第30話 細海先輩と御森くんと悪夢の話
「俺の社員証になにか付いてます?」
朝から俺の方を見るたび
確認するようにチラっと目線を下げる細海先輩に思い切って聞いてみた。
午前中には気づいていたけど
一時的なものかな、と自分を納得させ業務に取り組んでいたわけだが
社員証のあたりを確認して安心したように仕事に戻る姿に好奇心が勝った。
「すみません、不躾でしたね…実は昨日の夢が原因なんですけど」
と、申し訳なさそうに話し始める。
「この世界から“御”の一字が消える夢を見たんです」
「壮大すぎません?」
細海先輩について数か月、未だにこの人のメカニズムが理解できない。
「基本的に悪夢しか見ないのですが、ごく稀に創作物として非常に優秀な内容なことがあって、昨日はそのパターンでした」
「寝てる時くらい楽しい夢見てくださいよ」
細海先輩、流石にかわいそうっす…
「私は“御”の文字を持つ者の先輩として、なぜ“御”の文字が世界から消えたのか探す役割だったんです」
「なんか、すみません」
なるほど、だから社員証の名前を見て安心した顔をしていたのか
「その夢、結局どうなるんですか?途中で覚めちゃった感じですか?」
普通に続きが気になって、行く末を聞いてみる。
「はい、なぜ消えたのかを探るうちに“御”の文字が生まれたとされる集落を突き止めた私はそこへ向かいます」
「集落にはお年寄りが多く皆さん優しく迎えてくれました」
「そこで事情を説明し、古い文献を読み漁り、ついに世界最初の“御”の文字が書かれたと思われるページを見つけました」
「既に夜もふけていたので、集落に泊めてもらうことになったのですが」
流れがあまりにも不穏すぎる
「その夜、集落全体は静かなのに人の気配が動き続けていることに気づきます」
「そっとふすまの隙間から外を見ると、手に刃物を持った集落の皆さんが」
い、いやぁ~~~!!!ホラーになってきた!!聞くんじゃなかったぁ!!
内心、後悔しつつ涙目になりそうなのをグっとこらえて最後まで聞く覚悟を決める
「このままでは消えた文字の秘密ごと葬られると直感した私は、どこからともなく気づいた隠し通路に逃げ込み、集落の外を目指すところで目が覚めました。」
「無事でよかったぁ」
悪夢の顛末に胸を撫でおろす。
「じゃあ、最後まで見ていたら細海先輩は消えた“御”を見つけるヒントを持ち帰った英雄でしたね!」
「いえ、あのまま捕まってバッドエンドでしょう」
「だからぁ、楽しい夢みてくださいって!!」
ははは、と笑う細海先輩に気になる事を聞いてみる
「そういえば〝御〟の文字が消えた世界の俺はなんて呼ばれてたんですか?」
やっぱり〝森くん〟なのかな、少し緊張しながら回答を待っていると
「ー森くんです。」
という、聞きなれない言葉に「はい?」と間抜けな声が出る
「ー(ハイフン)森くんと呼ばれてました」
申し訳なさそうに
可哀想なものを見るような目で真っ直ぐ俺を見つめてそう言うと
チラッと社員証を見て、安心したように細海先輩は業務に戻る
細海先輩の夢の中の俺!!めっちゃかわいそう!!!!




