第50.5話 女性視点の御森くん
これはまずいやつかもしれない…
目についた木陰のベンチに座り
ハンカチで口元をおさえる。
確かに今日は少し暑いかな
そう思って飲み物もこまめに飲んでいたのに
どうもそれでは足りなかったらしい
暑さで回転が止まりそうな脳みそが
“ちょっと休んで治らなかったら救急車呼んでも良いのかな”
なんて、のんきなことを考えていると
「あの、大丈夫ですか?」
突然、男の人の声がして少し身構える
「え、あの、……はい、ちょっと気持ち悪くなっちゃって」
そう言うと、その人は私の顔をじっと見つめ
「ちょっと待っててください」と、どこかへ行ってしまった。
「(なんだってのよ)」
こちらはただでさえ気分が悪いというのに、無駄な力を使ってしまった。
アスファルトからの照り返しがやけに重い
ふぅ、と息を吐き目を閉じた時だ
「そこのコンビニで買ってきたやつなんで、安心して飲んでください」
さっきと同じ声に目を開けると、目の前にペットボトルが差し出される。
一瞬迷ったが、太陽の光に反射した水分がやけにおいしそうに見えて手を伸ばした。
「すみません、ありがとうございます…」
蓋を開けてもらったペットボトルに口をつけると
不思議とおいしく感じる、甘いのにしょっぱい味の飲み物だった。
「(なんだこれ、まずうま…経口補水液ってやつ?)」
飲んだことが無い味の冷たい液体がじわじわと体にしみこんでいく感覚が心地良い
「多分、脱水症状とか熱中症になりかけてるかもしれないんで、救急車呼びますか?」
と言われ、頭をひねった。
脱水症状?熱中症?
半分ほど飲み終えたところで、汗が薄っすら滲み出る感覚に
自分の体が熱を逃がせていなかったと気づいた。
「大丈夫です、少し休んでダメそうなら自分で電話できますし…」
さっきまでぼんやりしていた景色の輪郭がはっきり認識できるようになった瞬間
目の前の男性が随分と可愛らしく整った顔立ちだと認識して急に気恥ずかしさが前に出た。
「…飲み物代払いますね」
よく見たらポカリまで買ってきてくれたんだこの人、優しすぎんか?
「それは俺が勝手に買ってきたやつなんで結構ですよ」
そう言って、ニコッと笑った顔がまぶしすぎて
照れ隠しに思わず前髪を整える
今この人との縁が終わるのはあまりにも勿体ないと直感が走った。
「えっ、それは申し訳ないです。あ、じゃあせめて連絡先教えてください、お礼がしたくて」
我ながら、必死すぎたか?とも思ったが仕方ないじゃない。
だって、自分のピンチを助けてくれた優しい素敵な男性が現れたんだよ?
少しくらい頑張っても罰は当たらない
そう言うと彼はちょっとだけ困ったように眉を寄せる
そんな表情もかわいいってどういうこと!?
ちょっと待って。
私、今めちゃくちゃ運命の出会いしてない?
お願い神様、この出会いを私の恋に繋げて!
内心大盛り上がりの頭で、普段信じてもいないような神様にお願いした時だ
「失礼します。彼の職場のものですが、どうかされましたか」
いつの間にか私の目の前に見ず知らずの女の人が膝をついている、誰だこの人。
「細海先輩ぃ〜」
運命の人(仮)の声で“あ、本当に職場の方なんですね”と急激に頭が覚めていくのを感じる
すごい勢いで現実にひき戻してくるじゃん、神
もう少しときめき大事にしてくれても良くない?
気持ちがスーっと引いていく間に目の前の二人はなにやら情報の共有を終えたらしい。
「救急車に彼が同乗するのが不安なら同性の私が付き添います、どうされますか」
その目は真剣で、本当に私のことを心配してくれているのが伝わる
「いえ、実は飲み物をいただいたのにお礼を断られてしまって…」
そう、浮かれちゃったけど、お礼がしたいしこのままじゃ悪いと思ったのは本当。
「あー… この子は困っている人を見かけると放っておけないので。気にしなくて大丈夫ですよ」
その言葉に、あぁ誰にでも優しいタイプかぁ…と何となく最後の希望がしぼんだ気がした。
「あ、それなら…すみません、ありがとうございます」
言葉で感謝を伝えただけで、随分と嬉しそうな顔の彼に納得しつつ
二人の背中を見送る。
「背も高いのかよ…反則じゃん」
随分と回復した体は次の水分を欲してきたので
ポカリスエットを自分で開けてグッとあおった
太陽がまぶしい、夏はまだ、始まったばかりだ。




