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細海先輩と御森くん  作者: 紙屋川トカゲ
2章 本格始動
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55/82

第50話 細海先輩と御森くんの苦手な事

「(いい買い物ができたんでない?)」


夏らしい日差しになりつつある今日この頃

せっかくなので社会人1年目の夏服を探しに1人でフラッと街に出る。


この時期、どうしても汗の問題があるから色や布にはめちゃくちゃ拘って綺麗な夏色サマーニットを1枚買い足した。


「(手持ちの白シャツとあわせても良いし、冷感素材だから汗染み問題で着れてないグレーとあわせても…)」


ルンルンと効果音を漂わせながら歩いていると

目の端に気になる存在を見つけてしまった。


「あの、大丈夫ですか?」

「え、あの、……はい、ちょっと気持ち悪くなっちゃって」


その女性は、道の端にあるベンチでどこか気分を悪そうに口を抑えて座っていて、心なしか顔色が悪い気がする


そして何より


「ちょっと待っててください」


この暑さの中、全然汗をかいてなかった

多分だけど熱中症になりかけてる気がする


急いで近くのコンビニに走ると

ポカリと経口補水液を持って彼女に渡した。


「すみません、ありがとうございます…」

「多分、脱水症状とか熱中症になりかけてるかもしれないんで、救急車呼びますか?」

「大丈夫です、少し休んでダメそうなら自分で電話できますし…飲み物代払いますね」


まだ顔色が良くないけど、本人が良いって言うなら大丈夫だろう


「それは俺が勝手に買ってきたやつなんで結構ですよ」

そう言ってその場から離れようとした時だ


「えっ、それは申し訳ないです。あ、じゃあせめて連絡先教えてください、お礼がしたくて」


その言葉に

あーどうしよう、と思った。

何が正解の回答になるだろう…と少し思考が固まった時だ


「ご馳走様でしたー」


聞き覚えのある声が耳を掠め

声のする方を見る


「(見覚えがない姿だけど!!あれは絶対に細海先輩!!!!)」


眼鏡もかけてないし、前髪も目にかかってないし

見たこと無いような服装してるけど視力と聴覚には自信がある、聞き間違えるはずない!!


「(気付いてくださーい)」


俺の念が届いたのか、一瞬こっちをチラッと見たが

〝職場の後輩の休日、しかも女性と一緒、ここはコンプライアンス的にスルーが正解〟

と言う心の声が聞こえた。

このままではマズい、俺は絶対に細海先輩をこの状況に巻き込んで事態を脱したい


「(一か八か細海先輩の知識量にかける!!)」


靴底で地面を「・・・---・・・」と何度か叩く。

――SOSだ。


これは俺が小学生の時にモールス信号ってかっこいい

という理由だけで覚えた唯一のワードだ


頼む、人生で初めてモールス信号を覚えて良かったと思わせてくれ!!!


「失礼します。彼の職場のものですが、どうかされましたか」


気がつくと、女性の前に膝をつき

同じ目線で話しかける細海先輩が居た。


「細海先輩ぃ〜」

「御森くん、この方とても顔色が悪いですけど119した方が良いですか」

「いえ、様子を見てご自身でされると」


〝ふむ〟と再度、女性の方を向くと


「救急車に彼が同乗するのが不安なら同性の私が付き添います、どうされますか」


その言葉に女性は

「いえ、実は飲み物をいただいたのにお礼を断られてしまって…」

「あー… この子は困っている人を見かけると放っておけないので。気にしなくて大丈夫ですよ」

「あ、それなら…すみません、ありがとうございます」


そんな会話を目の前に〝細海先輩が気付いてくれて良かった〟と胸を撫で下ろし

ようやく、俺はその場を後にした。


「細海先輩!ありがとうございます!」

「SOSなんて、いったい何かと思いました」

「すみません。でも、断るの苦手なんですよね」


頭を掻きながらそう言うと


「意外ですね、君くらいコミュ力が高ければ嫌味なく断れるでしょう」


と、俺を見上げる。


「えっと……昔から女性に誤解されやすくて……」

「成る程、善意と好意は近い位置にありますもんね」


自意識過剰みたいで出来ればあまり話したくない

もにょもにょ気まずそうにしてる俺に


「ところで御森くん、さっき私が食べてきたラーメン屋さんの夏季限定ゆず塩鶏白湯とても美味しかったですよ」


〝おすすめです〟


そう言ってガラッと話題を変えてくれた。


「マジっすか!じゃあ今度行ってみます!」


本当に、俺の教育係がこの人で良かったなぁ、と思った。

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