第22話 細海先輩と御森くんと虹の彼方に
その日、気圧の影響で恐ろしい睡魔と戦いながら業務をこなし
何とか就業時刻を迎えたことに安心し、速やかにエントランスへ向かうと
先に退勤したはずの御森くんが呆然と立ち尽くしていた。
「何してるんですか」
後ろから声をかけると、どこか元気なさげに振り向き
「細海先輩、雨がぁ~」と悲しそうな声を発した、なるほど
「なんで傘持って来なかったんですか」
「まだ傘持ってないって言ってないじゃないですか!」
いや君、明らかに持ってなくて困っている雰囲気だったでしょう
それでも立ち尽くしていた別の理由があるかもしれない、と思い
「じゃあどうしたんです?」と聞けば「折り畳み傘忘れて困ってます」と返ってきた
今のは一体なんの時間だったんだ…
「天気予報では、あと1時間くらいで小雨になるって言ってましたよ」
サムズアップをしてそう言うと、鞄から折り畳み傘を出し「では」と帰ろうとした時だ
「駅までいれてください」
と、控えめに服の裾をつかまれる
「無理です、私、パーソナルスペース広いタイプなので」
「俺は距離を縮めるなら早い方が良いってタイプです!!」
珍しく食い下がるので理由を聞くと
“好きな配信者の配信に間に合うように帰りたい”とのこと、なるほど
ふむ、とスマホを見ると時刻は18時22分
「30分までに出れれば配信に間に合いますか?」という問いに
「?はい」と返事が返ってきた
「君は本当に運が良いですね」
「あの、どういうことで」
御森くんが意味を確認しようとした時だ
「あれ、細海さんに御森くんじゃないですか」
爽やかでよく通る声に一瞬にして意識を持っていかれる
「若間さん!!お疲れ様です!」
「はい、お疲れ様です」
キャーという声が聞こえそうな御森くんを横目にいそいそと傘をさした
「お疲れ様です若間さん、私たちも今から出るので駅までご一緒しても良いですか」
そう、本日は若間さんがいらしていたのだ
流石の若間さんとて、雨の予報を天気にすることはできない、しかしながら…
「細海さんから一緒に帰ろうと言われるなんてレアですね」
ふわりと笑う姿に「でも傘が…」と言いかけた御森くんが唐突に口をつぐんだ
ファーという神々しい空耳とともに若間さんの周囲だけ雨が避け始めたのだ
「御森くん、若間さんの半径1.3メートルから出ないようについていってください、雨に当たらずに駅まで辿り着けます」
雨の中、傘をさして歩きだす私の言葉に、どうも納得がいってないようで
「いや、あの、どういうことですか!?」と困惑しながら若間さんの横を歩く
「若間さんは天候に恵まれているんです」
「あっははは、僕のことを傘代わり使おうって考えるのは細海さんくらいですよ」
何の疑問もなく繰り広げられる会話に「わからない、何もわからないよぉ」と
小さな泣き言が聞こえる
「御森くんがそうなるのもしたかないですね…でも僕はこの能力で日照り続きのダムを雨で満たしたこともあるんですよ?」
突然の若間さんの武勇伝に
“マジですか?”という表情をする御森くんだったが
「冗談ですっ」とウィンクを返され手で顔を覆う
「御森くん、さすがの若間さんも雨は降らせられないようです」
そんな私にいつものように若間さんは楽しそうに微笑んだ
「いや本当にどういう法則なんですか!!?」
激しい雨音の中でも、御森くんのツッコミだけはよく通った




