第52話 細海先輩と御森くんとタルタリストのこだわり
「細海先輩の休暇中の予定は、変わらず惰眠と映画ですか」
なんだこのセリフは、と思いつつ
今年入社したばかりの俺のために夏季休暇を合わせてもらったので
断られること前提でリモート人狼に誘ってみようと声をかけた。
「おおよそ変わらず惰眠と1日だけ映画の予定ですが、今年はタルタリストによるタルタル祭りを個人的に開催します」
「知らん単語で返ってきた」
知らん単語が二つほど混ざっていたが
タルタル祭りだけは聞き取れたぞ、偉いぞ俺!
「解説ほしいですか?」
「…はい、お願いします」
表情から“いったい何を言っているんだこの人は”と思っているのがばれたらしい
「今年は飛び石ではなく完全に連休で夏季休暇を取得したので、前日の晩に大量のタルタルソースを作り最終日まで好きなだけタルタルソース料理を食べるという個人の催しです」
いったい何を言っているんだこの人は…
「祭りって、参加者1名ですよね」
「主催者1名、参加者1名、併せて1名ですね」
この数か月、仕事を教えてもらう中で
細海先輩は小食ではあるが食に興味が無いタイプではないのは知っている
とは言え9連休という大型連休の間、本当にタルタルソースを食べ続けるというのか
正気の沙汰ではない
「ただ自家製タルタルソースを作るにあたり懸念がありましてね」
「懸念ですか?(やっぱり作っても食べきれなかったらもったいないですよね!)」
「ゆで玉子1個使うとタルタルソースじゃなくて玉子サラダになるじゃないですか」
「あーーーー…はい?」
「ゆで玉子1個使うとタルタルソースじゃなくて玉子サラ」
「聞こえてます聞こえてます!」
本気で9日間堪能する気だ、というのが今ので分かった。
「そんなこと言い出したらピクルスだって余っちゃいません?一瓶使いませんよね?」
「そこはクリアしてます。ピクルスと玉ねぎの代わりにらっきょを使います。残ったらっきょはカレーの時に食べれば良いし、玉ねぎを水にさらす手間も省けます」
“あとは、玉子の割合さえ何とかなれば完璧なんです”
苦虫を嚙み潰したような表情でそう語る細海先輩を前に
何故俺は細海先輩に休みの予定を聞いてしまったのだろう
俺が気にしなくても細海先輩が独自の価値観と行動力で休みを満喫することくらい
少し考えれば分かることだったと深く反省した。
「市販のタルタルソースも考えたんですができれば小さめのボールいっぱいに作ってみたいんです」
「必要な分だけ卵をレンジで調理する方法まで調べたんですが、やっぱり王道で作りたくてですね」
「ウズラのたまごで作るとか…」
細海先輩もしかして祭りが決まってからずっとタルタルソースのこと考えてたんじゃない?
凝り性の先輩が考えつくして未だ答えが出ない問題に
この俺が力になれるわけもないけど
「タルタルソース作る日の晩ご飯で、使う分だけ刻んで残りのゆで卵をそのまま食べちゃうとかしか俺には思い浮かばないっす。」
「はっ!!!!」
かくして、未曾有の危機にあったタルタル祭りは
俺の天才的な普通の発想で問題が解決した
そのご、祭りを救ったヒーローとして
主催者のタルタリストからカカオ80%のチョコレートが贈呈されたのだった。




