね!」
有馬さんが驚くのも無理はない
自然豊かなこの辺りは、夏になれば旅行に来る家族連れや
避暑に来る役員クラスの人たちにも人気なのだから
「はい、このビジネスホテルがたまたま空室だったので助かりました」
うまうま、と用意されたお弁当をほおばる御森くんを横に
有馬さんに本日の宿泊場所についてお伝えした。
「あーーーーー…こちらぁーですか...」
ホテルの名前を確認した有馬さんは、一瞬顔を強張らせたのち
「そうですね、まぁ、昔から噂は有りますけど、ここの子たちは塩じゃなくて味塩コショウとかでも対処できるらしいので、ね」
とよくわからないお返事に首を傾げた




