第31話 細海先輩と御森くんと異次元圧縮炭水化物
「細海先輩!これ食べてください!!!!」
半泣きというか擬音を使えばおそらくペショペショと言う音がしそうな目で御森くんがおにぎり渡してきた
事の発端は着てると満足にご飯が食べられないと言う理由で普段は封印しているスカートを身につけた日だ
時々、自分の事を特別扱いしてあげたくなる時に着る服というのが存在する
その日そのスカートで出社した
上から大きめのジャケットを羽織れば腹回りは見えないし、こっそりと自己満足のための行為だったが、終業後の帰り道にジャケットの前ボタンを外してポケットに手を入れ歩いてるところを彼に見つかり声をかけられた際、コルセットで極限まで締め付け腹回りがタイトな状態の私を見て「細海先輩の内臓が…」と言葉を失っていた
そんな事があっての本日、お昼ご飯を食べようと思った私に最初の台詞と共に大きなおにぎりが差し出されたと言う訳だ
「………ありがとう、ございます…」
色々考えたが彼は心配して作ってくれたのだろう、人の親切を無碍にするのは苦手だ
手を差し出し、おにぎりを受け取った
のだが…
「なっ!?」
渡された瞬間ズンッ、と言う効果音と共に手が数センチ下がるのを途中でなんとか耐える、明らかにおにぎりの重さでは無いそれは彼が作ったに相応しく、花で例えるなら咲き誇った芍薬ほどの大きさであったが、それでもサイズとしては常識的な範囲、いや少し大きいくらいかな
だというのに、この重さはなんですか?
「俺もう本当に心配で…ちゃんと食べてください」
病気の飼い主を見る犬のような目でそう言われ、ツーッと冷や汗が伝う
「や、今日もお弁当がありますし、帰ってからいただこうかなぁ…と」
様子を見ながらそう言った瞬間、御森くんの目から涙の膜と共に「心配」の文字が浮かび上がるのを見て「いただきます…」と覚悟を決め小さくおにぎりの頂点に齧り付いた
「(おにぎりってこんな食べ応えがあっただろうか)」
ほんの一齧りだったはずの米が口の中で明らかに増殖している感覚に恐怖を覚える
ひたすら飲み込めるレベルになるまで咀嚼した、弾力が異常だ、一噛みが重い、顎が痛くなってきた、食べてるだけなのに恐ろしく疲労が溜まっていく
半ば命の危機を感じた私は意を決してタンブラーを手に取り少しずつ水分と共に膨れ上がった米を胃に流し込む
口の中の物が全て無くなったのを確認し、おにぎりを見るとほぼ齧る前と変わらない姿で私の手に握られていた
「残りはお家で食べます…」
ソッと包みを戻し自分のお弁当を食べ始める私に「ちゃんと!ちゃんと食べてくださいね!!?絶対ですよ!
と訴えられ、細かく分割後に冷凍保存を施したおにぎりもとい圧縮米を食べ切ったのは約1ヶ月後のことだった




