第35話 細海先輩と御森くんと少年の日の思い出
「君、後輩らしからぬ過保護を細海ちゃんに発揮するよねぇ?」
物部先輩の声に振り向く
「やぁ〜…まぁ、自覚はあります」と曖昧に笑った。
その日、細海先輩が珍しくお弁当を持ってきていないとつぶやいた
正確には持ってこれなかったらしい
「夜のルーティンが少しズレてお弁当作る体力が残らなかったんですよ」
「じゃあ社食ですか?」
そう聞けば
「静かに食べたいからコンビニでなんか買ってきてデスクで食べるつもりです」という言葉に周りの先輩達が声を揃えて
「だったら早めにコンビニ行ってきたら?」と促したのだが
「いえいえ、そんな、まだ業務中なのに申し訳ないですよ!」と細海先輩がお断りしようとした時だ
「御森くーん聞いて~?細海さんね、前にも同じ事があったんだけどお昼の人混みに負けてゼリー飲料だけ買ってきて食事終わらせてたんだよ~?」
と、告げ口のように事情を知っている先輩が細海先輩に聞こえるように俺に耳打ちをした。
明らかに“まずい、御森くんに知られた”と目をそらすので全力で周りの空気に乗る。
「細海先輩?」
「……なんでしょう」
「俺の事は心配いりませんし、業務が落ち着いてるの俺でも分かるんですけど~?」
ジト…と見つめそう言うと「その目やめてください!行きます!!ありがたく行かせていただきます!!」
と財布を片手に「すみません、行ってきます」と居室を出て行った。
周りの先輩達も「細海さん、こういう時に御森くんの言う事は聞いてくれるから安心」なんて言われていた時に冒頭の物部先輩のセリフに戻る
「実は俺、一生忘れられない、後悔の記憶があるんですよ…物部先輩、聞いてくれますか?」
「それって長くなりそう?」
「あれはまだ、俺が完全にノリだけで生きていた小学2年生の春のことです…」
「あ、ダメだ、回想に入った、私の声届いてないや」
そう、今思い出しても悔しさがこみ上げるあの日の出来事…
「昔、両親に連れられて保護犬カフェに行ったことがあるんです。俺はそこでゲージの隅で丸まってるシーズーに出会いました。」
「伸びた前髪の隙間からチラっと目が合った瞬間、どうしてもその子を迎えたくて、絶対にお世話ちゃんとするって両親のことを数日説得しました。」
「俺の熱意と勢いに負けて、両親からも承諾を得て、自分でも色々調べて、子供ながらに貯めてたお小遣いとかもめちゃくちゃ確認して」
「いざ迎えに行こうとカフェに電話したら〝もう、別のご家族の元に引き取られました〟って…」
俺の人生で“後悔”という言葉をこれほど強く感じた日はない
その子はきっと新しい家族のもとで幸せに暮らしただろうけど
俺の最高の相棒として仲良くなれるのを真剣に考えていたから暫く引きずった。
「そっか…それはちょっと切ないね?それと細海ちゃんとなんの関係が…」
「なんか細海先輩ってあの時のシーズーに似てるんですよね~、こう、前髪と眼鏡の隙間から覗く目がいろんなことを諦めてるっぽい感じとか」
“へぇ”と物部先輩は少し真顔で相槌を打ったあと
「成る程、御森くんは細海ちゃんにあの日のシーズーを重ねているわけかぁ…そうかそうか、つまり君はそんなやつなんだなぁ〜」と返事をしてくれた。
「含みのある言い方めっちゃ気になるけど、そんな感じです!」
そう、おせっかいでも正しいと思ったら行動は早い方が良い
1度でも損なった事は二度と元には戻らないから
なるべく後悔をしないように生きるのが俺の教訓である
そんな俺の横で「お互いに自分を飼い主と思っているゴールデンレトリバー(ゴリラ)とシーズーかぁ…」と物部先輩がよくわからないセリフを呟いていた




