第40話 細海先輩と御森くんと頑張りすぎの代償(後編)
「細海さんの説明会、どうでしたか?」
トイレを済ませてルンルンで若間さんとエントランスに向かう途中
ニコリと笑顔でそう尋ねられ「そうですね」と言葉を選ぶ
「いつものテンションと違うので最初は驚きましたけど、すごく分かりやすかったです。」
笑顔でシステムの説明をする細海先輩は、大きなプロジェクターの前でもしっかりとした存在感で
良く通る声は信頼感が抜群のシステムサポートって感じだ
「凄いですよね、僕は御社へ訪問しているから細海さんって分かりますけど、弊社で細海さんって今日説明会に来た〝彼女〟のことなので…どうしても〝彼女〟に今年も説明会を!ってなっちゃうんですよ」
申し訳なさそうに話す若間さんに
「説明会バージョンの細海先輩“ものすごく好かれてる学校の先生”みたいでしたもんね」と笑うと
「確かに」と笑って返してくれた!
え~本当に若間さん空気感が最高すぎる!!ずっと推す!!
結局、説明会の間はどの鈴木さんも佐藤さんも細海先輩に積極的に質問したり確認したりで
皆さん仕事熱心だ、きっと部長の言った「鈴木さんと佐藤さん」もそう言う意味だったんだろう
「(だったら俺の護衛任務は帰りの荷物持ちとかして、少しでも細海先輩の体力を守ることだな)」
若間さんとの会話に浮かれながら部長からの任務も理解できた!と、エントランスに到着した時だ
すらりとした長身の女性が
「今年もほんっっとぅにお疲れ様です!!」と細海先輩の手を握っているシーンに遭遇した
「そんなそんな、こちらこそ毎年呼んでいただいて、勉強させていただいてます!鈴木さんのお元気そうな顔が見れてうれしいです」
「あぁ、でも相変わらず手先が冷えてらっしゃって…細海さんさえ良ければ私の通っているジムを紹介しますよ?血行促進に私と一緒に通いませんか?」
「いえ、今は仕事に集中したくて…お気持ちだけで!」
そんな会話を、細海先輩がジムに通いだしたら本当に日に日に弱っていきそうだな
と思った時だ
「鈴木、いきなりジムは細海さんの生活リズムに影響が出るだろ?細海さん、もしよろしければおすすめのプロテインがあるので食生活にプラスワンから試してみませんか?」
と、しっかりとした体格の男性が提案する
「ふふふ、佐藤さん相変わらず筋トレ頑張ってらっしゃるんですね!でも最近は仕事の合間の1食1食が毎日の楽しみで、プロテインはまた本格的にボディメイクしたくなった際に佐藤さんのこと頼らせてもらいます」
ここまでの会話を、よく噓をつかずに説明会バージョンの細海先輩で回答できるな~、と感心する
本当にこの会社の鈴木さんと佐藤さんはみんな細海先輩が好きなんだなぁ~
「はーい、鈴木さん 佐藤くん!細海さんはそろそろお帰りなので業務に戻りましょー」
ほんわかしながらやり取りを見ていた俺の耳に若間さんの鶴の一声が鳴り響く
「若間先輩!…そちらの方は?」
女性の鈴木さんが俺に気付き、急いで顔を引き締めた
「細海の後輩の御森と申します!今回は説明会の研修にお邪魔させていただきました!」
と頭を下げ
「実はさっきの会話聞いてて…自分も体を動かすのが好きなのでお勧めのプロテインめっちゃ興味あります!」
そう言うと男性の佐藤さんが嬉しそうに「はじめまして佐藤です!御森さんはスポーツとかされるんですか?」と話しはじめた視界の端で細海先輩の目がキラッと光り「(流れを変えるなら今しかない)」という幻聴が聞こえた気がした直後
「実は御社の説明会をゆくゆく御森へ引き継ごうと考えております」
と切り出した。
「えっ……え?あの、それって、細海さんいらっしゃらなくなるんですか?」
見るからに残念そうな鈴木さんの手を握り返し
「御社は社風も快活で社員の皆様も行動力のある素晴らしい方ばかりです。私が初めて教育を担当した御森を、是非、一緒に育てていただきたいのです」
「お姉さむぁっっんんん、細海さんっ!!」
なんか今細海先輩のこと「お姉さま」って言いかけた?
よく分からないが、今後俺は若間さん在籍のこのお会社で説明会の担当を引き継ぐらしい
だったら、距離を縮めるなら早いほうが良いよね?
「あの、今後お世話になるうえで信頼を得られた際はどんなジムがあるのかご教示ください!仕事帰りや休みの日にジムに行くって憧れてたので!」
「おねっ、細海さんの後輩というだけで信頼できます!!エアードロップは利用できますか?」
あれよあれよと取引先の先輩方とのご縁ができ
「本当にめっちゃ雰囲気の良い会社でしたね!」と
帰りのコインロッカーで靴を履き替える細海先輩に言うと
「御森くん、ナイスディフェンスでした―――ファインプレーです!これはご褒美です。」
と言ってカカオ80%のチョコをくれた
「なんのご褒美か分からないし苦いチョコは苦手ですぅ~」
「まぁまぁ善意も密度が高いと窒息するんですよ」
と言って前髪を崩す細海先輩は、いつも俺の席の隣にいる細海先輩に戻っていた。




